ドラマ『リーダーズ』の教訓~“未来から逆算”経営 vs“現在の延長”経営~

番組ホームページから

2014年3月にTBSが二夜連続で放送した『LEADERS』。

第2次世界大戦前後、日本の未来のために、仲間を信じ、自動車作りに人生を賭けた男たちの生き様を、史実に基づいて創作したドラマだった。

経済ドラマのTBS

実はTBSは、この種の経済ドラマを時々制作してきた。

2013年夏クールには、『半沢直樹』があった。最終回の視聴率が42.2%と、TVドラマ史上2位に輝く人気作品だった。

14年春クールには、『ルーズベルト・ゲーム』が放送されている。中堅電子部品メーカーの頑張りを、野球部の存続に絡めた物語だった。

15年秋クールには、『下町ロケット』があった。精密機械製造の中小企業が、ロケットエンジンのキーパーツであるバルブシステムの開発に奔走するドラマだった。

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『LEADERS』は合計4時間の特別ドラマで、他3本は池井戸潤の小説を原作とする連続ドラマ。

平均視聴率でみると、28.7%の『半沢直樹』が断トツ。データニュース社「テレビウオッチャー」でも、視聴者数や満足度で傑出した記録を残した。

池井戸作品の他2本は、多少の違いはあるものの、TVドラマの平均と比べて優れた結果を残していた。特に満足度については、ドラマの平均が3.6~3.7なので、かなりの高好成績であることがわかる。

この中にあり、史実に基づくオリジナルドラマが遜色のない記録を残したのは快挙と言えよう。

「日本人の素晴らしさが確認できる」男64歳(満足度5)

「日本に活力を与えるすばらしいドラマでした」女32歳(満足度5)

「暗い日本に元気の出る内容で、自分自身にも活が入った」男61歳(満足度5)

「自分もやらなければいけないという気持ちになった」女41歳(満足度5)

『プロジェクトX』と『LEADERS』の違い

筆者は2000年に始まったNHK『プロジェクトX~挑戦者たち~』の視聴者分析をした経験を持つ。

“日本の誇りを再確認することの喜び”

“苦闘の末の困難克服への賞賛”

“過去の偉業を見て自らを鼓舞する”

こうした反応は、当時プロジェクトX現象と呼ばれた時代の反応と同じものを感ずる。

ただし『プロジェクトX』より10年以上後に放送された『LEADERS』には、もう少し別の意味合いが込められ、視聴者はそれを感じ取っているようだ。

「時代を築いたビジネスマンの生きざまに感動した」男44歳(満足度4)

「忘れていた何かを見せられた感じだ」女34歳(満足度5)

「リーダーの資質とは何かを考えさせられるドラマだった」男43歳(満足度4)

ひとつのプロジェクトを、無名の人々がチームワークで乗り越えていく感動を描いたのが『プロジェクトX』。2000年代初頭はまだ日本の製造業が強く、今日のような苦戦はあまり予想されていなかった。

バブルが崩壊して10年。“失われた10年”を超克し、激しくなってきた国際競争の中で、「日本の産業はもう一度頑張ろう」という空気に番組がシンクロしていたのである。

ところが、それから10年以上が経過した。

日本の製造業は大きく傷んでしまっている。しかも時代の主流はアナログからデジタルへと、いわばルールが大きく変わってしまっている。

そこで登場した『LEADERS』には、タイトルにある通り、“無名の人々のチームワーク”ではなく、チームを引っ張るリーダー論が込められていた。

そこに反応する視聴者も、30~40歳代を中心に確実に出てきている。

プレゼント・プッシュか?ヒューチャー・プルか?

今年1月にNHK会長は、籾井勝人氏から上田良一氏にバトンタッチされた。

籾井前会長は、会長就任の記者会見で、「政府が“右”と言っているのに、我々が“左”と言うわけにはいかない」と発言し、物議をかもした。そこには理想も未来像もなかったばかりか、メディアの存在意義についての理解が微塵も感じられなかったからである。

いっぽう上田現会長は就任早々の職員向けの挨拶の中で、「プレゼント・プッシュ型の経営ではなく、ヒューチャー・プル型の経営」と話している。

“プレゼント・プッシュ”とは、現状の分析から、その延長上にある解を導き出す発想だ。上田氏は、それでは「目の前のことに右往左往するばかりになってしまう」と警鐘を鳴らす。むしろ“ヒューチャー・プル”で、「将来の方向(目標)を定めて、それに向けて引っ張って行く」ことが大切と説いている。これまでのNHKが、公共放送の理想や未来像を示してこなかったことへの批判とも受け取れる。

実はメディア産業は、長年“プレゼント・プッシュ”でやって来た業界である。

日本の人口が増加し、経済全体のパイが拡大する中では、右肩上がりが約束されていた。

ところがアナログをデジタルがとって代わった。

紙など物質に情報を載せて伝達するシステムは、電子的な情報伝達に置き換えられ始めた。

20世紀にメディアの王様になった地上波テレビも、存在感が大きく損なわれようとしている。

タイムシフト視聴やネット利用が増え、端末が生活者にとって最も身近なデジタル・デバイス中心になろうとしているからである。

そんな“待ったなし”の時代の転換期に、その地上波テレビのドラマが、80年以上前に“ヒューチャー・プル”の発想で日本を変えようとしたリーダーのドラマを放送したのである。

愛知佐一郎の蹉跌

繊維工場の自動化で成功した父を持つ主人公・愛知佐一郎(佐藤浩市)は、外国車の解体から国産乗用車の開発を始める。

ただし「不可能」「今の会社が潰れる」と、上司である愛知自動織機社長・石山又造(橋爪功)に何度も反対される。ところが強引とも言える佐一郎と、彼の夢に賛同した部下たちの奮闘により、石山は次第に応援する側に回る。

いっぽう時代は戦争へと向かっており、佐一郎は軍用トラックの生産へと一旦回り道を余儀なくされる。しかも敗戦でGHQ占領下となると、ようやく成功した小型乗用車生産も、金融引き締めの影響で、アイチ自動車は倒産の危機に瀕する。

日銀総裁の財部(中村橋之助)は、自動車は輸入すれば済むことで、日本の企業は身の丈にあう今やれることを精一杯やれば良いと考える。当然、アイチ自動車のメインバンクなども、そうした考え方が主流で、経営はいよいよ追い詰められる。

結局、佐一郎は国産自動車の製造)の夢を守るべく、企業存続のために彼が最も避けたかった従業員1600人の人員整理に踏み切る。同時に自らの引責辞職を決め、夢は後進に託すことにした。

時代は皮肉なもので、志半ばで佐一郎が亡くなった直後に朝鮮戦争が勃発し、アイチ自動車は大躍進を始める。

“プレゼント・プッシュ”発想に囲まれ、“ヒューチャー・プル”は多くの障害に妨げられ、結局一個人では夢は実現しなかった。

しかし最初の壁となった石山又造が、佐一郎にむけた弔辞の中の言葉が、番組の骨太のメッセージとして見る者の心に残る。

「君の先見性と勇気を私は理解できずに、反対ばかりしてきた」

「君が話してくれた“無限動力”の話が思い出される」

「無限の動力があるとすれば、人間が情熱を燃やし続けて努力を続けること」

「次の世代へと困難に挑む熱情が絶えずに受け継がれていくことこそが、無限の力」

時代が転換点を迎えていることを、多くのビジネスマンは認識している。

ところが今の課題にかまけ、中長期的な課題への解として、今取り組むべきことを先送りしているのが現状だ。

そんな日本の今への警鐘として、『LEADERS』が制作されたような気がしてならない。