視聴者が“必ず見る”と答えるドラマの条件~『陸王』『ドクターX』『コウノドリ』等の分析から~

視聴者はテレビ番組にいろいろな要素を求めている。

「感動」「ためになる」「笑い」などだが、実は「暇つぶし」や「慰安」というニーズも根強い。80年代以降バラエティ番組が増え、高い視聴率を獲るようになったのも、この「暇つぶし」「慰安」という側面が大きくものを言っていた。

ところがインターネットやスマホが普及し、これらの要素はテレビの専売特許ではなくなった。“ジリ貧の視聴率”“若年層のテレビ離れ”には、こうした背景がある。

それでも強く視聴者に訴求する番組がある。一つがドラマだ。

もちろんドラマにもいろんなタイプがあるが、訴求力の強さは視聴率だけでなく、例えばシリーズドラマの全話を見る人の数や比率で図ることができる。

“必ず見る”ドラマ

この秋の1クール連続ドラマでは、視聴率1位は『ドクターX』。7話までの平均20.04%は断トツのトップだ。

2位は『陸王』。5話まで放送され、平均は15.06%となっている。

3位は8話平均12.33%の『奥様は、取り扱い注意』。

4位は6話平均12.01%の『コウノドリ』が続いている。

以上のように量的評価で見ると、『ドクターX』が最も多くの視聴者に届いているのは明白だ。

しかし視聴者がドラマにハマっている度合いとなると、話はちょっと異なる。

冒頭の図の通り、見始めてから5話までを全てリアルタイムかタイムシフトで見ている人の絶対数では、わずかな差だが『陸王』が『ドクターX』を上回っている。

しかも1話でも見た人を分母に、見始めてから5話までを全部見た人の比率で比べると、『陸王』が46.8%で首位に躍り出る(注)

実はドラマを全部見る人は必ずしも多くない。途中で時間の都合が合わずに見逃す人、毎回必ず見るほどは強く惹かれていない人が多数派だからだ。

ところが『陸王』の場合、半分近い視聴者が見始めた後、欠かさず見続けている。かなり稀なケースと言えよう。

注:データニュース社「テレビウォッチャー」で関東2400人が分母。初回・2回・3回を見た人々を分母に、初回から5話まで全話・2回から5話まで全話・3回から5話まで全話を見た人を分子として計算。

高い満足度

前提には満足度がある。

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ドラマの満足度の平均は3.6~3.7あたりとなるが、今回の比較では『奥様は、取り扱い注意』がほぼ平均値。綾瀬はるかのアクションと大人の色気が売り。スカッと爽快感と魅惑的な世界が見所でまずまずの視聴率を獲得している。ただし気軽に見やすいドラマではあるものの、高い満足度とはなっていない。

『コウノドリ』は3.84から4.19とかなり高い満足度となっている。ただし数値は乱高下している。1話完結の連続ドラマゆえ、回毎のテーマやストーリー展開で視聴者の好みが異なり、数字が大きくブレているようだ。

その意味では『ドクターX』も似ている。視聴率は断トツに高いが、満足度では4.0を超えたことはない。やはり1話完結であること、また5シリーズ目となっている点が影響し始めている。

「なんとなく毎回見てしまう」女36歳(満足度2・次回なるべく見る)

「流石にマンネリだが、役者の巧さで何とか持ちこたえている感じ」男49歳(満足度3・なるべく見る)

「大門さんがカッコイイですが、これも見飽きたかな」女59歳(満足度2・見るかも知れない)

見れば面白いが、繰り返される同じパターンに、“何としてでも見たい”というワクワク感がなくなってきているようだ。“毎回必ず見る”という熱意に欠け始めている。

これらと比較すると『陸王』の満足度は凄い。

2話で4.0を超え、4話で4.1、5話では4.2を超えている。しかも一度も下がったことがない。これは昨秋大ブレークした『逃げるは恥だが役に立つ』をも上回るペースである。如何に強烈に、視聴者を惹きつけているかがわかる。

万人を動かすセリフ

『陸王』の高い満足度と全話視聴者の数の多さは、やはりドラマの出来が良いからだろう。

物語の展開・役者の演技・映像の撮り方などが多くの人に深く刺さっているからである。ただし筆者は、「1つのセリフが万人の心を動かす瞬間」で詳述したが、毎回見るものの心に刺さるセリフが工夫されている点も見逃せないと感じている。

