見方が分かれた刑事3ドラマ 100から300%進化の『小さな巨人』がリード~で1000%の結末は?

今期GP帯(夜7~11時)ドラマには、刑事ドラマが5本あった。

ミステリーも含めると8本となり、視聴者の関心を引き留め、視聴率を維持しようというテレビ局の戦略を批判する声も聞かれた。ところがフタを開けてみると、刑事ドラマは視聴率上位を占めた。やはり視聴者の関心は刑事モノやミステリーにあるようだ。

では、犯人逮捕や謎解きはワンパターンかと言えば、そうでもない。

特に関西テレビ・テレビ朝日・TBSの3作を視聴者がどう見たかをデータから分析すると、実に多様なドラマだったことがわかる。

視聴者の評価から、3作がどう楽しまれたのかを振り返ってみたい。

勝ち点12の『小さな巨人』

3ドラマ対決を、視聴率・録画数・F1(女20~34歳)の視聴者数・49歳以下視聴者数・満足度・絶対見たい率で勝ち点を付けて見た(注)。1位3点・2位1点・3位0点で点数化すると、『小さな巨人』が12点で総合優勝、9点の『CRISIS』が2位、『緊急取調室』は視聴率でトップだったが総合的には3位に甘んじた。

総評としては、視聴率1位の『緊急取調室』がビジネス的には最も成功した。

しかしF1を最も取り込み、じっくり見たいという層も多かった『CRISIS』。かなりユニークな作品だったことがわかる。

そして見られ方が最もバランス良く、しかも質的評価で1位をとった『小さな巨人』が、“ドラマのTBS”の伝統を守って、貫禄を見せた感が強い。

いずれにしても、同じ刑事ドラマでも多様性が十分あったクールと言えよう。

(注):視聴率はビデオリサーチ社関東900世帯調査から。録画数・満足度・見たい率などは、データニュース社「テレビウオッチャー」関東2400人調査から。

3ドラマの視聴率

3ドラマ対決を、まずは視聴率で見てみよう。

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初回は『緊急取調室』が17.9%でブッチギリだった。

刑事ドラマとミステリーを定番とし、かつ『相棒』『科捜研の女』などシリーズ化で安定的に視聴率を稼ぐテレ朝の戦略は定評がある。

『緊急取調室』もシーズン2だったこともあり、初回から多くの固定客が見に来たようだ。

『CRISIS』と『小さな巨人』は13.9%・13.7%と互角のスタートだった。

ところが『CRISIS』は、4話以降で一桁3回、10%そこそこが4回と、後半が苦しかった。

『小さな巨人』は『半沢直樹』『下町ロケット』『ルーズヴェルトゲーム』とスタッフが同じで、TBS日曜劇場がこれまで幾度も放送してきた組織と個人をテーマにしている。定評のある路線で、視聴率も9話中7話が13%台と極めて安定していた。

3ドラマの録画数と視聴者の属性

ところが録画数では、3ドラマの関係は完全に逆転する。

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視聴率トップだった『緊急取調室』が、録画数では最も少なくなった。一つには、ドラマの作り方の問題だろう。刑事ドラマは男の世界という印象が強い。しかも刑事の疾走・聞き込み・犯人との格闘・銃撃戦など派手なシーンを多用し、視聴者の目を引く演出が多い。ところが同ドラマは、こうした要素を敢えて排除し、取調室という密室での会話劇で見応えを創り出している。

もう一つは、視聴者の属性だ。

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グラフにある通り、視聴者には50歳以上が多く、逆に若年層は少ない。派手なシーンが少なく、密室での会話劇による見ごたえというユニークな作りは、残念ながら若年層にはあまり馴染まなかったようだ。結果として録画機の出番も多くなかったようだ。

対照的なのが、視聴率は最も低かったが録画数でトップとなった『CRISIS』だ。

国家を揺るがす規格外の事件に立ち向かう、規格外の男たちの活躍を描くアクション・エンターテインメントだが、とにかく小栗旬と西島秀俊は格好いい。田中哲司・野間口徹・新木優子とのチームもユニークで魅力的だ。

