東大合格日本一の開成高校をお笑い3芸人が撃破!~勢い止まらぬ『プレバト!!』の魅力とは?~

毎日放送(MBS)制作『プレバト!!』の快進撃が凄い。

関東地区の視聴率では、2012年スタート当初の半年は平均8.1%だった。そして翌13年は7%台前半にまで落ち、けっこうピンチに陥った。

ところが「使える芸能人は誰だ?」と称し個人戦を中心にした演出から、俳句・生け花・水彩画などの「才能査定ランキング」に変更した後、数字は盛り返す。14年9%台半ば、15年9%後半とじわじわ勃興し、16年上半期11.1%、16年下半期13.3%、そして17年上半期13.1%と順調に推移して来た。

特に去年8月以降、番組視聴率はずっと二桁を維持し、四半期平均で同時間帯のトップを獲るようになっている。

“才能の査定”とは、基本的に人の頭脳の中の話だ。必ずしもテレビ的なネタとは言えない。にも拘わらずバラエティ番組として、同時間帯の日本テレビを抜いてトップを行くとは、快挙といって良かろう。

新記録樹立!

番組は先週の9月14日、14.5%と番組史上最高の視聴率を叩き出した。

この回では、俳句コーナーで名人7段の梅沢富美男が、8段へ1ランク昇格を果たした。その時の句。

夜学果て

まだ読みふける

おとがひよ

夜間高校の授業が終わっても、席に残り小説を読みふける女子学生を読んだ句だ。講師の夏井いつき氏は、「耽る」ではなく「ふける」、「頤」ではなく「おとがひ」と平仮名で記述したことで、女の子をイメージさせた手法と絶賛した。

その上で、師範を目指すために1点アドバイスを与えている。「まだ」を「なほ」に代えるというのである。

どちらも“以前の状態が続いている”ことを示す接続詞だが、「まだ」だと“未だ~できていない”と否定的なニュアンスが加わってしまう。ところが「なほ」にすると、“一層”というニュアンスになり、向学心の方向が前向きになる。しかも「なほ」にすると、「おとがひ」と共に旧仮名遣いとなり、一層味わいが増すというのである。

なるほど、一語違いで大違い。上には上があるものだ。俳句の“奥深さ”を見せつけられた瞬間だ。

ただし、これだけだとNHKの俳句番組のように聞こえる。一味も二味も違うのは、バラエティとして楽しみながら、タメになる点だ。

自分より下手なお笑い芸人をバカにしながら、自らの力量を誇示する梅沢。ところが夏井講師に対しては、良い評価を引き出すために、恫喝したり媚びたりとウロウロする姿が微笑ましい。そこをジクジクいじる浜田雅功の巧みなさばき。笑いをまぶしながら、文学の奥義を伝える同コーナーは、絶妙なバランスと云えよう。

開成高校生をお笑い芸人が撃破!

今週21日の放送は、俳句だけでやりきる大胆な企画となった。平均視聴率は12.8%。1時間、決して飽きることなく見事に構成されていた。

圧巻は、番組の俳句特待生となっているお笑い芸人3人が、松山俳句甲子園の優勝チームに殴り込みをかけたコーナー。対戦相手は、東大合格者数日本一を誇り、これまで20回の大会で10回も優勝している開成高校の俊英だ。

ジャッジするのは、夏井講師を含めた11人の俳句界の重鎮。

勝負は3対3の団体戦。自分の句の発表後、相手チームの質問や反撃に対してディベートを行う俳句甲子園の形式と同じ。お題は、松山といえば正岡子規。子規といえば野球というわけで、「子規と野球」となった。

1回戦はフルーツポンチの村上健志と、キャプテン山下君の対戦。

村上の句。

野球部の

従兄は素振り

   盆の月

この番組が非凡なのは、ガチンコ対決を料理するドキュメントバラエティとして、笑いのまぶし方が絶妙である点。

村上の句に対しては、開成高校生は「この句を夏井先生が見たら、“素振りをしない野球部員がいたら連れてこい!”という。上五・中七が当たり前すぎ」と突っ込む。村上が「喜ぶおじいさんがいる。ここに書かれていない所を広げて欲しい」と反論すると、「だったらおじいさんを詠めばいい。盆の月という季語が動いてしまう。これでは凡人の域に収まってしまったのではないか」と畳みかける。

