『カルテット』は“ドラマ通”と“深読み”が生んだ“名作”<反批判のドラマ批評2>

番組HPから

世の中には4通りの人間がいる。

多数派・少数派という軸と、声が大きい・小さいの軸で出来る4領域で、恐らく一番数が多いのが“サイレント・マジョリティ”=モノを言わぬ大衆だろう。

反対に一番目立つのが“ラウド・マイノリティ”。数が少ないが、声が大きいので影響力の大きい人々だ。

この両者の間に、“ラウド・マジョリティ”“サイレント・マイノリティ”がいるのだろう。

インターネットの登場で、俄然存在感を増したのが“ラウド・マイノリティ”

ネット上にはこうした人々の意見が流通し、あたかもそれらが世の中の常識のように見えてしまう。しかしここで気をつけなければならないのは、単なる少数意見かも知れないという事実だ。

『カルテット』は“名作”

ネット上の各種記事を読んでいると、今クールGP帯民放ドラマで最も評判が良いのは『カルテット』ということになっている。

初回放送の直後には、「ドラマ『カルテット』評判高い理由!逃げ恥より人気?」が掲載された。

「初回放送後にSNSで評判が広まっています」「前評判も良かったですけど女性層の評価がとても高いです」「『逃げ恥』では“ムズキュン”という用語が評判になりましたが、『カルテット』ではすずめ役の満島ひかりが“ミゾミゾする”がYahoo!リアルタイム検索で急上昇していて面白いです」

「今期、最もクセになるドラマ『カルテット』の魅力とは?」では、「幅広く万人ウケはしないかもしれない」と断った上で、「しかし続きが見たくなるドラマ、クセになるドラマとしては、今期ピカイチの出来だ。」と絶賛する。

「『カルテット』は『逃げ恥』に続いてネットから火がつく可能性があるか?~新指数“視聴熱”の試み」も今期一押しという。「TBS火曜10時枠のドラマ『カルテット』が面白い。『逃げるは恥だが役に立つ』と同じようにツイッターでの反応も高い」「このクールは面白いドラマが多いが、私としてはいちばんのお気に入りだ」

他にも「『カルテット』ドラマ通が絶賛も視聴率低迷の3つの理由」が「1月クールスタートの連続ドラマのなかで、専門家の間で絶賛されている作品」と褒めている。

「ドラマ『カルテット』の緻密で温かな“会話劇”の冴え、今期作品群で際立つ評価」は、「深読みを楽しむ視聴者が続出」「“名作”の共通項はジャンル分けしづらさ」「言葉のセンスが独特かつ詩的でケレン味があり胸に響く」などの項目で、同ドラマの傑出ぶりを説明している。

“ヒット作”とは言えない!

TVドラマが名作か否かの正確な定義を筆者は知らない。一部の人々が絶賛すれば、それは名作と呼んでも良いのかも知れない。

しかし今やどの民放も、「視聴率より“何か”を優先してドラマを制作することはない」という。つまり視聴率だけが目的ではないものの、高い数字を獲得することは重要なゴールとなっている。

その意味では、『カルテット』は決して成功しているとは言えない。

4話までの視聴率は、9.8⇒9.6⇒7.8⇒7.2%。ピークから約27%を失っている流れは、褒められたものではない。

ただしデータニュース社「テレビウオッチャー」による満足度は、3.49⇒3.67⇒3.84⇒3.95と順調に上がっている。そもそも視聴者が特定層に純化されて行くと、満足度は上がる傾向にある。同ドラマは“ドラマ通”あるいは“高リテラシー層”の比率が高まったために、満足度が上がっている可能性がある。

その意味では駄作とは思わないが、TVドラマとしては“質も量も獲る名作”にはなっていない。

この辺りを正確に説明している評論もある。

「『カルテット」ドラマ通が絶賛も視聴率低迷の3つの理由』は、「“これ”というテーマがつかみにくい作品」

「録画されやすい」「SNSをフル活用した『逃げ恥』とのPR戦略の違い」の3点を挙げ、数字が伸びない理由を説明している。

まず1点目は、「“全員片想い”のラブストーリーであり、“全員嘘つき”のサスペンスであり、会話劇のコメディのようでもあり、現時点では“どんな目的でどんなゴールに向かって進んでいるのか”、つかみにくいところ」があるという。

