有村架純『ひよっこ』は『あまちゃん』同様“借金返済型”~安定した満足度の背景に多様性と重層性~

朝ドラ『ひよっこ』が、残り一週間で終了する。

初回視聴率は19.5%で、20%割れは『純と愛』以来9作ぶりと騒がれた。しかも12週間、ほぼ3か月間も週間平均が20%に届かず、ずいぶんヤキモキした関係者は少なくなかった。

ところが13週目でようやく大台(20%台)に乗せ、16週以降はすべて大台突破となった。しかも第94話以降は全話20%超と安定した推移となっている。

前提には視聴者の満足度がある。データニュース社の「テレビウォッチャー」は、関東2400人が自発的に見た番組の満足度を調べている。これによると、『ひよっこ』は4週で初めて5段階評価で3.80となった。その後、6~11週も3.80超で、さらに14~19週は3.90以上となった。ドラマの平均が3.6~3.7あたりなので、3.8超はかなりの高評価だ。

NHKの木田幸紀放送総局長は4月19日の会見で、同ドラマについて、「マグマがだんだん詰まってきていて、いずれ噴火する機会をうかがっている」と語っていたが、まさに満足度というマグマが積み重なり、視聴率は右肩傾向となったようだ。

借金返済型と貯金食い潰し型

どうやら近年の朝ドラを見ていると、“借金返済型”と“貯金食い潰し型”があるようだ。前者の典型が能年玲奈主演の『あまちゃん』(2013年度上期)であり、今期の『ひよっこ』だ。前の朝ドラの低迷を受け、前半での視聴率は苦戦するが、中盤以降盛り返し、後半で高視聴率を記録している。いわば朝ドラの視聴習慣がなくなってしまった人々を、時間をかけて取り戻していたように見える。

いっぽう後者の典型が、土屋太鳳主演の『まれ』(2015年度上期)と、芳根京子主演の『べっぴんさん』(2016年度下期)。序盤あるいは中盤までの視聴率は高いが、その後次第に数字を落とし、全体平均が20%を切ってしまったパターンだ。『べっぴんさん』の詳細については、拙稿「『べっぴんさん』は『あまちゃん』の貯金を食いつぶす!?」「『あまちゃん』の貯金は食い潰したが、『べっぴんさん』には“男の子”朝ドラの可能性あり!?」を参照して頂きたい。

両ドラマの課題は、要は視聴者の満足度が低かった点だ。結果として口コミなどで視聴者が増えず、逆に途中で脱落者が出て、次第に視聴率が低迷した。逆に『あまちゃん』『ひよっこ』では、高い満足度が途中脱落を防ぎ、さらに口コミで新たな視聴者が増え、結果として視聴率が右肩上がりになっていたのである。

男女年層により異なるスウィートスポット

“高い満足度で新たな視聴者を集める”にしても、『あまちゃん』『ひよっこ』ではパターンがやや違っていた。『あまちゃん』は従来の朝ドラにない新手の展開と演出で勝負した。結果として主な視聴者層だった女性高齢者にはやや逃げられたが、40~60代で多くの新規視聴者を獲得した。

一方『ひよっこ』は、それほどの“けれんみ”はないが、本・演出・演技の味わいでじわじわ視聴者を増やしていった。興味深いのは、男女年層により満足するポイントが異なる点である。

『ひよっこ』は、大きく分けると、1~4週の奥茨城での序盤、5~9週の向島電機乙女寮、10週以降のすずふり亭とあかね荘での物語と3パートに分かれる。しかも3パート目には、ビートルズ来日での宗男(峯田和伸)の上京物語、みね子と島谷(竹内涼真)の恋と別れ、父・実(沢村一樹)との再会、豊子(藤野涼子)・時子(佐久間由衣)たちの活躍、世津子(菅野美穂)の救出、みね子と秀俊(磯村勇斗)の恋など、幾つかの山場がある。

F2は“宗男の戦争体験”

そのどの部分に人々がどう反応したのかが、男女年層により異なっていた。

まずF3(女50歳以上)の満足度は、第1週から3.88と高かった。みね子たちが奥茨城を出ることになった第4週「旅立ちのとき」で既に4.12と極端に跳ね上がり、第6週以降4.0以上が当たり前になっていた。早々と物語にハマり込んだ人々といえる。

ところがF2(女35~49歳)の反応はかなり違う。

「明るい感じが朝にあっている」女42歳

「脚本にむりがなくて見やすい」女46歳

「まだ、何とも言えない」女39歳

第一週3.63は、ドラマの平均値の範囲内。あまり悪い意見は見当たらないが、満足度評価では慎重な評価が目立つ。

ところが第4週で3.8を超え、第6週で3.9台、第9週で4.0突破と順調に上がって行った。そして第14週「俺は笑って生きてっと!」が4.26と突出したピークとなった。けん引したのは第80話、宗男が戦争体験を語った回だった。満足度は4.33と極端に高くなった。

「戦争ってすごい体験だとつくづく感じた」女46歳(満足度5)

「終戦から20年以上たっても忘れることができない戦争の傷があると,ドラマではあるけれど再認識した」女37歳(満足度5)

「おじさんの昔話がせつない」女44歳(満足度5)

「笑顔って素敵だな」女41歳(満足度5)

