ドラマの明暗を分けるもの~『奥様は、取り扱い注意』vs『民衆の敵』の場合~

各ドラマのホームページから作成

視聴者はドラマを「見続けるか」「止めるか」、どう決めているのだろうか。

秋クールの中では、2つのドラマが初回はほぼ互角だったにもかかわらず、第5話までに明暗がはっきり分かれた。『奥様は、取り扱い注意』(以後『トリチュウ』)と『民衆の敵~世の中おかしくないですか!?~』だ。

データニュース社「テレビウォッチャー」は、関東でモニター2400人のテレビ視聴動向を追っている。これによればライブあるいは録画で初回を見た人は、『トリチュウ』176人・『民衆の敵』173人とほぼ同数だった。ビデオリサーチ社の世帯視聴率では、前者11.4%・後者9.0%と少し開きが生じたが、『民衆の敵』の放送時間が30分繰り下げになった不運があってのことで、両者には決定的な差はなかった。

ところが第5話に接触した人は、前者177人・後者116人と3:2ほどの差。世帯視聴率でも、前者14.5%・後者6.5%と倍以上の差となった。

両ドラマの違いはどこで生じたのか。各種データから分析してみた。

両ドラマの概要

『トリチュウ』の主演は綾瀬はるか。夫役に西島秀俊、ママ友に広末涼子と本田翼をキャストした。女性を主なターゲットとする日本テレビの水10枠らしく、F1F2(女20~49歳)に好感度の高い俳優を揃えて来た。

ワケありの人生をやり直し、人も羨むちょっとセレブな専業主婦となった主人公。一見幸せに見える主婦たちが抱えるトラブルに首を突っ込む中で、ご近所の主婦たちとの友情や旦那の存在により、本当の優しさと温かさを知って行く物語のようだ。

『民衆の敵』の主演は篠原涼子。同僚議員役に高橋一生・古田新太・前田敦子・千葉雄大、夫役に田中圭、友人に石田ゆり子を配すなど、F1中心に幅広い層に届くよう、視聴率を強く意識したキャスティングだ。

フジ月9としては、テーマがかなりユニーク。「待機児童」「介護」「生活保護」など、さまざまな社会問題が顕在化する時代に、新米ママさん市議会議員を主人公に、声なき市民と向き合いながら、市政にはびこる悪や社会で起きている問題を、素人目線・女性目線でぶった斬っていく物語だ。

初回の実績

 

両ドラマの初回視聴率は11.4%と9.0%。野球中継の影響で30分遅れて始まったために、録画再生に回った人が多かったための差だ。「テレビウォッチャー」のカウントでは、ライブ視聴とタイムシフト視聴の合計人数はほとんど同じ数だった。

そもそも主演の綾瀬はるかと篠原涼子は、共に数字を持つ大スター。キャスティングで見ても、両ドラマに遜色はない印象だった。

例えば日テレ×綾瀬はるかでは、好成績を幾つも残してきた。

2007年夏の『ホタルノヒカリ』の平均視聴率は13.6%。10年夏『ホタルノヒカリ2』が15.2%、14年秋の『きょうは会社休みます。』で16%。堅調な数字といえよう。

一方フジ×篠原涼子も負けてない。2006年の『アンフェア』が15.4%。ヒロインを演じた10年春『月の恋人~Moon Lovers~』は16.8%。13年春『ラスト シンデレラ』で15.2%。他局では07年冬の日テレ『ハケンの品格』が20.2%、10年秋『黄金の豚』13.5%と、やはり成果を残している。

ただしフジでは直近の15年秋『オトナ女子』が8.7%と一桁に留まった。その意味で今回の『民衆の敵』がどうなるか、注目を集めていた。

初回から明暗

両ドラマ2話以降の視聴率推移は、『トリチュウ』が右肩上がり基調。第5話で14.5%、直近の第9話は13.6%と好調を維持している。一方『民衆の敵』は右肩下がり基調。第4話以降、7.6%→6.9%→6.5%とじり貧が続いている。

画像

両者明暗の理由は、実は初回から散見された。まず実際に視聴した人の満足度だ。

「テレビウォッチャー」が調べる『トリチュウ』初回の満足度は3.72。通常連続ドラマの初回は低くなりがちだが、初回からドラマの平均を上回って来た。一方『民衆の敵』の初回は3.50。平均をかなり下回った。

初回の明暗は、ビデオリサーチ社が去年10月から調べ始めたタイムシフト視聴にも表れている。『トリチュウ』初回は11.2%で、全ドラマの中でトップ。対する『民衆の敵』が7.3%、両者の差は3.9%で、ライブ視聴率の差2.4%より1.6倍以上大きくなった。『民衆の敵』では、録画はしたものの評判を聞いて再生しなかった人が多かったのかも知れない。