こはぜ屋にとって親身に相談に乗ってくれたにもかかわらず、初回で左遷となってしまった坂本(風間俊介)。陸王の開発を辞めさせようとする大橋課長(馬場徹)が彼を怒鳴りつけた瞬間、主人公の宮沢(役所広司)は「マラソン足袋の開発を続ける」と宣言し、「新事業を提案し、真剣に考えて手を貸してくれた同士である坂本を馬鹿にするのは止めて頂きたい」と大橋を一喝した。

「銀行の課長を遣り込めるところは感動した」女61歳(満足度5・次回絶対見る)

「池井戸作品お約束の終盤の巻き返しやセリフが爽快」女32歳(満足度5・絶対見る)

視聴者の多くは、こうした山場での練りに練られたセリフに心を動かされている。

第2回では、陸王の開発に不可欠なソール(靴底)の素材を発明した飯山産業社長(寺尾聡)を、主人公がようやく説得できた瞬間のセリフだった。

「シルクレイの特許、あんたに使ってもらうことにした」「俺もあんたのプロジェクトに参加させてくれ。あんたのせいで思い出してしまった。シルクレイ作った時のこと。あんたにも味わせてやるよ。あの興奮を」

「飯山の心をつかんでいく過程に感動。ラストは最高に良いシーンだった」女39歳(満足度5・絶対見る)

「信じること、信頼されることが如何に大事か。人間にとってお金より大事な事です」女65歳(満足度5・絶対見る)

第3回では、シルクレイで適度な硬さのソールを作ろうとしたが失敗の連続で、主人公の息子・大地(山崎賢人)が挫けそうになった時に、飯山(寺尾聡)がかけた言葉。

「お前、酒飲んで来ただろう」「美味くなかっただろう。何かから逃げ出した酒は不味いんだよ。俺も長いことそうだったからなあ。さっさとこれを完成させて、美味い酒飲みに行くぞ」

「一度は離れてしまいそうな心がまたつながった瞬間は感動」男51歳(満足度5・絶対見る)

「共感できる」男23歳(満足度5・絶対見る)

「誠実な生き方に感動」女64歳(満足度5・絶対見る)

第4話では、シューフィッターの村野(市川右團次)がアトランティス社を辞め、こはぜ屋と協力することになる。それを決意した時の宮沢(役所広司)のセリフが秀逸だった。ただし、こうした輝くセリフは、それらを際立たせる役割を果たす憎たらしい役回りの登場人物やセリフのお陰でもある。

今回は「負け組業者と負け組シューフィッターと負け組選手、お似合いじゃないか」と吐き捨てたアトランティス社の小原部長(ピエール瀧)と、彼の腰巾着のように振舞う佐山(小藪千豊)の功績も指摘しておきたい。

「宮沢がシューフィッターの前で夢を語り、うちに来ないかと言われて仕事を手伝わせてくれというシーン。感動で泣いてしまった」女61歳(満足度5・絶対見る)

「アトランティス側の人間の最悪な人物像が対比になっていて面白い」女39歳(満足度4・絶対見る)

“陸王×茂木”出走へ

第5話で遂に陸王は完成し、茂木がそれを履いてニューイヤー駅伝の第6区で走ることになる。

ここまでの紆余曲折が1つの到達点を迎えた瞬間だ。その第5話では、息子・大地(山崎賢人)の覚悟を固めた2つのセリフが秀逸だった。

大地「部品は生命線?」  

飯山「部品は所詮、部品。肝心なのは人。絶対に代わりがないのはモノじゃなくてヒト。お前はこの世に一人しかいない。代わりはいない。だからもっと自分にプライドを持て。会社の大小や肩書なんて大した問題じゃない」「本当に大切なのは、自分と自分の仕事にどれだけ胸を張れるかだ」

大地「そんな仕事、俺にも見つけられますかね?」  

飯山「もう、とっくに見つけてんじゃねえのか?」  

大地「どんだけ努力したって、出来ない事ってある」  

宮沢「勝手にゴールを作るな。走り続けている間は、まだ負けではない」「全力で頑張っている人が、全ての勝負で負けるとは俺は思わない。いつか必ず勝つ。茂木選手も、飯山さんも、大地、お前もだ」

「顧問と大地の仕事に関するやりとり他、感動の嵐でした」女61歳(満足度5・絶対見る)

「大地自身も成長した回だと思った」女39歳(満足度4・絶対見る)

「毎週感動できるシーンがある」女33歳(満足度5・絶対見る)

諦めの悪い会社が、ジワジワ逆境を逆転させて、盛り返して来ている。

今後どんなピンチが訪れ、いかなる知恵とチームワークで乗り越えるのか。その時、決め手となるセリフは何なのか。後半戦がますます楽しみなドラマである。