このあとF2の満足度は4.2を下回り、第19週以降は4.0も切るようになる。第13~14週で突出した反応をみせた点は興味深い。

男たちの反応

「テレビウォッチャー」2400人のモニターの中では、第23週までの全138話を見た人の延べ人数はM3(男50歳以上)が最も多い。通常のNHK朝ドラは、視聴者構成ではF3が最も多くなる。ところが地方からの集団就職や60年代の高度経済成長期を舞台にした物語、そして主人公役の有村架純が「お父さん~」と頻繁に語りかける演出が効いたのか、『ひよっこ』ではM3が36.8%を占め、35.9%のF3よりわずかに上回った。

そのM3のスウィートスポットは2か所あった。

まずは就職で奥茨城村を出るあたりで上昇を始め、第6週「響け若人の歌」で一旦ピークとなる。ここでM3の満足度が最高潮に達したのは、第34話の3.84。みね子が乙女寮の仲間と打ち解け始め、この回では失踪していた父の目撃情報を綿引巡査(竜星涼)がもたらた。幼なじみの時子の実家に電話で知らせ、それをみね子の家族に伝言してもらうというドタバタだった。

「家族仲良く、今から見ればどんなにいい時代だったかと思う」男56歳(満足度4)

「みんなが慰めてくれるいい職場だなー」男75歳(満足度4)

「優しい脚本」男51歳(満足度5)

愛情に満ちた家族。大変な時も慰め応援してくれる仲間。それらが現代は薄れているか否かは定かでないが、M3の反応ポイントはこのあたりだった。

そして2つ目のピークは、第16週「アイアイ傘とノック」から17週「運命のひと」。

ビートルズ来日から宗男が戦争体験あたりから上昇を始め、みね子と島谷の恋と別れでピークを迎える。

「今までの中で最高に感動した回、親不孝な人は嫌いです、というみね子の言葉が良かった」男59歳(満足度5)

「島谷に呼び出されて、家を捨てるとまで決意を述べられるが、たしなめるみね子。立派としか言いようがない」男56歳(満足度4)

「お互い好きになってよかったという思いを抱きながらの別れなだけに悲しいシーン」男51歳(満足度5)

“家族は家族、自分は自分”ではなく、家族のことを想い本当に好きな人を諦める“ちょっと古風”な恋愛観にM3は心を動かされていた。ちなみにF2やM2は、殊更このあたりで高い満足度を入れてはいない。考え方にギャップがあるのかも知れない。

そのM2(男35~49歳)が高く評価したのは2か所。F2と同様の“ビートルズ来日と宗男の戦争体験”あたりと、実が世津子のところにいたことが分かった後に奥茨城に戻るあたりだ。

前者はF2と基本同じなので省略するとして、後者では母・美千代(木村佳乃)が世津子と対峙する緊迫のシーンがあり、その後美千代は実をみね子に託す。そしてし実が自分から奥茨城行きを決意する。大団円は、一族総出の田植えだった。

実はこの辺りはF3も週間平均満足度が4.20で、23週までの中で最も高くなっていた。美千代と世津子との対峙は、「『ひよっこ』の魅力は“引きの力”~『小さな巨人』と対照的な有村架純・木村佳乃・菅野美穂らの演技力」で詳述したので、興味のある方はそちらを見て頂くとしよう。

ここでは、美千代が実をみね子に託すところと、そして実が自らの判断で奥茨城に帰ったところのM2とF3の反応を紹介する。

「美代子さんは立派だと思った」女55歳(満足度5)

「(親子3人の間で)心が通い出すのが感じられて良かった」男48歳(満足度4)

「記憶が無くなっても(実の)人柄の良さが光る。母親役の演技にもらい泣き」女60歳(満足度5)

「田植えは最高だね」男49歳(満足度5)

「家族について考えさせられた」女70歳(満足度4)

「実や家族の心境の変化が静かに描かれていてすばらしい」男49歳(満足度5)

以上が男女年層別のスウィートスポットの違いだ。

このドラマの登場人物は、ハイティーンから20歳前後となったみね子たち世代、その親世代、さらに祖父祖母世代だ。東京オリンピック(1964年)の直前から数年しか時間は経過していないが、戦争・五輪・集団就職・高度成長・世相風俗の変化など、エピソードは豊富にあった。

各世代がそれぞれ時代にどう対峙したのか、十人十色の群集劇のようにも見えた。だからこそ、男女各年層で受け止め方が違い、結果として全体の満足度が安定的に高かったのではないだろうか。

『あまちゃん』は従来の朝ドラにない新手の展開と演出で、一点突破的にブームを作り出すことに成功した。いわばハイリスクハイリターンの勝負で上手く行ったパターンだ。一方『ひよっこ』は、多様な人々が登場するが、基本的に良い人ばかりで、それらのどこに共感するかが視聴者によって異なっていた。ところが結果的に、その多様性と重層性が最大多数の満足度につながり、成果が積みあがって行ったように見える。

そんなモザイクのようにいろんな側面を見せたドラマも、残り1週間。

群集劇の様相を呈していただけに、きっと積み残した布石の回収がテンポよく行われることだろう。どんな手際で展開されるのか。視聴者はそれらにどんな反応を見せるのか。多様で重層性のあるドラマの着地がどう決まるのか、楽しみにしたい。