自分の自由になる時間にじっくり見たいドラマとしては、『トリチュウ』の方が上だったと言えよう。

「テレビウォッチャー」モニターの声にも両者の差が初回から見えている。

『トリチュウ』をライブで視聴したF1F2の総数は57人で、『民衆の敵』より9人多い。この層の満足度も3.77対3.49で『トリチュウ』が大きく上回った。

コアなファン数は大差なし

「面白い。綾瀬はるか好きです」女31歳(満足度5・次回絶対見る)

「綾瀬さんのアクションシーンが新鮮」女47歳(満足度4・絶対見る)

「海外ドラマのような脚本が良い」女39歳(満足度5・絶対見る)

「絶対負けないヒロインが綾瀬はるかに合ってます」女47歳(満足度5・なるべく見る)

「出演者といい今期最高ドラマかも」女52歳(満足度5・絶対見る)

以上は初回から高く評価した人々だが、全員7話まで全話を見続けている。

実は両ドラマで5話まで全てを見た人の数は変わらない。つまりドラマにハマった“コアなファン”の数では、両方とも良い勝負だったのである。

新規視聴者で大差

では5話までに大差がついたのは、どの部分なのか。

画像

図にある通り、2話以降で新たに見始める人の数が全く違う。例えば2~5話までで、途中から見始めた人の数は144人対82人。ダブルスコアに近い。

実は近年のドラマでは、初回以降の評判がSNSや口コミなどで拡散し、録画していなくとも見逃しサービスや違法サイトで遡って見る人が少なくない。結果として、途中から見始める人が統計上も一定数出現する。

つまり途中から見始める人の数は、ドラマの評判を反映している可能性がある。例えば『トリチュウ』では、第8話でも2400人中10人が新たに見始めている。『ドクターX』では第5話で10人、『コウノドリ』では第5話で6人しかいなかった。『トリチュウ』が如何に息長く新規視聴者を獲得しているかがわかる。

“時々見る”視聴者数でも大差

現代人は忙しい。都合がつがず途中を見落とす人はかなりの数に上る。

新規視聴者数に加え両ドラマで大きな差がついたのは、全話ではないが見られる時に見る“時々見る”視聴者数だった。第3話時点では、47人対30人。第4話時点では、85人対49人。第5話時点では、82人対41人。やはりダブルスコアになっていた。

では初回でほぼ同数だった視聴者の中で、後に『民衆の敵』の視聴を止めた人々は何を感じていたのか。

「扱う題材が選挙というのは、ちょっとハードルが高い」女32歳(満足度3・次回なるべく見る・4話で脱落)

「少し説教くさい」女41歳(満足度3・絶対見る・3話で脱落)

「口先だけで何もしないで偉そうな議員に、バシッと色々言っている主人公の姿が良かった」女31歳(満足度3・なるべく見る・3話で脱落)

「突っ込み所満載でドン引きな内容」女39歳(満足度1・見るかも知れない・2話で脱落)

「待機児童」「介護」「生活保護」など、本来ならF1F2が“自分事”として受け止められそうな問題だが、“新米ママさん市議会議員が主人公”、市政にはびこる悪や社会で起きている問題を、“素人目線・女性目線でぶった斬っていく”展開が、実際に見てみると違和感があったという視聴者がかなりいたようだ。結果として、ライブあるいは録画再生で見た人の数が、初回173人をピークに、162人→135人→140人→116人と右肩下がりになってしまった。

視聴者を惹きつける要因

キャスティングやテーマでは遜色なく、初回に集めた視聴者数もほぼ同数だった両ドラマ。

『民衆の敵~世の中おかしくないですか!?~』は、視聴者に「(ドラマの設定や展開が)おかしくないですか」といった違和感を持たせてしまった側面があり、脱落者が続出した。

一方『奥様は、取り扱い注意』は、綾瀬はるかのアクションが話題となった。F1F2にとっては、結婚生活の中での“夫婦関係の悩み”が散見され、自分事として関心を集めた。さらに綾瀬はるかが夫を誘惑する“ちょいエロ”なサービスシーンもあり、男性にも注目された。ただし夫婦一緒に見づらかったのか、タイムシフト視聴が『ドクターX』など他を抑えて1位になっている。

こうした“ちょっとした要因”の積み重ねが、第5話まででの両ドラマの大差につながったようだ。しかも『トリチュウ』では、ここ2~3話で夫(西島秀俊)の素性が明らかになり始め、一段と視聴率を上げ始めている。

テーマ・脚本・演出・役者・演技などの総合的な組み合わせで、一つの世界観が形成されるドラマ。その組み合わせのちょっとした違いが、評価としては大きな違いにつながっているようだ。両ドラマを分析すると、ドラマの奥深さを改めて感じさせられる。