第3次メディア戦争勃発!?~テレビ画面の主導権は誰が握るのか?~

(ペイレスイメージズ/アフロ)

2016年度が終わる。

振り返ると、映像にかかわるメディア界はこの1年、歴史的転換点と言える出来事がたくさんあった。新年度にあたって、何がどう変わろうとしているのか、筆者なりの考えで整理しておきたい。

20世紀はテレビの時代

メディア史を振り返ると、20世紀は“映像の世紀”としてテレビがメディアの王様として発展した世紀だった。

前世紀の前半は、活字メディアたる新聞が君臨した。ところが半ばには、数百万から数千万人に情報を同時に届けられる音声メディアのラジオが急伸した。そして1953年に登場した映像メディアのテレビが、短期間に前2者を猛追し、1975年には広告費で新聞を抜き、メディアの王様となった。

テレビは「活字=論理」「音声=イメージ」「映像=リアリティ」の全てを兼ね備える。同時に全国津々浦々5000万世帯以上に瞬時に情報を届けられる。これらの機能が他メディアを圧倒した要因だった。

画像

ところが90年代半ばに普及を始めたインターネットにより、状況は一変し始める。リアルタイムに情報消費することが基本だったテレビに対して、オンデマンドかつピンポイントに必要な情報にアクセスできるインターネットが、大きな位置づけとなり始めたのである。

第1次メディア戦争

1990年代半ばから2010年頃までを、“第1次メディア戦争”と筆者は呼ぶ。

媒体別広告費で見ると、新聞とラジオは90年頃にピークがある。そして両者の地盤沈下は、インターネットによりもたらされる。ナローバンドからブロードバンドへ、そして従量制から定額制へとネットの進化が進み、活字や音声はネットで縦横無尽に伝達できるようになった。活字ニュースや音楽などがオンデマンドかつピンポイントに消費されるようになったのである。

この期間の主役はPC。職場では必須の道具となり、家庭でも6~7割に普及した。反比例するように、新聞とラジオの後退が進んだのである。

第2次メディア戦争

2010年頃から現在までが“第2次メディア戦争”

この間の主役はスマホやタブレットなどのスマートデバイス。これらの登場・普及で、“必要な情報”を“好きな時”に“好きな場所”で消費できるようになった。

博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が毎年実施している「メディア定点調査」によれば、生活者の1日あたりのPC接触時間は、2011年の81.7分がピーク。その後5年で20分減り、4分の3に縮小した格好だ。逆にモバイル(携帯・スマホ・タブレット)への接触時間は、2006年の11分が10年で115.6分と11倍以上に膨張した。両者の力関係逆転は2014年のことである。

画像

この10年で新聞とラジオの広告費は一段と収縮した。そして雑誌も1997年をピークとし、今世紀に入り減少を始める。しかも2000年代後半からは、そのペースが速くなっている。モバイルの進化で、今や新聞や雑誌を持ち歩くのではなく、個別の記事をスマデバで読む時代になろうとしている。

第3次メディア戦争

そして現在以降が“第3次メディア戦争”の時代。後に詳述するが、テレビ画面が主戦場になると筆者は見る。

グラフ「媒体別広告費の推移」を見ても、今のところテレビ広告はネットの影響をほとんど受けていない。08~09年の急落はネットによる浸食ではなく、リーマンショックなど米国発の世界的な経済不況の影響だ。10年以降は、新聞・雑誌・ラジオがいずれも大きく傷んでいるのに対して、テレビだけは微増を維持している。

グラフ「端末別接触時間の推移」を見てみよう。IP網接続端末であるPC・タブレット・モバイルの合計接触時間は約10年で90分ほど増えた。この間に新聞・雑誌・ラジオは30分以上減り、パイは3分の2ほどに収縮した。ところがテレビは、18分ほど減っているものの、比率にすると1割程度の減少に過ぎない。しかもこの統計はリアルタイムにテレビを見る時間だ。実際にはこの間に8割の家庭に普及したデジタル録画機の影響で、タイムシフト視聴が急伸している。これを足しあげると、逆にテレビ番組への接触時間は全く減っていない計算になる。つまり実態としてのテレビの媒体価値は、ネット大躍進にもかかわらず全く衰えていないのである。

舵を切った『放送記念日特集』

こうした変化を前提に、NHKはこの20年ほど『放送記念日特集』を放送してきた。

筆者も『テレビ放送50年特集 テレビは次の時代へ』(2003年)や、『テレビ~60年目の問いかけ~』(2013年)の制作を担当した。さらにここ数年、幾つかの番組に協力もしてきた。今年放送の『今 テレビはどう見られているか』についても、基本方針を決める際にお手伝いをさせて頂いた。

これまでは10~20代の若者のテレビ離れをテレビの危機と捉えることが多かった。ところが今回は、変質した関係性に可能性があると、初めてポジティブに状況を捉えた。

テレビはあまり見ないが、ネットを介して事実上テレビ番組を見ている人が少なくない。中にはネットも絡めて大ヒットするテレビ番組すらある。さらに世界を見渡すと、ネット動画・SNS・テレビなどに、番組を敢えて小分けにして露出し、結果として爆発的に見られるようになった番組すら出てきた。

