キムタク『A LIFE~愛しい人~』はそんなに駄作か?<反批判のドラマ批評1>

SMAPの解散騒動で、一人だけジャニーズ残留を表明し、“裏切り者”と見られてしまった木村拓哉。

解散直後の主演となった『A LIFE~愛しい人~』は、放送開始前後からバッシングの声がいろいろ出ていた。

批判の声

初回から前回までの視聴率は、14.2%⇒14.7%⇒13.9%⇒12.3%。

今クールGP帯(夜7~11時放送)の全ドラマではトップだった。それでもネガティブに評価するメディアは少なくなかった。

初回放送直後に発表された「キムタク新ドラマに酷評続出…「“『ドクターX』のパクリ”“キムタク推し満載が意味不明”」では、一般視聴者の声として「とにかく重苦しくて、物語が単調」「『ドクターX』に比べて、つまらない」を紹介した。またテレビ局関係者は、「前クールで『ドクターX』が大ヒットしましたが、それと比べてもエンターテイメント性が劣っているのは否めず」「とにかく“キムタク推し”満載という演出は意味不明という印象が拭えません」と酷評の声を掲載した。

3話までの放送を受けて書かれた記事が『「キムタク落第」! TBS社外秘情報キャッチ』だった。「TBSテレビの武田信二社長(64)は及第点を15%に設定しており、現時点でのキムタクは“落第点”」と、やはり容赦ない内容だった。

「ついに視聴率がダウンし始めたキムタクドラマ」もネガティブだ。

「番宣の方もやりようがなく、今後、視聴率アップのための戦略が手詰まり」(TBS関係者)、「キムタクを敵視しているSMAPファンが多いのはまぎれもない事実だけに、ジャニーズ事務所の幹部としても、かなり危惧しているようだ」(芸能プロ関係者)など。

4話で視聴率が12%台に下がると、批判の声はますます勢いを増した。

「主演ドラマには酷評の嵐 キムタクはなぜ嫌われるのか?」では、「人物描写どころか、ドラマの方向性ひとつとっても浅い、浅すぎる」「第4話まで放送し終わっても何を描きたいのかさっぱり分かりません」(コラムニスト)と全否定だ。

「木村拓哉と草なぎ剛に明暗、今クールドラマを辛口コラムニストがバッサリ」に至っては、『A LIFE』もしくはキムタクへの悪意と思わせる罵詈雑言が浴びせかけれらる。「カッコいい俺をひたすらカッコよく見せたいという、これまでと何も変わらないオレ様ドラマをやってしまった」「『A LIFE』のペラペラさは、筆舌に尽くしがたいレベル」「豪華キャストを謳っておいて、あんな演じがいのない役をふるもんだから、浅野忠信や松山ケンイチたちの劇中の目がもう死んじゃって(笑)」(コラムニスト)。

メディアと異なる視聴者の声

個人がドラマにどんな感想を抱くかは自由だ。家族や知人との間で、どれだけ酷評しようとも、それは他人がとやかく言う問題ではない。

しかし不特定多数の人々に向けた批評という表現では、客観性・論理性・納得性が求められる。少なくとも記者・評論家・コラムニストなど、表現のプロにはそうしたモラルを求めたい。

上記で紹介した記事は、視聴者のごく一部の声あるいは評論家やコラムニストの単なる主観を取り上げただけのようだ。視聴者に向けた調査データを見る限り、ラウドマイノリティの声に過ぎないように思われる。

まず視聴率は、4話までの動向では今のところ全ドラマの中でトップを行っている。

「業界からもお茶の間からも愛想を尽かされるのは時間の問題」というコラムニストもいるが、客観的にはピークより16%ほど数字が下がっただけ。しかも同ドラマは初回より2話で数字を上げている。初回より2話以降で数字を上げたドラマは、今クールでは『嘘の戦争』しかない。

しかもピークからの下落率16%は、今クールでベスト3に入っている。今のところ業界は視聴率が最優先される。客観的には「愛想を尽かされる」兆候は全くないと言ってよいだろう。

