体育会『イッテQ!』vs書斎派『プレバト!!』~熱量は互角・ベクトルは真逆!~

両番組のロゴ(番組ホームページから)

日曜夜の鉄板『イッテQ!』

『世界の果てまでイッテQ!』が熱い!

日本テレビの鉄板となった『笑点』『DASH!!』『法律相談所』などの“日曜夜の縦の流れ”。ここで要の役割を果たし、NHK大河ドラマを初め民放の強敵番組を退け独走しているからだ。

視聴率で見ると、放送が始まった2007年は12%ほどだった。それが徐々に上昇し、13年の年間平均は16%台、14年18%台、そして15年には19%とグングン伸びていた。

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ところが16年は18%弱に後退した。この年は熊本地震を初めとする大災害・大事件が続発し、NHKが全体的に強くなったことが一因だ。さらに裏に当たる三谷幸喜の大河『真田丸』が高視聴率をとったため、煽りを食らった格好だった。

それでも今年に入ってからは、番組10周年関連の2月5日が22.5%で番組歴代2位。イモトが10年で100か国を制覇した12日のスペシャルが22.2%など、好記録が続出。今のところ平均が20%を超えている。

ドキュメントバラエティの進化版

バラエティとは、歌・トーク・コント・コメディ・ものまねなど、幾つかのコーナーを組み合わせた番組を指す。

歌謡ショーや落語・漫才などをそのままテレビで放映したのが、テレビ草創期の娯楽番組だった。そこから歌にコントやトークを加えた『光子の窓』(1958~60年・日テレ)が、日本初の音楽バラエティと言われている。

後にバラエティは、音楽・情報・トーク・コント・クイズなど、様々に分化・進化していく。その中でENG(フィルムを使わないVTR一体型ビデオによる映像・音声の取材システム)の登場により、『欽ちゃんのドーンとやってみよう』(1972~87年)で萩本欽一がドキュメント的手法に挑戦し、ドキュメントバラエティが成立していく。

この手法が発展したのが、『元気が出るテレビ』(85~96年)であり、『進め!電波少年』(92~2002年)だったと、日本テレビの土屋土屋敏男氏はいう。

そして、これらの番組をパクって誕生したのが、『サバイバー』や『ビッグ・ブラザー』など海外のリアリティショー。つまり世界の流行番組は、実は源流が日本のドキュメントバラエティにあったという。

いっぽう国内では、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(96~02年)、『ザ!鉄腕!DASH!!』(97年~)、『イッテQ!』(07年~)に引き継がれ、さらなる進化へと向かう。

強さの秘訣は“笑い”と“感動”。

出演者が本当に“笑う”“泣く”“怒る”“喜ぶ”など本物の感情と熱量が、多くの視聴者に支持されたのである。

『イッテQ!』でいえば、イモトアヤコの登山が典型だ。次々に世界最高峰の山々を征服しているが、14年のエベレストでは途中で登頂を断念した。その時の彼女の悔しがり方は本物だった。

他にも52歳のウッチャン(内村光良)が鉄棒の大車輪に挑戦する企画。長期に渡る練習で、傷だらけになりながらも達成できなかった。ところが収録3日前に最後の最後で成功させる。この中年男の不屈の魂には、理屈抜きの感動があった。

ドキュメント性&2路線の『イッテQ!』

以上のように屈強な『イッテQ!』だが、“日曜夜に家族で見る”を前提に、ドキュメント性以外に2つの路線を行っているように見える。キャスティングとわかり易さである。

キャスティングの「第一条件は不快感がないこと」。嫌悪感を持たれるような癖の強い出演者は、そのコーナーで毎分視聴率が下がる可能性がある。ゆえに、たとえ面白い芸人でも、日曜夜の番組としてはNGとのことである。

実は同局では2年前、演出家でタレントのテリー伊藤が朝の情報番組『スッキリ!!』を降板した。この時ある幹部は「もはや時代はテレビに毒を求めなくなった」と分析していた。毒による面白さより、不快に感ずる人がいるなどマイナス効果を重視せざるを得なくなったというのである。

「楽しくなければテレビじゃない」と毒も内包する娯楽路線でフジテレビが12年連続で三冠王をとった80~90年代とは、“最大公約数”の意味が今や明らかに変化しているのである。

もう一つのわかり易さとは、テレビゆえに“絵になる”ネタで勝負するという意味だ。

「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」「珍獣ハンター・イモト ワールドツアー」「イッテQ登山部」などの人気企画は、基本的に映像の面白さを前提にしている。ウッチャンの大車輪、イモトの登山、イモトと動物との競争など、どれをとっても一見するだけでわかる。子供から高齢者まで老若男女を問わず見てもらうための大前提なのである。

実際に同時間帯の全番組で比較すると、60~70代こそNHK大河ドラマが上回ることが多いが、他の世代は男女を問わず全て『イッテQ!』が断トツでトップを行く。“テレビ離れ”が言われる10代でも、10%台後半をコンスタントにとる盤石ぶりだ。

書斎派で勝負をかけた『プレバト!!』

絵になり易いネタのため、『イッテQ!』のタレントは体育会的な振る舞いをすることが多い。この真逆を狙ったのが『プレバト!!』(2012年~)だ。「才能査定ランキング」を基本コンセプトにしている通り、ネタは頭の中にあり“絵になり難い”。ガチンコ対決のドキュメント性はあるものの、明らかに書斎派のドキュメントバラエティなのである。

同番組の視聴率の軌跡を振り返ってみよう。

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スタート当初半年の平均視聴率は8.1%。翌13年は7%台前半にまで落ち、けっこうピンチだった。ところが「才能査定ランキング」を中心にして数字は盛り返す。14年9%台半ば⇒15年9%後半⇒16年上半期11.1%⇒16年下半期13.3%とうなぎ登りになっている。

