長谷川博己『小さな巨人』は堺雅人『半沢直樹』に迫れるか?

TBSホームページから

2017年度春ドラマには刑事ドラマが5本もある。

その中で異彩を放っている1本が、長谷川直樹主演『小さな巨人』だ。警察ドラマではあるものの、主なテーマは組織に対峙する個人。その意味では、TBS日曜劇場が過去に何度か放送してきたドラマと路線が似ている。

特に堺雅人主演の『半沢直樹』(13年夏)とは、下の立場のものが組織の権力を握る上位者の不正を暴く点、出演者の顔芸が大きな役割を占めている点、そして香川照之が権力者として主人公に立ちはだかり、大きな顔芸で視聴者を魅了する点が酷似している。

まあ、福澤克雄・伊與田英徳・飯田和孝とプロデューサー陣が3人とも同じだから、当然と言えば当然かもしれないが・・・

視聴率比較

まず視聴率で比較してみよう。

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『半沢直樹』は初回から19.4%、2話目で早くも20%を超えるなど、とてつもないロケットスタートを切っていた。その後も一度も数字を下げることなく進展し、最終回では42.2%と歴代ドラマ2位に輝く大記録を打ち立てた。

一度も数字を下げなかったという意味では、去年秋の新垣結衣・星野源主演『逃げるは恥だが役に立つ』と全く同じだが、その水準の高さは他ドラマを寄せ付けない強さがあった。

一方『小さな巨人』は、今クール全ドラマの中ではトップを争う好成績ではある。ただし『半沢直樹』と比べると、タイムシフト視聴率を加えても遠く及ばない。また、似たテイストの阿部寛『下町ロケット』と比べても、やや届かない感じだ。ただし唐沢寿明『ルーズベルトゲーム』とだと良い勝負。5話にかけ数字が上がっていたが、『小さな巨人』も「署長を倒せるか!?」と芝署編が5話で完結するので、数字的には大いに期待が持てる。両ドラマのデッドヒートはじゅうぶん期待できる。

満足度

テレビ番組の良し悪しは、視聴率という量的評価だけでなく、実際に見た人とたちの満足度など質的評価でも測ることが出来る。データニュース社「テレビウォッチャー」の満足度調査(5段階評価)でみてみよう。

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『半沢直樹』の時は初回から4.16と、連続ドラマとしては滅多に出ない好記録で始まった。その後も満足度はどんどん上昇し、視聴率が30%に迫った5話では4.48とあり得ない高さになっていた。その後も4.4台を連発して、最終回の視聴率42.2%につながった。やはり怪物番組だったことがわかる。

一方『小さな巨人』は3.72で始まった。ドラマの平均が3.6~3.7なので、平均以上ではあるものの、決して傑出した数字ではない。今クールの中でも、上位ではあるものの何本かのドラマの後塵を拝した。

2話目からは3.9台に乗せ、上昇を続けている。傾向としては大いに期待できるが、残念ながら『下町ロケット』には届いていない。

今クールは刑事ドラマが多いこと、警察組織の中での下が上を叩くという構図が、やや視聴者の支持の広がりを欠いた可能性がある。やはり銀行や下請けの中小企業という『半沢直樹』や『下町ロケット』とは、共感力が違っていたようだ。

ただし『ルーズベルトゲーム』と比べると、初回から3話までずっと上を行っている。4話の満足度はまだ出ていないが、捜査一課長(香川照之)と主人公・香坂(長谷川博己)の料亭での対峙は、『半沢直樹』の時の“香川照之vs堺雅人”に負けず劣らず迫力があった。このシーンを含む冒頭22分のオープニングは、今クール全ドラマの中で間違いなく最高の出来だ。

また一課長との対決に敗れ、消沈して帰宅した香坂を迎えた妻・美沙(市川実日子)の受け止めは秀逸だった。

容疑者・中田隆一(加藤晴彦)に知らない内に共犯にさせられた山本アリサ(佐々木希)を、もともと持ち合わせていた理想に重ねて説得・自首させるシーンも感動的。

さらに内通者が実は署長(春風亭昇太)だったといどんでん返しは、見る者の興味を鷲掴みにして離さない。

視聴率も上昇していたが、間違いなく4話の満足度も4を突破し、5話の好成績につながって行くだろう。

役者が持つ数字

ちなみに長谷川博己と堺雅人のここ数年の出演ドラマの視聴率を振り返ると、ちょっとした違いに気付く。

二人ともお化け番組に出演している。最終回の視聴率が40%となった『家政婦のミタ』と、最後はドラマの歴代2位となった『半沢直樹』だ。

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共に大記録を持つ優れた役者だが、それらのドラマ以外では、両者の傾向はちょっと異なる。

堺雅人の主演ドラマは、基本的に視聴率が二桁以上で、安定している。これに対して長谷川博己のドラマは、当たり外れの波が大きい。

もちろんドラマの視聴率は、一人の役者で決まるものではない。脚本・演出・他の役者・裏番組の状況など、複雑な要因が絡み出て来るものだ。それでも堺雅人の安定感は際立っている。結果論かも知れないが、彼は良い脚本・演出を引き、裏番組に妨げられない運を持ち合わせているのかも知れない。

反対に長谷川博己は、数字こそ安定していないが、『セカンドバージン』『鈴木先生』『家政婦のミタ』など、話題作・問題作が多い。この表にはないが、14年の『MOZU』も大きな話題になった作品で、彼の演技は強烈な印象を残している。

筆者の独断的印象で言えば、強烈すぎない個性ゆえ、周りの役者や脚本・演出の良さを引き出し、結果として話題作・問題作になることが多い気がする。その意味で長谷川博己は、意外性のある役者と言えないだろうか。

さて物語はまだ序盤。

客観的には『半沢直樹』のような大化けはないだろうが、TBS日曜劇場の伝統が成熟し、エンターテインメントとしてもメッセージ性としても、かなりの水準に達する可能性が『小さな巨人』には出てきた。

今クール、刑事ドラマが多すぎることを批判する評論家もいるようだが、同じ入口から入って、脚本家・役者・演出陣が異なる個性で多様なドラマを見せるのも決して悪くない。

大いに魅了してもらいたいものである。