小栗旬『CRISIS』・天海祐希『キントリ』など、春は刑事ドラマが熱い!<反批判のドラマ批評4>

各ドラマのHPから

春ドラマの序盤戦がほぼ終了した。

今期の最大の特徴は、事件解決モノや刑事ドラマが多いことだろう。民放GP帯(夜7~11時)で放送されている春ドラマ全14本では、半分の7本までが事件解決モノとなっている。

月曜:『貴族探偵』(フジテレビ系)

火曜:『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)

水曜:『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)

木曜:『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)と『緊急取調室』(テレビ朝日系)

日曜:『小さな巨人』(TBS系)と『櫻子さんの足元には死体が埋まっている』(フジテレビ系)

以上のように毎日のように事件解決モノが放送されている。

特に5本が刑事ドラマで、近年稀に見る賑わいだ。

“TV界の危機”論

これに対して、「春ドラマの半数が事件解決モノ 視聴率上位独占はTV界の危機」という意見もる。

「事件解決モノは、他のジャンルに比べてリアルタイム視聴が見込める」「1話完結のフォーマットが多く、“内容がコンパクトでサクッと見られる”“何回か見逃しても問題ない”などの気軽さがあるため、他のジャンルよりも録画視聴される割合が少ない」などが理由という。

またテレビ局側から見ると、「“安定した視聴率を稼げて、大コケの心配が少ない”手堅いコンテンツ」であり、かつ「ヒットシリーズになる可能性を秘めている」のも魅力だそうだ。

ところが「ジャンルの偏りはテレビのイメージダウン」であり、「ドラマへの熱が失われていくというリスク」があるゆえ、「最大3分の1程度が適正なライン」と断じている。

ちょっと待てよ!これって本当だろうか。

そもそも民放GP帯の14本を全部みる視聴者はそんなにいないだろう。7本が多すぎるか否か、普通の人は判断しない。しかも残り7本は事件解決モノではない。さらにNHKや夜11時台以降を入れると、依然10本以上のドラマがある。もっと言えば、BSにも何本もドラマがあるし、映画まで入れれば見切れないくらい放送されている。選択肢が限られる状況とは単純に言えないのではないか。普通の人は、週数本のドラマを見るのがせいぜいだろう。

しかも一時的な「ジャンルの偏り」は、ゲーム理論におけるタカ派とハト派ではないが、ある種の番組が全てを席巻することはなく、やがてバランスがとれていく。

番組ジャンルの過去30年を振り返ってみよう。テレビのリモコンが登場し、ザッピングに最も適したジャンルとして、バラエティ番組が増えた時期がある。ところが実際には、全体の50%程度まで増えたところでほぼ止まった。ある種の番組ばかりになることはなかったのである。

“上位独占”はダメなのか?

今期5本と本数が多かった刑事ドラマ。初回を見る限り、視聴率競争で威力を発揮した。

民放GP帯の全14ドラマの上位5本のうち、刑事ドラマが4本入った。確かに“視聴率上位独占”だ。だがデータニュース社「テレビウオッチャー」の満足度上位5本でも、刑事ドラマは4本入っている。量的評価だけではなく、内容に対する評価もしっかりとっている。「テレビのイメージダウン」どころか、今期の刑事ドラマはテレビの評価を上げていると言えそうだ。

録画数の上位5本だと、刑事ドラマは2本しか入らなかった。「本当に面白いものほど、愛着のあるものほど、録画視聴する」と先の記事はいうが、もし本当なら録画数の高かった番組は、満足度や次回見たい指数も高かったはずだ。

ところが録画数1位の『リバース』は、満足度では8位、見たい指数も4位に留まった。

録画数2位と3位は刑事ドラマだった。両ドラマとも、視聴率だけでなく、満足度も次回見たい指数も高かった。そして録画数4位が『貴族探偵』だったが、満足度は全14本中13位。次回見たい指数でも、刑事5ドラマの後塵を拝してしまった。

実は録画数は出演しているタレントの人気や話題性にも左右される。“録画数が多いから優れたドラマ”とは、単純には言い切れない。

“刑事ドラマ”の中の多様性

刑事ドラマというと一見“似たり寄ったり”と受け止めるかもしれないが、今クールの刑事モノ5本を見る限り、その中でも多様性が十分ある。視聴者の見方や評価を分析すると、その辺りが浮き彫りになる。

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刑事ドラマ5本の中で、視聴率(ビデオリサーチ社関東900世帯視聴率調査)・録画数・満足度・次回見たい指数・1~2層総数(以上、データニュース社「テレビウオッチャー」調査)で順位をつけてみた。