さらに今年に入ると、1月5日放送のスペシャル版が17%の快挙を達成。その後も14%台を2回出すなど、勢いはますます盛んになっている。バラエティ番組の週間ベスト10でも常連になり始めている。

俳句・生け花・水彩画・料理の盛り付けなど様々なジャンルに芸能人が才能の有無を競うという、ちょっとハイブローな内容だ。しかも俳句などは絵になり難い。この路線に挑んで高視聴率をとっているのは快挙と言えよう。

不勉強な筆者が初めてこのバラエティに気付いたのは去年春。

『プレバト!!』にTBS好調の兆しを見た!に詳述したが、お笑い芸人の千原ジュニアが、俳句と絵手紙の両ジャンルで意外な才能を見せたこと。芸能人、挑むジャンル、そして専門家の添削振りがジャストフィットすると、“ためになり”かつ“楽しめる”番組として、大いに可能性を見せてくれたのである。

『イッテQ!』が“笑い”と“感動”の最高峰とすると、『プレバト!!』は“笑い”“驚嘆”の他、知的に“感嘆”できる番組だったのである。

十七文字のプロレス「俳句の才能査定」

最も人気のコーナーは「俳句の才能査定」だ。

出演者全は「お題」を基に一句詠む。各人の句を査定員の夏井いつき氏がメッタ斬りにするのだが、彼女の容赦のない毒舌と、添削した結果の句が見違えるほど名句に変貌する様は“な~るほど”と頷かざるを得ない。

芸能人や著名人の悪戦苦闘と、そこまで言うかと否定される様に、大爆笑できる。しかも最後に夏井氏の手直しを見て、俳句の奥義を垣間見た気になれ、お得感満載といったところだ。

例えば2月23日放送回。

名人6段の梅沢富美男は、「菜の花」を俳句に詠む特待生昇格試験に挑戦した。インフルエンザに罹り病床で作ったという句は「菜の花や 厨(くりや)に眠る あさり貝」。

MCに病気を気遣われ、「風邪ひいたから俳句が出来ない。そんな名人じゃない」と応えた。そして「日頃やらない技を使ってみた」と野心作であることを強調した。「菜の花」と「あさり貝」を敢えて“季重なり”で攻めてみたのである。名人ならではのテクニックと“ドヤ顔”まで見せた。

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ところが夏井氏は昇格試験のポイントを「季重なりが成功しているか?」とした上で、「昇格なし!」と切り捨てた。

その上で季語2つの強弱を強調すべく「菜の花や 厨にあさり 眠らせて」と添削した。静かな光景で終わることで、冒頭の強い季語に読み手の意識が戻る。「こういうのをやってこそ名人芸」とし、「まだ早かったかな」と富沢の過信ぶりに冷水をぶっかけた。

これに対して「このババァふざけやがって」と富沢は怒り心頭。

「あさり貝くらいの細かい事で、グズグズぐずぐず言ってる場合じゃねえ」「具合悪かったんだぞ」と罵詈雑言を浴びせる。最初に「風邪ひいたから俳句が出来ない。そんな名人じゃない」と啖呵を切ったことをすっかり忘れている。

遺恨試合は今月2日放送回に持ち越された。お題は「ひな祭り」。

「なっちゃん胸キュンすると思う」という自信作が「桃色の 先になくなる 雛あられ」だった。

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これに対して夏井氏は、昇格試験ポイントは「描写のオリジナリティ」とした上で、3回連続の「現状維持」を出した。

この瞬間、梅沢の表情は凍り付き、「何で現状維持なんだよ」とかみついた。

ところが夏井氏は、雛あられの他ドロップや金平糖など、色付が先になくなる句は時々ある発想と取り付く島がない。その上で「白ばかり 残りて雛あられ クスクス」と直す。

「6段ですから、これくらいはやって頂かないと」と“一昨日おいで”と言わんばかりの涼しい顔だった。

本物に拘る演出

『プレバト!!』では、日ごろ表現の仕事に就く芸能人たちが、特定の表現ジャンルで「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」というランク分けされるため、出演者はみな必死だ。

一句ひねり出すまでに、相当の時間をかけている。その熱量が、ついスタジオトークに凝縮し、時には暴発する。そこに笑いが生まれるのである。

実は当番組では、スタジオドキュメンタリーを成立させやすくするため、回答者と夏井氏の撮影を別々のスタジオに分けている。

「あの距離感がベスト」「さすがの夏井先生も初対面の芸能人を目の前にしたらどうしても優しくなってしまう」「大御所や強面の芸能人に臆することなく繰り広げられるあの添削はモニター越しだからこそ」と演出を担当する水野雅之氏は答える。

また生け花・水彩画・料理の盛り付けなどでは、そのプロセスをVTRにして、“絵になり難い”頭の中の才能を“見える化”しよう努力している。そのわかり易さも“テレビで成功”の秘訣の一つだろう。

熱量と才能が上質の知的エンターテインメントにつながっている『プレバト!!』。

日テレが創り出したドキュメントバラエティを除くと、今世紀は雛段芸人が並ぶトークバラエティが多く、どの局を見ても同じような番組が多いと、批判の声もしばしば聞こえていた。

「日本トップクラスの講師が無料で分かりやすく教えてくれる主婦向けカルチャースクール番組」の異名を持つ同番組は、日テレの看板番組の逆を行くことで、バラエティの新たな路線を切り拓く可能性が出てきた。関係者の奮闘に期待したい。