このやり取りは会場の爆笑を呼び、作者の村上は頭を垂れて沈没。ボンと梵鐘の音が付け加えられていた。

対する山下君。

サイダーの激し

野球に負けてきて

これに対しては、野球経験者のNON STYLE石田明が切り込んだ。「野球に負けてきて飲むのは、だいたいポカリかアクエリですね。サイダーに頼り過ぎ」とやり、爆笑を獲る。これに対して開成は、作者ではなくチームメイトが「野球に負けた後の激しいサイダー、飲んだ時のシュワシュワ感。ギャップというかユーモラスな目線が見える」と切り返した。さらに芸人3人組を指し、「この試合負けた後、きっとサイダー激しいですよ」とオチを入れ込んできた。

ところが判定は、6対5と僅差で村上の勝利。

明らかにお笑い芸人組が劣勢のように編集し、“どんでん返し”の展開にしてある。

続く2回戦はノンスタ石田と、センスは部内No1筏井君の対戦。

石田の句。

秋天を抜け

 百年をゆく飛球

対する筏井君。

ユニフォーム

ましろきままに

    夏の果

ディベートは野球経験者・石田の独壇場という編集だ。補欠としても3年生のユニフォームは“ましろきまま”とはならず汚れている。1年生とすれば、“夏の果”が深くないと突っ込んだ。

また、“抜け”という動詞をなぜ使ったのかと攻められると、高い秋の空を飛球が飛んでいく様、しかも子規が作った飛球という言葉は、過去100年を超え、さらに今後100年を抜けていくというスケールの大きさを想って作ったと断じ、満場の喝さいを浴びた。

結果は7対4と差をつけた。この時点で2勝とチームの勝利を手中におさめてしまった。

最終戦はHUJIWARAの藤本敏史と、全国高校生1600句の頂点に立った高校生最強の岩田君。

フジモンの句。

少量の

秋の来ている

   外野席

対する岩田君。

試合果つ

 二百十日の

  バット置き

既にチームの勝敗は決しているためか、もはやディベートはカットして、直ぐに判定。

結果は4対7で岩田君の勝利だった。

夏井講師は「両方良い句」「ただし岩田君の“二百十日の バット置き”は、季語だけでどんな試合だったのかを想起させ、より上手かった」と評した。

両チームの差

ここまで見てくると、感ずることが1つある。

お笑い芸人3人の句は、より直截的な表現で映像が目に浮かぶような句を作っている。さすが芸人だけあって、普通の人にも“分かりやすく”かつ“奥が深い”俳句を目指しているように見える。

対する高偏差値の高校生チームは、俳句の道に分け入った手練れを感じさせる句が多い。結果として、最初に聞いただけでは映像が浮かびにくい、玄人受けの作品が多かった。

では俳句界の重鎮11人は、テクニックをより多く持ち、ひねりを効かせた高校生たちではなく、マイナス評価されがちな、直截な表現の多いプレバトチームになぜ軍配を上げたのか。

筆者が感じたのは、人生の経験値の違いだ。

文学の世界では、“何を書くか”“どう書くか”の二つが鍵を握る。

この“どう書くか”では、明らかに高校生チームが上回っている。ところが“何を書くか”では、より長く生きてきて、さまざまな経験をしてきた芸人たちの描いた世界の方が味わい深ったようだ。

この差が、大方の予想を裏切って、プレバトチームの勝利につながったように見える。

ガチンコ勝負を笑いにまぶしながら、途中で飽きさせずに見せる『プレバト!!』。ドキュメントバラエティとしてかなりの水準といえよう。

ちなみにドキュメントバラエティでは、日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』がある。今や視聴率は20%ほどに達している。日本のバラエティ番組のある意味最高の到達点といえよう。

ところが別の見方をすると、『イッテQ!』は絵になりやすい“肉体派”のドキュメントバラエティだ。対する『プレバト!!』は、テレビ的でない抽象的な世界でドキュメントバラエティに挑んでいる。この“書斎派”番組は、まだまだ『イッテQ!』には数字の上では遠く及ばないが、番組の可能性を切り拓いたという意味では、大きな功績を持つ。

しかもお笑い芸人チームが開成高校チームを撃破したように、『プレバト!!』には勢いがある。MBSの制作陣には、この開拓の精神と勢いで、さらなる境地を切り拓いてもらいたい。今後に期待する。