ルパン三世『銭形警部』日テレ×Hulu×WOWOW共同制作の意味~ビジネスモデルが作品を規定する~

番組ホームページから

『ルパン三世』でおなじみ銭形警部。

神出鬼没の大泥棒逮捕に執念を燃やすが、「いつもルパンに逃げられているドジな刑事」の印象だ。

しかし「頑固一徹で悪を決して許さない」「人情味あふれる優秀な刑事」という一面に光をあて、3社がそれぞれ異なるドラマを制作した。

日本テレビは「金曜ロードSHOW!」で『銭形警部』として放送した。

Huluは日テレの放送と同日から、『銭形警部 真紅の捜査ファイル(全4話)』の配信を始めた。

そしてWOWOWは、『銭形警部 漆黒の犯罪ファイル(全4話)』を、本日から放送する(第1話は無料)。

同じ人物を主人公に、3社はそれぞれ異なる物語としてドラマ化した。

それら3社の各作品を見ると、大枠が同じながら少しずつ異なるテイストに仕上がっていることがわかる。

その違いは、実は3社のビジネスモデルの違いに由来すると筆者は見る。何がどう異なるのか。その差の目的は何なのか。

相互に連携した刑事ドラマ3本が成立した背景を推理してみたい。

最大公約数を狙った日テレ

トップバッターは日テレの「金曜ロードSHOW!」。

ルパン三世の仕業に見せかけた名画盗難事件を、「犯人はルパンではない」と断言する銭形(鈴木亮平)が、捜査一課の桜庭(前田敦子)、国木田(三浦貴大)と共に独自捜査で解決。その後の爆弾事件も、犯人と警察との“知恵比べ”を経て逮捕するまでを描いた作品だ。

視聴率は12.5%。同枠は今年に入って、『天才バカボン2』を初め、ジブリ映画3本、邦画『ツナグ』と来ていた。このうちジブリ映画以外は全て視聴率が一桁に留まったので、12.5%は十分合格点と言えよう。

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データニュース社「テレビウオッチャー」の男女年層別視聴者数で見ると、男女35~49歳層の比率が43.8%とジブリ3作品を含めても突出して高い。親と随伴視聴した子供たちも多かったと推測されるが、ジブリ映画や『天才バカボン』に負けず劣らず、実写の刑事ドラマが親子で見られたとすると、やはり大成功と言えよう。

コメディ色が決め手!?

ただし「テレビウオッチャー」の満足度は、5段階評価で3.40と今年最低。

それでも主役の銭形を演じた鈴木亮平の評価は高かった。

「銭形警部をとても研究した感が出ていて感心しました」女39歳(満足度5)

「アニメの実写ドラマは期待してなかったけど、主役の銭型警部役の人が良い味だしていた」男42歳(満足度5)

「鈴木亮平すごい。あんなに文句ない銭形のとっつあんになりきれるなんて」女23歳(満足度5)

一方、アニメの実写版に対してや、銭形警部を主役にしたことへの評価で厳しい声もあった。

「ルパンが出てくるのかと思いきや、銭形警部の謎解きでおわりました。よくあるドラマのようにもみえて、面白さはあまりありませんでした」女25歳(満足度3)

「割と普通の刑事ドラマだった」男44歳(満足度3)

「少し期待して見たがやはり実写ではアニメのような楽しさはなかった」男56歳(満足度1)

日テレはGP帯(夜7~11時)の番組なので、視聴率を最優先する。

ルパン三世の知名度は番宣として大きい。ただし銭形警部を主役にしたのは、アニメではいつもドジな警部を熱血漢に描くことで、視点や物語性で新しさを出そうとしたのだろう。単発ドラマとしては、認知度を高め、視聴率をとりやすい素材だった。

視聴率を盤石にするため、“わかり易さ”や“コメディの要素”を意識していた。

日テレのドラマは『家売るオンナ』『地味にスゴイ!』『東京タラレバ娘』など、“バラエティ的なドラマ”が多い。ライブで見てもらうためだ。今回の『銭形警部』にも、そんな工夫が随所にみられる。

警察との“知恵比べ”を仕掛ける犯人が出すクイズは、視聴者も家族で一緒に考えられるシーンだった。

銭形警部に振り回される桜庭と国木田だが、犯人の逃走を再現・検証するシーンでは、桜庭が国木田を実際に殴ってしまい、鼻血ブーとなる。鼻にティッシュを詰めて、ヘロヘロになりながら走る三浦貴大の演技は、完全にコメディだ。