TVドラマは主に居間で鑑賞する作品だ。家族に話しかけられたり、電話がかかってきたり、はたまた宅配便が届くかも知れない。わざわざお金を払って集中的に味わう映画とは異なる。

“視聴者がどこに連れていかれるのか分かり難い”は今の時代、端から視聴率を意識しなかったのか、思い違いをしていたのか、もしくはケアレスミスとしか言いようがない。

制作者は専門家と大衆との間をつなぐ“通訳”

『視聴率低迷の3つの理由』の2つ目に、「録画されやすい」が挙げられた。「視聴者の多くは坂元裕二さんのつむぐセリフの面白さに期待していて、それを“聞き逃したくない”“繰り返し聞きたい”ため、リアルタイム視聴ではなく、録画視聴を選ぶ傾向が強い」という。

「唐揚げ洗える? レモンするってことは不可逆なんだよ。二度とは戻れない」

「練習したから、失敗するのが怖いんです」「キッチンきれいにしたから料理したくないのと、同じですね」

「告白は子どもがすることですよ。大人は誘惑してください」

「泣きながらご飯食べたことがある人は生きていけます」

これら日常生活の中の何気ないセリフが、鋭いと話題になっている。しかしこれらのセリフは、“深読みしたい人”“言葉を楽しみたい人”には好評だが、“そうでもない人”も少なくない。

「台詞がいいときもあるけど、基本つまらない」37歳女性

「どちらかと言えば苦手な台詞回しかも」46歳男性

「期待していたのですが、しつこいというか、面倒な感じの会話に疲れます」57歳女性

「制作の意図が伝わってこない」「視聴者を引き付けるものがない」79歳男性

「一応毎回見ているけれど、世間がいうほどいいドラマだとは思えない」45歳女性

「淡々としていてあまり面白くなかった」33歳女性 

・・・「テレビウオッチャー」モニターの声

こうした声がたくさん出るには原因がある。

脚本の坂元裕二は確かにセリフが上手い。「しかし巧者すぎて、セリフ劇として何処が決めセリフか分からない。ドラマにはマックスに導くダレ場が必要なのに、セリフのダレ場がないので伝わらないし展開もない」と現役のドラマ・プロデューサーは首を傾げる。

“会話に疲れる”“制作の意図が伝わらない”と視聴者に感じさせてしまい、果ては“基本つまらない”と途中で逃げられてしまう所以である。

こうなってしまったのは、シナリオライターではなく、TV局制作陣の責任だと筆者は考える。

「作家性の強いドラマが受け入られるといいなぁ」と考えて制作したのだと思うが、やはりテレビは多くの人を説得してなんぼの世界だ。

“作家性が強い”“味わい深い”などと主張しても、普通の人が付いてこられないドラマでは意味がない。ごく一部の“ドラマ通”や“高リテラシー層”だけに通ずるのではなく、専門家と大衆をつなぐ役割がテレビ制作者の本分だ。その意味では、今回は必ずしも優れた通訳ではなかったと言わざるを得ない。

SNSでヒットが生まれるのか?

『視聴率低迷の3つの理由』の3つ目に、『逃げ恥』との比較で「PRの違い」が挙げられた。筆者はこの部分にあまり同意できない。

「『逃げ恥』だけが社会的なブームになったのは、PRが飛び抜けて凄かったから」と断じている。

『逃げ恥』では「SNSをフル活用」し、「恋ダンスや毎話10数分のダイジェスト動画」を配信したのでネット上で新規視聴者を作るサイクルが機能したというのである。

同じような意見は、「『カルテット』は『逃げ恥』に続いてネットから火がつく可能性があるか?~新指数“視聴熱”の試み」でも展開された。『逃げ恥』大ブレークの理由として、「“恋ダンス”は、ドラマ大好きと、慎重派の間の断層を突き破り、ついには無関心層へも届いた」としている。

ところが、そうとは安直に言えないことを、拙稿「『逃げ恥』の視聴率上昇は“恋ダンス”のおかげ?」で説明した。2話以降に初めてリアルタイムに番組に接触した人の中で、放送以前に「恋ダンス」に接触した人はごく一部に限られ、『逃げ恥』視聴の誘因になったとは断定できないという論理だった。

