三浦友和・阿部サダヲ・堤真一 三者三様の父親像~『就活家族』『下剋上受験』『佐江内氏』の可能性~

各番組のホームページから

2017年冬クール・ドラマの中で、やや地味だが興味深いラインナップとなった父親主人公の3ドラマ。木曜のテレビ朝日『就活家族』・金曜のTBS『下剋上受験』・土曜の日本テレビ『スーパーサラリーマン佐江内氏』が週末にかけて直列し、今週で全てが終了した。

これら3作品には、3局の特徴が出ていた。三浦友和・阿部サダヲ・堤真一という3人の存在も興味深かった。さらに描かれた三者三様の父親像も、時代を反映した面白いキャラクターとなっていた。視聴者調査のデータや声を中心に比較してみた。

日テレドラマは初回に強いが・・・

初回から9回までの視聴率を見ると、まず『佐江内氏』がリードして始まった。初回に強い日テレらしいスタートだ。

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同局はドラマ開始前1週間、視聴率の高い夜のバラエティ番組などに、主演クラスを多く出演させ、巧みに番宣を行うことで定評がある(「TVドラマ再考<下> 日テレドラマの初回はなぜ強い?」参照)。今回も主演の堤真一は、1週間以内のGP帯4番組、当日3番組に出演し、方程式通りに高視聴率を獲得した。

ところがオーソドックスなドラマと違いコメディは、違和感を持ったり拒否反応を示す視聴者が必ずいる。

データニュース社「テレビウォッチャー」では、初回を見た人がモニター2400人中152人いたが、「(次回は)たぶん見ない」と答えた人が12人、「絶対見ない」が8人にのぼった。合計比率13.2%は、通常のドラマより高い。

この結果の通り、2話の視聴率は3.3%落ちて9.6%。視聴者の実数でも、初回を見た人のうち87人が脱落した。2話も見続けた人の比率は42.8%。『下剋上受験』57.9%、『就活家族』62.2%と比べると極端に低かったのである。

思い切ったコメディにとって、宿命のようにつきまとうリスクと言えよう。

ちなみに16年夏クールのTBS『神の舌を持つ男』(向井理主演)では、「たぶん見ない」「絶対見ない」の回答率は32.2%に上った。そして2話への残留率は30.5%しかなかった。同様のリスクが、極端に出ていたケースだった。

ただし『神の舌を持つ男』と比べると、『佐江内氏』の残留率はかなりマシだった。しかも初回の評判を聞くなどして2話から見始めた人が41人もいた。『下剋上受験』33人、『就活家族』30人と比べても、かなり多い。強烈なコメディの持つ2話目でのプラス作用と言えよう。

ところが2話目での新規視聴者が多い分、2話での「次回は見ない」率が8.5%と依然高くなった(『下剋上受験』4.0%、『就活家族』7.1%)。初回から3話までの残留率だと、『下剋上受験』41.2・『就活家族』45.9%に比べ、『佐江内氏』だけ26.3%と極端に低かったのである。

『佐江内氏』の中後半は安定

出だしでの出入りは激しいが、視聴者層が安定してくると『佐江内氏』の評価は上向く。

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満足度もジワジワ上昇し、7~9話では4.04・3.90・3.95と他2ドラマを大きく上回った。視聴率も裏の映画『アナと雪の女王』に大きく食われた8話は低かったがが、9話は10.5%と二桁に戻すなど大健闘した。

「ハチャメチャで面白い」男31歳

「漫画のような内容で、気楽に見れて面白い」女62歳

「まったりとしていて見やすい」男25歳

「何も考えずに笑って見られて楽しい」女45歳

「くだらないとか言いつつ、ここまで見続けたのはやはり面白かったのかな」女51歳

以上は満足度で最高ランクの5を付けた人の声だ。

『嘘の戦争』のように息をも付かせぬサスペンスや、『A LIFE』のような本格派ドラマに限らず、こうした脱力系ドラマにもニーズがあり、高評価を得られることを示した貴重な番組と言えよう。