こうした事実を紹介しながら、今のメディア環境に番組を最適化すれば、道はまだまだ開けるとしたのである。

生活者の情報消費の仕方は、アナログ時代とは決定的に変わってしまった。好きな情報を、好きな時に、好きな場所で、好きなように取得する時代だ。オンデマンドでピンポイントが情報消費のキーワードである。こうした状況にマッチして2016年に大ヒットしたのが、NHK大河ドラマ『真田丸』とTBS『逃げるは恥だが役に立つ』だった。つまりテレビ番組には、まだまだ可能性が十分あるという方向を、今年の『放送記念日特集』は初めて声高に主張したのである。

コンテンツの連携が始まった

テレビとネットの連動で、映像コンテンツの価値が大きくなる状況を認識した以外に、メディア間の連携で新たな価値を産もうという動きもこの1年で増えてきた。

まず去年4月に始まったAbemaTVは、テレビ朝日とサイバーエージェントの出資で、双方にとっての新たな価値創出を目指している。

日本テレビは14年春に買収したHuluと地上波テレビとの連携を深めている。テレビで放送された『地味にスゴイ!』や『東京タラレバ娘』について、スピンオフ・ドラマがネットで配信され、相互のプラスを模索している。さらに『ルパン三世』のスピンオフ・ドラマ『銭形警部』では、地上波テレビ・Hulu・WOWOWが連携して相互に送客するトライアルが実施された。

フジテレビは去年8月にFODプレミアムを開始した。ここでテレビ・SVOD・ADVOD・電子書籍などの連携を深めようとしている。例えば今年2月のFODコミック売上上位は、テレビで放送した番組の原作漫画が上位を占めている。新たな連携ビジネスが生まれようとしている。

ビジネスの連携が始まる

テレビとネットの連携は、コンテンツの領域に留まらない。ビジネスも大きく動こうとしている。

90年代後半に登場したWebTVの流れは、インターネット・テレビとか、IPTVとか、さらにはスマートテレビとかの言葉で繰り返し提案されては、あまり普及せずに今日に至ってきた。

TVメーカーが提供するスマートテレビ・プラットフォームを初め、ゲーム機やSTBなどを経由するタイプ、さらにはテレビのHDMI端子に接続するスティック型端子などである。

例えば日本では2015年、SVOD事業が盛んになった。NetflixやAmazonが日本に上陸した他、国内事業者も新たにサイトを立ち上げたり、既存のサービスを充実させたりしていた。

こうした事業者は2016年、PCやスマデバで視聴するだけではなく、リビングルームのテレビに映し出して見るタイプを大きく成長させた。サイトによっては、4割超がテレビでの視聴となっているものもある。

今年に入り、そのテレビを巡り幾つかの動きが出ている。

まずAmazonは来月、FireTV Stickの発売を始める。音声認識で操作できる「Alexa(アレクサ)」が利用できるようになるという。

WOWOWは今月末、デジタルテレビ向けのポータルサイトで映像配信サービスなどを行なっているアクトビラを子会社化する。既に5000万台以上の対応テレビが出回っている。この資産を活用して、テレビ向けの動画配信をビジネスに結び付けようというのである。

他にも、STBなどテレビ周辺機器を活用してテレビ向けネットサービスのポータルを構築しようとしている事業者がいる。

いずれにしても、生活者1人あたりのテレビ接触時間は未だに2時間半ほどある。テレビ離れと言われる20代男性でも、DAU(1日のアクティブ率)は9割ほどある。テレビ画面の主導権を握るのは、いわば映像情報の消費活動のボトルネックを握ることにつながるのである。

常時同時配信へ

この動きを促進しようとしているのが、テレビ番組の常時同時配信の動きだ。

総務省は「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、テレビ番組の常時同時配信を進めるべく議論を行っている。背景には自民党「放送法の改正に関する小委員会」の意向がある。2020年の東京オリンピックを視野に入れ、19年に常時同時配信を始めたいというのである。

NHKは『2015-2017 NHK経営計画』の中で、「新たな可能性を開く放送・サービスを創造」すると謳っている。「より多くの人にNHKコンテンツを届ける」ことが目的だ。具体的にはテレビ番組の常時同時配信を実現することで、16年度も試験的提供A・Bや、災害時などで放送同時提供を着々と進めている。本音は、将来にわたる受信料制度の安定化にあると思われる。

ところが民放は賛成していない。ビジネスとしての採算性がないとか、ローカル民放の経営を揺るがしかねないからである。しかし水面下では、常時同時配信の実現を視野に、幾つかの準備が始まっている。

例えば常時同時配信と見逃しサービスがシームレスに連動すれば、新たなビジネスの発展は十分あり得る。ローカル局の中でも、自局で番組を一定程度制作していれば、活路が見いだせないわけではない。

議論は本格化したばかりなので、まだ予断を以て結論を下すことは出来ない。

ただし映像情報のボトルネックを握る闘いは、テレビ画面の主導権争いを中心に進み始めることだけは否定できない。その一番大きな部分の戦争に勝ち残るか否かが、次の10年のビジネス展開を大きく左右する。この大物を前に、SNSや動画配信などの展開は、言葉は悪いが枝葉末節と言わざるを得ない。

インターネットが普及し始めてから、日本企業はボトルネックを握ったことがほとんどない。しかし今、少なくとも日本国内での可能性が出てきた言っても過言でない。政治・行政・メーカー・放送事業者・ネット事業者が関わる新たな戦争は、それほど大きな意味を持つのである。

次世代メディア研究所では、4月10日(月)と5月12日(金)に、この問題を議論するセミナーを開催する。詳細はホームページに掲載中>