データニュース社「テレビウオッチャー」は、テレビの見方について関東2400人の定点調査を行っている。

これによれば『A LIFE』の満足度は、3.46⇒3.79⇒3.61⇒3.81(5段階評価)と基本的に右肩上がりだ。初回こそドラマの平均3.6~3.7を下回った。ところが2話~4話は平均を上回るところまで来ている。

ただし傑出した数字になっていないのは、各記事にもあった通り、反キムタクの感情を持った視聴者がいるからと思われる。

「正直木村さんはやっぱり木村さんという感じで、新しさがなく平凡なドラマ」女37歳(満足度3)      

「医者というところがリアリティに欠ける」男56歳(満足度4)

「何を演じても変わらないとつくづく感じた」女50歳(満足度2)

SMAP解散騒動をめぐり、一部の人々に複雑な感情があることは否定できないようだ。

ところが、そんな人々も序盤では批判しながら、次第にドラマの世界にハマって行く人もいた。

「いつも通りの“キムタク”感が出てて嫌だった」と初回で答えた28歳女性(満足度3)は、第3話で一転して「感動した」と答えている。満足度は4に上がっていたし、次回視聴意向では、「絶対見る」と答えている。

初回「キムタクの演技はいつも一緒」と答えた50歳男性も、第4話では「木村文乃と竹内結子の関係が今後どうなっていくのか面白そうな展開」と内容に引き込まれ、満足度5、次回視聴意向「絶対見る」と最高の評価を与えている。

ラウドマイノリティの酷評と異なり、サイレントマジョリティはそこそこ高評価というのが実態のようだ。

『ドクターX』との比較

では、批判の細部を検証してみよう。

まず「『ドクターX』に比べて、つまらない」「エンターテイメント性が劣っている」について。

確かに『ドクターX』は平均視聴率が20%を超える大ヒット作だ。どんな難しい手術も成功させ、「私、失敗しないので」「一切、致しません」などと啖呵を切る主人公と、患者の命より権力や出世を優先する不純なドクターたちという構図が受けたようだ。

いわば『ドクターX』は、“ゼロ”か“100”で個々の登場人物を規定し、個別の人間的葛藤を描かない。記号化された悪い演者たちを、主人公・大門未知子がなぎ倒しながら困難を克服する物語ゆえに、誰が見ても分かり易いドラマになっている。

「見終わった後、気持ちがいいドラマ。スカッとする」39歳女                     

「最後の最後にすかっとさせてくれるだろうと思った通りだった」53歳女               

「シズーン4に入っても面白さ落ちませんね。演技・脚本・演出3拍子、文句なし」64歳男

こうした声が出て来るゆえんである。

しかし「テレビウオッチャー」で第1~3シリーズと第4シリーズを比較してみると、満足度はそれまで右肩上がりだったが、第4で失速している。

年齢層を比率すると、F1M1という男女20~34歳は第4シリーズで減っている。逆にF3M3という50歳以上が増えている。つまり若年層が離れ、中高年化が進んでいる。

しかも視聴者層の固定化が進んでいる可能性がある。

「新鮮味を感じなかった」59歳男(初回で視聴ストップ)                       

「マンネリ化が否めないし、すっきり感がだいぶ薄れてきた感じがする。もっと新しい感じがしないとダメ」29歳男(第2話で視聴ストップ)                                  

「ストーリーも演技もくどい」33歳女(第2話で視聴ストップ)

これに対して『A LIFE』は、天才的な外科医が主人公なので、一見似た物語のように見える。しかし個々の登場人物の描き方は全く異なる。

主人公・沖田一光(キムタク)は難しい手術を成功させるが、前提に徹底的な準備がある。手術への恐怖を克服し、成功率を上げるためだ。しかも初回では、院長・壇上虎之助(柄本明)の1回目の手術に失敗する。どんなに準備をしても、生身の人間には人知の及ばないイレギュラーなことがある。