同ドラマの評価が高いもう一つの理由は、子供と親が一緒に見られる内容になっている点だ。

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視聴者の男女年層別比率を見ると、女ではF2(女35~49歳)が最も多く30.7%、男もM2(男35~49歳)が最多で16.3%を占めた。男女2層で47%を占めたが、小中高校生と一緒に見た親が多かったためと思われる。

「子供が夢中でみている」女42歳(満足度4)

「子供と一緒に見られて楽しい」女32歳(満足度5)

「家族でみられる今期一番面白いドラマ」女57歳(満足度5)

評価が乱高下した『下剋上受験』

いっぽう初回~2話の視聴率が二桁となり、まずまずのスタートだった『下剋上受験』。

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ところが3話以降はジリジリ視聴率を落とし、8話では5.0%、翌9話で7.1%に戻すなど、動しく変動した。さらに満足度では、6話で3.98とハイスコアをとったかと思えば、8話は3.55まで落ちるなど、やはり出入りの激しい展開だった。

中卒の両親の娘が偏差値70超の難関中学を狙うというストーリーは、ちょっと極端過ぎる例で、自分事として捉えられないと感じた人も少なくなかったようだ。さらには中卒という学歴を跳ね返すために猛勉するという展開に、序盤で反発を覚える人が一定数いた。

「内容がイマイチ」女37歳(満足度は最低の1)

「学歴がないと人間と認められないような印象を受け、見ていて腹立たしい」女61歳(満足度1)

「ストーリーが不快」男37歳(満足度1)

「主人公の父親が自分勝手で共感出来ない」女27歳(満足度2)

それでも満足度は3話以降3.70⇒3.77⇒3.70⇒3.84⇒3.95と回を追うごとに伸びていた。

「テレビウォッチャー」はドラマの次回視聴意欲も調べている。「絶対見る」から「絶対見ない」までの5段階で評価してもらう調査だが、ここでも3~6回は『下剋上受験』が他の2ドラマより上を行った。

「家族愛も感じて温かいドラマだと思った」女33歳(次回なるべく見る)

「頑張る父親の姿が素敵だ」男20歳(絶対見る)

「親子で奮闘する姿に感動する」女47歳(絶対見る)

「わざとらしいと思いつつ、応援したくなる物語」男49歳(絶対見る)

昭和40年代半ばに放送されたスポ根アニメ『巨人の星』ではないが、貧乏・親子での頑張り・見守る母(アニメでは姉)という構図に、共感や郷愁を覚える人が少なくなかったようだ。

さらに偏差値40の子が70の難関中学に挑戦するという構図は、実話ということも含め、“為になるドラマ”として注目を集めていた側面もあったようだ。

「お受験に興味があったので、面白かった」女33歳

「どのような勉強方法が出てくるのか注目したい」男23歳

「今後の受験対策に興味があるので次回も見たい」女47歳

「中学受験の参考になる」女44歳

しかも特筆すべきは、3ドラマの中で1層(男女20~34歳)の比率が最も高かった点。恋愛ものでも、若者文化を背景にした物語でもないのにである。自分の受験経験に照らして、あるいはこれから直面する現実として、自分事化して見ていた若年層が多かったようだ。

評価が最も安定していた『就活家族』

『下剋上受験』も『佐江内氏』も、中後半にかけ視聴率が下落した。ところが『就活家族』だけは、中盤にやや下がったものの、後半はジワジワ盛り返し、最終回は初回を上回るほど盛況だった。満足度も後半にかけ上昇し、最終回は3.89とかなり高い値をマークした。

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序盤では、「平穏だった日常がふとしたことで狂い始めた家族/転落していくそれぞれの人生/秘密を抱えたこの家族に明日はあるのか…?」と制作陣がホームページに記した宣伝文にある通り、重苦しい空気が番組を支配した。

初回で「内容がひどく腹の立つドラマ」と記した女46歳の満足度は2。続く2話でも「内容がリアル過ぎて見ていてしんどい」とし満足度を最低の1とした。それ以降は見るのを辞めている。

2話で「家族がそれぞれ抱える問題が、結構重い」と答えた女50歳の満足度も2。3話でも「人の危うさを怖く感じた。誰もが持っていると思う」とし、満足度は2のままだった。