初回オープニングでは、新幹線を止めての15分におよぶ規格外の格闘シーンが展開された。第8話では、新興宗教に潜入し捕まった協力者を救出するために、7分30秒に及ぶワンカメ撮影によるノンストップバトルが展開された。

こうしたドラマのテイストが若年層を強烈に惹き付け、夜9時からの放送ということもあり、録画再生視聴が多くなったようだ。

3ドラマの満足度と次回見たい率

満足度については、3.84から3.92とわずか0.08の中に3本がひしめく激戦となった。

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しかも3本とも最終回のデータがまだ出ていないので、最終的には順位は入れ替わってしまうかも知れない。いずれにしても、ドラマの平均は3.6~3.7なので、3本とも優れた出来で、本当の評価は甲乙つけがたい。

ただし敢えて評価をすれば、1話完結型と連続ストーリー型の違いが、今回の視聴者の質的評価には出ているかも知れない。

満足度2位『CRISIS』と3位『緊急取調室』は、いずれも1話完結型。そして『小さな巨人』は全話を2つに分け、「芝署編」と「豊洲署編」が5話ずつの連続ストーリーとなり、しかも全話を通じて小野田一課長(香川照之)と香坂(長谷川博己)の対決、つまり警察組織の巨悪に挑む一介の警察官という展開を徐々に深めていた。

満足度の推移を振り返ってみると、初回を除く2話以降では『小さな巨人』の評価は3.89から4.03の範囲に入る。高低差は0.14だ。一方『CRISIS』は3.79から4.03で高低差0.24。『緊急取調室』は3.72から3.99の0.27だった。『小さな巨人』が最も安定しており、他2本の方が上下のブレが激しい。

1話完結型は、都合で途中の回を見逃しても話について行ける。つまり視聴率を一定以上に保ちやすいというメリットがある。80~90年代に開発された番組マーケティングの結果、生まれてきた手法である。

ところが逆に、いつ見ていつ見なくとも大丈夫という安心感から、番組視聴のロイヤルティーを作り難いというデメリットもある。さらに1話毎に異なる物語なので、出来に凸凹ができやすい。

偶然かも知れないが、今回は見事にこの流れが当てはまった。

しかもこうしたブレは、グラフにある通り、男女年層別でも起こっている。普遍性の高いドラマは、より多様な人々の心に届く。微細な違いかも知れないが、『小さな巨人』の強さは、こうした点にもあるのかも知れない。

3ドラマの見たい率を振り返っても共通点がある。

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「次回絶対見る」「なるべく見る」「見るかも知れない」「たぶん見ない」「絶対見ない」の5段階評価に基づく評価だが、「絶対見る」と「なるべく見る」を足しあげた「見たい」率は、満足度と同じように、『緊急取調室』『CRISIS』の順でブレが大きい。

また「絶対見る」率に注目すると、『小さな巨人』が最も高くなっていることが分かる。しかもその比率は、『小さな巨人』が後半に行くほど一番大きくなっている。ストーリーが進むにつれ、視聴者が取り込まれている様子がわかる。

ドラマはやはりストーリーテリングの妙

以上が3ドラマの量的・質的な評価の概要だ。

一般的な刑事ドラマの定番を排して、敢えて密室の会話劇で勝負に出た『緊急取調室』。分かり易い善悪の構図を避け、規格外のアクションと国家と正義を巡る揺れにスポットを当てた『CRISIS』。いずれも十分堪能させてくれた名作だった。

ところがマーケティング優先に背を向け、本格的にストーリーテリングで勝負に出た『小さな巨人』が、最も多くの視聴者の心に届いたようだ。このドラマが描いてきた“組織vs個人”の闘いに、どんな決着をつけるのか、最後まで楽しませて欲しいと願って已まない。

ところで1点気になるのは、香坂(長谷川博己)の「100%の証拠はありませんが、200%の覚悟はあります」発言に対して、小野田(香川照之)が「300%クロ!」と香坂を否定したままの部分。

かつて『半沢直樹』では、「倍返し」から「十倍返し」を経て、「百倍返し」まで進化した。『小さな巨人』最終回では、何が1000%になるのか、しっかり締めくくって欲しいものである。

ストーリーテリングも大切だが、ドラマではディテールも楽しみたいというのが視聴者のわがまま。是非これも、十分かなえてもらいたいものである。