満足度は、自発的に視聴した人による5段階評価。次回見たい指数は、「絶対見たい」2ポイント・「なるべく見たい」1ポイント・「たぶん見ない」-1ポイント・「絶対見ない」-2ポイントとして指数化したもの。1~2層総数は、49歳以下視聴者の数である。

初回でトップを争ったのは、『CRISIS』と『緊急取調室』。

両ドラマとも、5指標がいずれも1~3位に入る好成績だった。特に『緊急取調室』は視聴率と満足度で1位。『CRISIS』は次回みたい指数と1~2層総数で1位となった。

総合的に3位につけたのは『小さな巨人』。視聴率4位、満足度3位だったが、ともに上位と僅差だった。ただし2話目では視聴率2位、満足度トップに躍り出ており、実際は3強が激しくしのぎを削っている状況だ。

『警視庁捜査一課9係』『警視庁・捜査一課長』は、俳優がベテラン中心のドラマゆえ、上位3強ほど各指標がおしなべて強いわけではない。ただし民放GP帯14ドラマの中では、概ね上位に名を連ねている。派手さはないが、堅実に支持されている佳作と言えよう。

五者五様の特徴

5ドラマの多様性を、内容・演出面で見てみよう。

まず『緊急取調室』の最大の特徴は、刑事ドラマでよくある演出を禁じ手にしたこと。例えば走る・聞き込む・派手に撃ち合う・格闘するなどのシーンはほとんど出てこない。取調室という密室での取り調べ劇にクローズアップしている点が、物語作りの難しさを超えて面白さにつながっている。

90年代後半以降、『踊る大捜査線』が大ブレークした。テレビドラマは高視聴率を連発し、映画は記録的な興行収入を上げた。この作品も、脚本の君塚良一が歴代の刑事ドラマを研究し、従来の名場面・演出を捨て、まったく新しい刑事ドラマを創り出す意気込みで制作したという。

『キントリ』も、方向性は『踊る大捜査線』と異なるが、同じようにユニークな作品に仕上がっている。視聴率という量的評価と、満足度という質的評価でトップというのは、大いに成功していると言えよう。

一方『CRISIS』は、およそ普通の人にはやり遂げられない、異常なまでに強靭な精神の持ち主が主人公だ。「国家を揺るがす規格外の事件に立ち向かう、規格外の男たち」が活躍する。生と死・正義と法・真実と現実の境界を描いた『BORDER』で主演した小栗旬、ハードボイルドの極北を行く『ダブルフェイス』『MOZU』に主演した西島秀俊が二枚看板。しかも原案・脚本は、直木賞作家で『SP 警視庁警備部警護課第四係』シリーズ、『BORDER』シリーズを書いた金城一紀だ。過激・ストイック・どんでん返しなどの要素が満載で、若年層をガッチリつかまえ、しかも次回も見たいと強く思わせている。

『小さな巨人』は、視聴率歴代2位を誇る『半沢直樹』にテイストが似ている。舞台は銀行から警察に移っているが、“組織と個人”が基本テーマだ。圧倒的に不利な状況の中で、下が上の不正をどう暴いていくのか。大人社会での駆け引きの妙が見どころとなっている。

『警視庁捜査一課9係』は本格群像刑事ドラマ。一見地味だが実は個性豊かな6人の刑事たちが、捜査途上で対立しながらも、最後はそれぞれの熱い正義感で一つにまとまり事件を解決する。見る人により共感ポイントが異なる点が、息の長い人気につながっている。

そして『警視庁・捜査一課長』は、400人以上の精鋭集団たる捜査一課を束ねるリーダー(内藤剛志)の正義感と哲学が核だ。「相手が感情的な時こそ、冷静を保て」「弱い者は嘘をつくが、権力のある者の嘘は許されない」など、シンプルなフレーズには貫き通すべき強い信念がある。“等身大のヒーロー”であり“理想の上司”ぶりが、多くの視聴者に支持されている。

以上が刑事5ドラマの特徴だ。

このように多様性を持つ5ドラマを、舞台が同じだから「選択肢が限られる」「ドラマへの熱が失われていく」と決めつけてしまって良いのだろうか。

しかも今期は、『母になる』『リバース』など、刑事モノ以外で高い視聴率と満足度を得ているドラマもある。ファンタジーや恋愛モノも放送されている。

20本を超えるドラマ全体を俯瞰して良し悪しを論ずることこそ、視聴者には無縁だろう。面白いと思えるドラマが何本かあれば、生活者はテレビに満足するはずだ。