初回「ちょっと不愉快な内容で、あまり吸引力も感動もないので、厳しいかな」とした女65歳も、満足度は3だったが、2話以降視聴することはなかった。

それでも後半から最終回にかけて、評価はぐんぐん上がって行く。

6話で「考えさせられる点がたくさん」(満足度5)とした女49歳は、7話以降も「最終回の展開が楽しみ」(満足度5)などストーリー展開にハマっていた。

5話で「主人は現実的ではないドラマだといっていたが、私は反対で、どこの家庭にもおこりそうなドラマだと思った」(満足度5)とした女69歳も、6話以降で「歯車がかみあわない夫婦。少しずつ良い方向に向かっているようで安心した」(満足度5)と最終回に強い期待を持ち見続けていた。

誰にでも起こりうる身近な社会問題や家族関係を、過剰に演出したりせず、リアリティを持って描いていたため、共感した視聴者が少なくなかったようだ。

そして、待ちに待った最終回。評価はグッと上がった。

「家族がうまくいきそうでなかなかうまくいかない。見ていて何となくもやもやする気分が残った」と終盤ぎりぎりまでハラハラしていた女69歳は、最終回で「やっと収まる所に収まった感じで安心した」と満足度を最高の5にしている。

他にも「なかなか見ごたえのあるドラマだった」女54歳(満足度5)、「家族の個々の生きざま…考えさせられました」男41歳(満足度4)と、中身を噛み締めるようにラストを迎えた視聴者がたくさんいた。

実は『就活家族』の安定した評価は、3層(男女50歳以上)の比率が53.5%と過半という年齢層にも関係している。

テレ朝のドラマは、『相棒』『科捜研の女』『ドクターX』など、中高年に指示される作品が多い。水曜9時枠を刑事ドラマ、木曜8時をミステリーで固定し、さらにシリーズ化を多用することにより、視聴率は安定しているが中高年比率が高い枠となっている。

それらに影響されてか、毎回テーマを変えることの多い木曜9時も、中高年比率が高くなっていた。そして常連化した視聴者は、見続けるうちに徐々にドラマの世界観にハマり、高い満足度を付けるようになる傾向がある。

1層にとっての理想の父親像!?

ただし1層(男女20~34歳)に限ると、同ドラマへの評価は最初から高く、最後は異例のハイスコアになった。

F1は序盤から3.7台で推移し(ドラマの平均値は3.6~3.7)、最終回は4.25。M1に至っては3.8台でスタートし、途中で何度も4.0を突破し、最終回は4.30まで上がった。娘・栞(前田敦子)と息子・光(工藤阿須加)が20代という設定で、同世代から見た家族の問題、特に父親像を描いたドラマだったために共感するところが多かったようだ。

「家族みんながそれぞれ仕事に関しての問題を抱えて追い込まれていて、今後どうなっていくのかが楽しみ」と初めから強い関心を示していた女31歳は、「バラバラになってしまった家族が、最終的に新しい家で皆で一緒に暮らせてよかった」(満足度5)とした。特に「仕事人間だと思っていた父親が、家族の為に転勤を断って、子供達の相談相手にもなっていたことを知った母親は嬉しかったと思う」と、父親の変貌ぶりに感動していたようだ。

「表面はうまくいっていそうな家族だが、各々がいろいろ問題を抱えていて今後どうなるかが楽しみ」としていた男31歳も、「最終的に家族の絆が深まって良かった。続編がみたい」(満足度5)とラストを高く評価していた。

「何気なく見始めたドラマだったが、一話から面白く、最後もハッピーエンドで楽しめました」(満足度5)女30歳など、地味な内容・演出だったが、見入っていた若年層が少なくなかったのである。

「最初はつまらないと思ったが、回を進むごとに三浦さんの演技が光ました」女50歳の言葉にある通り、エリートのサラリーマンだった父親が、仕事で挫折を味わい、家族と向き合う中で成長していく物語は、様々な世代に思う処が多かったようだ。特に父親との関係が希薄な若年層ほど、三浦友和が演じた中高年になっても成長する父親像は、いぶし銀なれど眩しい存在だったようだ。