音楽も滑稽な雰囲気を盛り上げていた。担当の得田真裕は『家売るオンナ』でも活躍したアーティスト。ドラマのバラエティ化で大いに機能していた。

Huluへの誘導

日テレは2014年にHuluを買収し、SVOD(定額制のビデオオンデマンド)事業に邁進している。

そのために地上波からHuluへの送客をこれまで何度も試みてきた。放送する番組の最後に、「Huluにて配信中」と告知するのが基本だが、他にもいろいろある。

2015年6月には、『ラストコップ』の初回を放送し、2話以降をHuluで配信することで加入者増を図った。

他にも『アベンジャーズ』の短縮版を放送し、ノーカット版を配信に回すなどしてHuluの加入者増を図ったこともある。

深夜番組『マジすか学園』『HiGH&LOW』などでも、放送版にディレクターズカットを加えるなどして、Huluへの送客を図ってきた。

そして今回の『銭形警部』だ。

放送と同日に『銭形警部 真紅の捜査ファイル(全4話)』の配信を始めた。

第1話『凶弾から少女を守れ!』は、強盗殺人事件で両親を射殺され一人生き残った娘の沙羅(住田萌乃)が、入院中に犯人・加賀見(要潤)が命を狙いに来る。銭形(鈴木亮平)と桜庭(前田敦子)が、凶弾から少女を守り切れるか否かの物語だ。

日テレの放送がバラエティ色を出していたのに比べ、Hulu版はホラー色を前面に出している。

実はHuluには、『フジコ』全6話の配信という成功例がある。凄惨な内容と驚きの仕掛けから、長く映像化は不可能といわれてきた小説だが、地上波の常識を超えてエグい作品とした結果、VODとして大ヒットした。

最大公約数をとるため、壮絶なシーンなどをセーブせざるを得ない地上波の番組と異なり、ごく一部の人に受ける極端な作りが、SVOD事業では成功の近道だ。

Hulu版『銭形警部』は、明らかにその延長上にある。

第3の道を行くWOWOW

一方WOWOWは、バラエティ色でもホラー色でもない。緻密で理詰めのミステリー路線を選択している。

そもそもWOWOWは有料放送として、ハイクオリティに拘っている。地上波のドラマにはない本格作品を並べることで、お金を払ってでも見たいチャンネルの運営に挑戦している。

そのWOWOWにも成功例がある。2014年4月からTBSが放送した『MOZU』Season1に続き、6月から放送した『MOZU』Season2だ。

この時のTBSの視聴率は11.0%。連続ドラマとしては可もなく不可もない成績だ。

ところがWOWOWは、この放送で約5万の新規加入を獲得した。有料放送としては画期的な成績だった。同作も「映像化不可能」と言われ続けてきたが、のべ6日間にわたる道路の通行規制などで、爆破シーンやカーアクション場面を撮った映画テイストの刑事ドラマだった。

Season1の放送で1000万人以上が作品に魅入った結果、5万人がお金を払ってでも見たいと加入したようだ。

有料放送の世界では、新規加入1件を獲得するコストが2~3万円と言われている。作品の力で5万契約を得たということは、10億円以上の効果だ。それを半額以下の制作費で達成し、しかも新たな作品をのべ10時間以上も手に入れたことになる。経営的には盆と暮れが一緒に来たような快挙と言わざるを得ない。

『銭形警部』WOWOW版が緻密で理詰めのミステリー路線となったのは、この時の知見が大きいと筆者は見る。

「友よ静かに眠れ(前編)」は、細かいシーン・カット・セリフがモザイクのように散りばめられ、緻密な計算のもと作られたミステリー。背景の音楽も緊張感を煽る。

例えばドラマ前半では、事件真相を解くヒントとして色々な布石が打たれる。セリフ、写真、ナイフ、ハサミなどだ。

後半になると、それら布石の回収が始まる。その際のシーンやカットの編集はテンポアップされ、緊張感の高まりが巧妙に演出される。

事件の経緯説明や銭形の推理も、各シーンのフラッシュバックを入れ込むことで、分かり易く映像化されている。

そして番組後半、銭形が事件の真相を見破る思考プロセスも、各シーンのフラッシュバックで表現される。各カットは2秒ほど。カット替わりには、布石となったハサミを切る音が効果音として入る。さらに銭形の思考が真相に近づくにすれ、カットは徐々に短くなり、最後は1秒ほどとなる。核心に届いた瞬間、効果音はスイッチ音に切りかわっている。緊迫感を加速させる演出は見事としか言いようがない。

しかもドラマのストーリー展開は、初回では犯人や動機の一部が解明されるだけで、背景に潜むより大きな存在は仄めかされるだけに留まる。地上波で放送された『MOZU』Season1で作品世界の中毒患者を創り出し、有料のSeason2に誘導した時と同じく、WOWOWが無料で放送する「友よ静かに眠れ(前編)」は、見事に誘導役を果たしている。

日テレ番組を調べた「テレビウオッチャー」モニターの声にも、そうした機能を示す声が幾つか見られる。

「続編も期待」男51歳

「続編があるならまた観てみたい」男42歳

「Hulu版も観たい」男31歳

「これからも視たいけどWOWOWやHuluでしか視聴できないのは残念」女68歳

さて実際に『MOZU』の時のような効果が出るのか。

『銭形警部』の作品の演出と共に、視聴者の動向も気になるドラマ展開だ。