沖田に対峙する壇上壮大(浅野忠信)は、『ドクターX』なら病院長や部長のように、病院のブランディングや出世を最優先する人物像にしただろう。ところが『A LIFE』では、病院経営とあるべき医療との間、家族愛と不倫との間、沖田との友情と嫉妬との間で葛藤し、苦しむ生身の人間として描かれている。

心臓血管外科医・井川颯太(松山ケンイチ)も、ゆくゆくは「満天橋大学病院」を継ぐ2世医師でありながら、あるべき医療に目覚め、揺れながら成長する設定となっている。

舞台が病院で、天才的な外科医が主人公という構造が似ているだけで、両ドラマが描こうとしている世界は全く異なる。明らかに『A LIFE』は人間を描く本格ドラマを目指している。

役者批判について

「これまでと何も変わらないオレ様ドラマをやってしまった」というキムタク批判があった。「あんな演じがいのない役をふるもんだから、浅野忠信や松山ケンイチたちの劇中の目がもう死んじゃって(笑)」と、浅野忠信や松山ケンイチをディスる記事もあった。

しかし視聴者の中には、そうは見ていない人も少なくない。

まずキムタクについては、「いい味を出している」34歳男性、「別に木村さんのファンではないが、木村さんらしい役柄で合っていた」37歳女性、「キムタクの出演は素晴らしい」66歳男性など、好意的に受け止めている人も少なくない。また初回で「木村拓哉っぽい面を抑えている感じがして好ましい」とした65歳女性は、第3話で「木村拓哉のはまり役だと思う」と絶賛している。

浅野忠信や松山ケンイチなど脇役については、「何てったって脇が面白い」と書いた73歳女性もいる。

浅野については、「悪い!憎らしいくらい悪い!上手いなあ」55歳女性、「企んでいるところや悔しそうにするところの演技がうまい」58歳女性、「嫉妬ぶかい表情が良い」57歳女性など、なぜか50代女性から絶賛の嵐となっている(笑)。

松山については、「天然な感じが面白い」51歳男性、「松山ケンイチの演技が良かった。名優です」65歳女性などの声もある。

「演じがいのない役」と本人たちが思っているか否かは分からない。「劇中の目がもう死んじゃって」いるか否かも、各人の見方によるだろう。それでも、それぞれの場でベストを尽くしている姿を認めている視聴者はいる。

ドラマの持ち味

「第4話まで放送し終わっても何を描きたいのかさっぱり分かりません」「『A LIFE』のペラペラさは、筆舌に尽くしがたいレベル」という全否定があった。しかし筆者は全く同意できない。

例えば初回で「キムタクの医師は似合わない」と冷ややかだった67歳男性は、第3話「キムタクが竹内結子に言った医者の本質はヒューマンドラマでよかった」、第4話「主役級の俳優をたくさん使っているので、スポットの当て方が難しいと感じた。今回は木村文乃をメーンに使ったがうまかった」と、入口で抱いていた感情が見ているうちに変化している。

「テレビウオッチャー」の定点調査では、次回見たい指数(「絶対見る」2点と「なるべく見る」1点の合計)が初回207点と全ドラマの2位だった。一方見たくない指数(「絶対見ない」2点と「たぶん見ない」1点の合計)も19点、全体の4位と高めだった。

ところが全体で比較できる最新の第3話では、見たい指数は240点と相変わらず2位。ただし3位とは45点も差をつけている。いっぽう見たくない指数は6にまで減り、他のドラマとそん色がない程度となっていた。

アンチ木村拓哉の人々が見なくなった影響もあるだろうが、ドラマの世界観が伝わるにつれハマる人々が増えていることは間違いない。

本格派ドラマとしての面目躍如といったところだろう。

以上、『A LIFE』への否定的な批判について、客観性・論理性・納得性に照らして検証してみた。

PV増を狙って誇張が過ぎる表現に走るということもあるだろう。しかし不特定多数が目にし、一定の影響力を持つ表現をする以上、守るべきモラルを遵守し発信してもらいたい。

それがドラマという作品と批評が、好循環を作り相互にレベルを上げていく道だと考えるから・・・