『やすらぎの郷』はそれほど名作か? はたまた“裸の王様”は織り込み済み?<反批判のドラマ批評3>

テレビ朝日番組HPから

今クールからテレビ朝日が平日お昼に新設した帯ドラマ『やすらぎの郷』。

82歳の倉本聰が脚本を手掛け、主人公・石坂浩二(75歳)を初め、浅岡ルリ子(76歳)・加賀まりこ(73歳)・八千草薫(86歳)・有馬稲子(85歳)・五月みどり(77歳)など、かつてテレビや銀幕で大活躍した俳優が続々と登場する。

テレ朝は「2017年、酸いも甘いもかみ分けたシニアたちが楽しむ“シルバータイムドラマ”」と謳い上げてスタートさせている。

評価の声

実際に放送が始まると、高く評価する記事が目白押しとなった。

ほかのドラマと比べても、かなり濃くて“カロリーの高い”ドラマになっている

『やすらぎの郷』から目が離せない!“ドタバタコメディ”を成立させた役者たちの人生の厚み

作品を通して、我々視聴者はテレビの黄金期を支えてきた世代の「最後の本気」を受け取ることになる

すべてのドラマ・ファン必見、いや、すべてのテレビ好き必見の、今年最大級の問題作と言うしかない

早くも話題騒然、視聴率も絶好調  今年最大の問題作『やすらぎの郷』を見逃してはいけない

このドラマは、高齢者による、高齢者のための、高齢者に向けての、まさに「シルバータイムドラマ」です。では、高齢者しか楽しめないかと言えば、まったくそんなことはない。その辺りが“倉本ドラマ”の強さです

倉本聰脚本『やすらぎの郷』は、ゴールデンを凌駕するシルバータイムドラマ!?

やっと現代の老人を正面から描くドラマが出てきたように感じた

老人向け「攻めすぎ」昼ドラ『やすらぎの郷』が秀逸…過激なテレビ批判、現代の老人を問う

現在82歳にして8年ぶりの連続ドラマというのが信じられないほど、倉本聰の筆は冴えわたっている。いや、冴えわたっているだけでなく、とにかく唯我独尊にして傍若無人

今、日本で最もヤバいコンテンツは昼ドラ『やすらぎの郷』だ

申し訳ないが、これだけ手放しの絶賛が続くと、本当なのかと俄かには信じがたい。大御所が書き、多くの大物俳優が出そろっているために、ドラマの実態以上に褒め過ぎているんじゃないかと勘ぐってしまう。そこで早速、ネット上の声をチェックしてみた。

視聴者の評価は二極化

視聴者の感想を集めたサイト「チャンネルレビュー」には、4月27日までに80件の書き込みがあった。

5段階評価で、5が32%・4が25%・3が12%・2が10%・1が20%。平均値は3.40となった。

まず序盤では、ドラマへの期待の声が目立った。

「良かったです。お昼の楽しみが増えました」(評価5)

「大好きな往年のスターさんが出演なさるなんて、なんて素晴らしいんでしょう。キラキラ」(評価5)

「こんなに安心して見られるドラマは久しぶりな気がします」(評価5)

「会話だけでストーリーが成り立ち、引き込まれるのはすごい」(評価4)

ただし厳しい声も、当初から散見された。

「つまらん」(評価1)

「ダメだ。自分には苦手だ」(評価1)

「何だかテンポが悪いです」(評価2)

2~3週目に入ると、批判的な声が徐々に増えて来る。

「きたいはずれ」(評価1)

「このドラマに展開されていることは、今のテレビで、芸人たちが内輪だけに分かるネタで盛り上がっているのと同じです。視聴者には登場人物の過去は全く分かりません」(評価なし)

「下手でも若い男の子や女の子が必要という事、このドラマが教えてくれたわ」(評価1)

「愚痴の垂れ流しをドラマだとは思わない」(評価1)

データでみる実力

同じ2400人のテレビ視聴動向を追うデータニュース社「テレビウオッチャー」で見ると、視聴動向がもう少し詳細に浮かび上がる。

まず3週までの全15話では、延べ視聴者数は323人に及んだ。F3(女50歳以上)が67%、M3(男50歳以上)が24%。つまり49歳以下は1割に満たない。確かに「高齢者による、高齢者のための」ドラマになっている。

全話の平均満足度は3.70。「チャンネルレビュー」の3.40よりはかなり高い。「テレビウオッチャー」ではドラマの平均が3.6~3.7なので、『やすらぎの郷』は平均点以上と言える。ただし高く評価しているのは3.89をつけたF3だけ。同じ50歳以上でもM3は3.34とかなり悪い。F2(女35~49歳)に至っては3.14と相当手厳しい。

「テレビウオッチャー」はシングルソースパネルとなっているため、同じ人が15話を見続けたのか、途中で脱落したのか、連続ドラマの見方が浮かび上がる。

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それによると、初回を見た27人のうち、15回全部を見た人は2人だけ。見たり見なかったりの人と併せて、第3週では20人ぐらいの視聴者となっていた。第1週の平均視聴者数は24人だったので、やや右肩下がりとなっている。

原因は、第2週の途中から新規に見始める人がほとんどいなくなったのが1つ。さらに途中離脱者がずっと出続けている。つまり新たな視聴者の供給がとまり、見るのを辞めるひとが出ている分、総数が減っている。