同様の意見を導くデータは他にもある。

ビデオリサーチ社が去年10月から始めたタイムシフト視聴率の測定では、『逃げ恥』の録画再生視聴が極めて大きいことが確認されている。しかもデータでは、エンディング部分がどう見られたかを追えるようになっていた。これによると、エンディング部分を複数回再生した人は、そのリピート数が数十回に及んでいたという。つまりダンスを覚えたくて、何度も何度も見ていたのである。

このデータから推論できるのは、ネット上の「恋ダンス」が1000万回見られていたが、1人が30回見たと仮定すると視聴者数は33万人に留まる。これでは視聴率に大きな影響は及ぼせない。

ドラマそのものにハマることと、エンディングダンスに興味を持つということは、必ずしもシンクロしないのである。

ただしネットの記事に意味がなかったとは筆者も考えていない。

しかしそれは、テレビ局側がしかけたネット展開の影響が大きいという意味ではない。多くのネットメディアやユーザーが『逃げ恥』を見て、面白いと思ったから取り上げ、それらが正鵠を得ていた場合、より多くの読者の心を動かし、新たに『逃げ恥』を見始めさせたのである。

送り手たるテレビ局が宣伝のために発信したものが、大きな成果を上げる例はあまり多くない。

『逃げ恥』の場合、やはりドラマそのものの力が大きかった。

“契約結婚がスタート”という今までにない恋愛のパターン。しかもIT企業に努める35歳童貞という“絶食男子”の設定。しかも不器用な彼が恋愛という人生の難関に挑戦するストーリーであり、新垣結衣演ずる“小賢しい”女性も一緒に成長して行くお話しだ。物語そのものに絶大な吸引力があったと考えるのが自然だろう。

そもそも近年に大ブレークした『家政婦のミタ』(2011年)や『半沢直樹』(2013年)に、エンディングダンスや特筆すべきネット展開があっただろうか。ドラマ自体の力以外のネット取り組みが、大ブレークの原因だったという証拠は何もない。

『逃げ恥』ヒットの原因がSNSやネット展開という論は、かなり牽強付会で我田引水と言わざるを得ない。

データは語る!

最後に『逃げ恥』と『カルテット』の視聴動向を「テレビウオッチャー」のデータで検証しておきたい。

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初回の視聴者数を100とすると、『逃げ恥』は全話を欠かさず見た人が多いドラマだったことがわかる。

ドラマ通や高リテラシー層に受けるはずの『カルテット』だが、忠実な視聴者はさほど多くない。どっぷりハマった人がたくさんいたとは言い切れない。

都合があわず、一旦リアルタイムでドラマを見られなかった人が、再び戻って来る状況で見ても、両ドラマの差は歴然としている。モニターの自由記述で紹介したが、『カルテット』では一旦離れた人の中に、戻る気のない人がそれなりにいた可能性が高い。途中離脱者は、『逃げ恥』ほど後ろ髪を引かれていなかったようである。

新規視聴者の数も、第3話で3倍ほど、4話でも大きく異なっている。話題の瞬発力でも差は歴然としていたと言わざるを得ない。

以上が『カルテット』名作論は、“ラウド・マイノリティ”が作り上げたものであり、4話までで判断すると多くの人はそこまでは惹き付けられてはいなかったということだ。

去年春放送の『重版出来!』と比べて評価する意見もあったが、あまり視聴率が高くなかった同ドラマでも、2~3話で一旦下がった視聴率を4話で初回と同等に戻していた。一貫して右肩下がりで4話まで来た『カルテット』とは違っていたのである。

当シリーズ第1回「キムタク『A LIFE~愛しい人~』はそんなに駄作か?<反批判のドラマ批評1>」で述べたが、不特定多数の人々に向けた批評という表現では、客観性・論理性・納得性が求められる。声の大きさだけで世の中が変わって行くとしたら、それはミスリードである。

『カルテット』は個人的にも良い部分の多い佳作と思っているが、TVドラマとしては客観的に判定し、論理性と納得性を大切にして論を展開してもらいたいと考える。

ドラマと批評が好循環を作り、相互にレベルを上げていく道だと考えるからである。