異なるタイプの父親像

家族のために、仕事との向き合い方を変えてまで一生懸命に生きた父親像は、『下剋上受験』で阿部サダヲが演じた父親・信一にも通ずる。

中卒という学歴が生む実社会での悲哀を娘には味合わせたくないと、仕事を辞めてまで娘と一緒に勉強を始める。途中、何度も挫折しそうになるが、最後ギリギリのところで厳しく対応し、娘・佳織(山田美紅羽)は二番手の超難関校に合格する。この間に親が想像しなかったほど、娘もたくましく成長していたというエンディングだ。

このドラマでも、『就活家族』同様、1層の評価が際立っていた。満足度の全話平均でみると、F1は3.8を超た。女の他の層より0.2~0.3点高い。M1に至っては4.0を超え、男の他の層を大きく上回った。

「頑張る父親の姿が素敵だった」「家族愛が良い、応援したくなる」男20歳(満足度5)

「親が子供を思う気持ちはすごいなと思った」女22歳(満足度5)

「阿部サダヲが面白くて笑えるけど、頑張る力をもらえる」女27歳(満足度4)

「こんなお父さん欲しかった」女27歳(満足度5)

一方『スーパーサラリーマン佐江内氏』では、普段硬派な演技を魅せる堤真一が、家では鬼嫁・円子(小泉今日子)の尻に敷かれ、会社でも冴えない万年係長の役で登場した。責任を負いたくないというくたびれた中年オジサンである。エプロン姿で皿洗いをしたり、スーパーマンのような変身スーツを着るだけで、ギャップの大きさに笑った人も少なくなかった。

「堤真一さんの演技が面白くてまた見たい」女41歳(満足度5)

「堤真一の力の抜けた演技は秀逸」男44歳(満足度5)

「昇格できなくて奥さんに責められているシーンは我が家のようで切なくなった」女39歳(満足度3)

「奥さんや子供達の横暴ぶりには佐江内さんが気の毒になりますが、ちょっと羨ましい」女53歳(満足度3)

基本的に頑張らない駄目なサラリーマン。『就活家族』や『下剋上受験』の逆を行く父親像を描いているが、脱力感やギャグで多くの視聴者を惹き付けた。

そして最終回。全ての責任を投げ出した佐江内氏は、スーパーサラリーマンも辞めてしまった。ところが妻・円子の危機を知り、再びスーパーサラリーマンとなる。ただし同ドラマらしく一筋縄では展開しない形で問題解決に至る。そして何となく家族の絆や責任感をにじみ出させる。

困難に直面し果敢に挑戦し克服して行った『就活家族』と『下剋上受験』は、扱うテーマこそ異なるが、ある意味伝統的なドラマの手法だ。一方『佐江内氏』は、困難に頑張って立ち向かわないという逆の手法で視聴者を集めておいて、最後に大切なことを声高でなくジワジワ伝えた。

実直な性格がそのまま出た三浦友和、熱い気持ちが前面に出た阿部サダヲ、普段の硬派の逆を行った堤真一。父親像も主役の演技も、やはり三者三様だった。

数値的評価を敢えてすれば、平均視聴率こそトップだが、中高年の比率が高い分、CM営業ではやや苦戦しそうな『就活家族』。

やや遅れをとったが、49歳以下視聴者比率7割と営業的には最も良い形を作った『佐江内氏』。しかも最終回で、しっかりHuluでのスピンオフ・ドラマ『小池刑事の鬼の取調室』の宣伝をし、ビジネス的には健闘した。

そして『下剋上受験』。シリーズの平均視聴率では1%強の遅れをとったが、視聴者の3分の2が49歳以下、しかも3割強が1層という結果は、まずまずの実績と言えよう。

父親を主人公にしながら、異なるアプローチでそれぞれ可能性を垣間見せてくれた3作品。TVドラマが開拓できる領域は、まだまだ少なくないと思わせる佳作揃いのクールだったと感ずる。