例えば初回を見た27人のうち、直ぐに見なくなってしまった人は7人いた。2話から見始めた4人のうち1人も1回で脱落した。3話から見始めた8人では、半分の4人が間もなく離脱した。4話からの2人も1人がそうだった。5話以降も傾向は同じで、定着しない視聴者の比率が高いドラマになってしまっている。

普遍性の欠如

原因はやはり内容にある。

主人公が老人ホームに入る決意を昔からの友人に知らせる第2話では、飲み屋の1階に始まり、2階に席を移し、最後はラウンジバーに移行するだけという展開。

「話がちっとも先に進まない」(男47歳・満足度2)

「毎日同じ場面に感じられる」(女74歳・満足度4)

序盤からドラマとして違和感を持つ人がいたのである。

「過激なテレビ批判」を評価する記事もあったが、「芸人たちが内輪だけに分かるネタで盛り上がっているのと同じ」とあるように、テレビ批判がどれだけ普通の視聴者に響いたのか疑問が残る。

「現代の老人を正面から描く」という評価もあったが、「こんな処女だの、女を買うだの・・・。下品なセリフを真昼間から流す神経がボケてるのかと思います」「“女の3つのターニングポイン”は私も下品だと思った。そんな話がドラマや映画になっても決して見たくない」と反発する人も少なくない。

華やかな世界での事実の一つかも知れないが、“自分事”として共感できない視聴者が少なくないようだ。

65歳の女性は「思ったより面白くないなあと思い始めた」(満足度2)を最後に12話で脱落した。

73歳女性は「昔の有名人がオールキャスターはいいが、内容に乏しい」(満足度2)の言葉を残し、9話で離れている。視聴者の数として最も多いF3で見ても、第1週で見始めた26人中8人が途中で見るのを辞めている。

物語に普遍性が乏しいため、共感を得損なっていると見るが如何だろうか。

視聴率に拘るテレ朝の戦略

記者や評論家の高い評価に対して、視聴者の中に厳しい声が少なくないことを見てきたが、テレ朝の戦略として見ると、実は面白い事実が浮かび上がる。同局が49歳以下より高齢層を意識したチャンネルになり始め、かなり前から“老人チャンネル化”しているNHKと似てきている点である。

同ドラマは『徹子の部屋』と『ワイドスクランブル第2部』の間20分をこじ開けて編成された。当初3週間でみる限り、前年同期比で世帯視聴率は1%ほど上昇している。最大の原動力は、女65歳以上で視聴率がほぼ倍増した点だ。また男65歳以上と女50~64歳でも微増した。ただしそれ以外の層では、減少あるいは変化なしとなった。「高齢者しか楽しめないかと言えば、まったくそんなことはない」という評論家の評価があったが、事実は全く異なる。

つまり同局は若年層や中堅層を捨て、高齢層の支持だけを集めることで世帯視聴率向上を果たしたのである。

視聴率も売り上げも容易に作れない昼の時間帯で、若年層などを無視して高齢者で世帯視聴率を確保すれば、全日(朝6時~夜12時)や三冠の視聴率競争において、強いイメージを作り上げることが出来る。その結果、スポンサーとの向き合いで有利に働くこともある。

実は同局は、2010~12年にかけて視聴率を順調に伸ばし、三冠王にあと一歩まで迫ったことがある。G帯(夜7~10時)とP帯(夜7~11時)ではトップに立ったものの、全日(朝6~夜12時)で日本テレビにわずか0.1%及ばなかった。史上初の三冠王に、ほんのわずか届かなかったのである。

この頃同局の幹部は、「とにかく一度頂上に立つ」と視聴率への拘りを滲ませていた。特に日テレが強い全日で、若年~中堅層を捨て高齢層で世帯視聴率を作る作戦につながっていると思われる。

実際同局は、GP帯のドラマを刑事もの・ミステリーものに特化したり、シリーズ化したりして安定した視聴率を得ている。中高年に強いドラマに特化しているのである。

こうしたドラマの再放送を3時間編成している午後帯も、中高年に支持され好調だ。例えば今年1~3月の午後2時台では、日テレ『情報ライブミヤネ屋』に次いで、同局のドラマ再放枠が2位につけている。その最大の要因はF3首位だ。

お昼の時間も、『徹子の部屋』は民放の中で3位と好位置につけている。やはりF3トップが世帯視聴率を牽引している。

さらに朝8時台のワイドショー枠でも、同局は『羽鳥慎一モーニングショー』で民放トップを走っている。この番組も、F3とM3が首位だ。ただし49歳以下では、日テレ『スッキリ!!』やフジ『とくダネ!』に大きく水をあけられている。

この作戦は、50歳以上の人口が全体の45%に達している時代状況に合致したものと言える。5系列ある民放に“老人チャンネル”が出来ることは、多様性の担保という意味で悪くないかもしれない。

しかも広告営業対策や49歳以下獲得については、サッカーやフィギュアスケートなどスポーツの国際大会、GP帯のバラエティ、深夜のドラマなどで十分手は打ってあるということかも知れない。

さらに言えば、10~20歳代については、今後はAmebaTVで取り込んでいくということかも知れない。いずれにしても『やすらぎの郷』は、テレ朝の編成戦略を旗幟鮮明にした転換点かも知れない。

メリハリの効いた方針で、どこまで実績を伸ばすのか注目したい。