朝ドラ『べっぴんさん』は『あまちゃん』の貯金を食いつぶす!?

NHKのホームページから

序盤苦しい『べっぴんさん』

今月から始まったNHK朝ドラ『べっぴんさん』。

ヒロイン・坂東すみれ(芳根京子)のモデルは、アパレルメーカー創業者のひとりで、関西を舞台に戦後の焼け跡から子供服づくりに邁進する姿を描く物語だ。

NHK朝ドラは、13年度上期の『あまちゃん』以降、期間の平均視聴率が20%台と好調が続いている。またスタート後の第1週と2週では、13年度下期『ごちそうさん』から20%台をキープしてきた。ところが今期『べっぴんさん』は、第1週こそ20.0%と辛うじて大台を死守したものの、第2週は19.8%と大台を切り、苦しい立ち上がりとなった。

しかも『べっぴんさん』の第1週は、直前の『とと姉ちゃん』のシリーズ平均22.8%と比べ、2.8%も数字を落としている。また第2週はさらに0.2%下がっている。そして3週こそ20%台に戻したが、第4週は今わかっている木曜までの数字でみると再び大台を切る可能性がある。『あまちゃん』以降で最悪の序盤だが、どこに問題点があるのだろうか。筆者はNHK朝ドラ“勝利の方程式”の流れと比べ、『べっぴんさん』には幾つか課題があると見る。

“勝利の方程式”その1:編成改定

NHK朝ドラは、60~70年代には40%台を何度も超える“お化け番組”だった。ところが1990年代に入ると30%を切ることが増え、今世紀には20%割れも続出するなど、徐々に視聴率を落としていた。

この流れを断ち切った最初の勝因は、2010年に朝ドラ開始時刻を8時15分から8時ちょうどに繰り上げた点だ。これで次第に数字は戻り始め、13年度上期の『あまちゃん』以降、コンスタントに20%台を獲るようになったのである。

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ところがこの編成改定は、NHKの中で大紛糾した。それまでは朝のニュース『おはよう日本』が、8時13分まで放送されていた。これを編成は、人々の生活実態に合わせて朝ドラを15分繰り上げて正時からの放送にしたいと提案した。

一方NHKの報道局は、「ニュースの時間を減らすのは絶対に罷りならん」と大反対。当時筆者もその議論の末席を汚していたが、「官公庁などの重要な記者会見が8時から組まれることが多い」と、8時00分~8時13分のニュースを死守する構えを崩さなかった。

結局議論は、「有事には朝ドラを動かせば良い」と編成案が採択され、朝ドラ8時00分スタートが決まった。ちなみに報道が反対の根拠とした官公庁の記者会見で朝ドラの放送時間が変更されたことは今のところない。ただし2011年の東日本大震災、今年の熊本地震などの緊急ニュースで放送が延期となったことはある。また例年、広島原死没者爆慰霊式が重なる8月6日には、朝ドラの時間をずらして放送している。“柔軟な対応”で十分事足りることが証明されたと言えよう。

朝ドラのスタートを早めて以降、視聴率は上昇し始め今や20%台が当たり前になった。しかも朝ドラに続く『あさイチ』も、以前の『生活ほっとモーニング』より格段に高くなった。これらの影響で、民放8時台のワイドショーが軒並み数字を下げ、特に不振が目立ったTBS『はなまるマーケット』は2014年3月で終了に追い込まれたほどである。

“勝利の方程式”その2:『あまちゃん』効果

今回の『べっぴんさん』は朝ドラ95作目。55年の歴史を持つ同枠は、「縛られた場所から飛び出す」(『おはなはん』『おしん』など)、「女性が進出しきっていない職種で頑張る」(『はね駒』『ひまわり』など)、「自己実現に邁進する」(『ちゅらさん』『あまちゃん』など)ヒロインが描かれ、多くの女性視聴者の支持を得てきた。そして「運」が付くからと「ん」で終わるタイトルのドラマが5割を超えている(『おしん』『あまちゃん』『べっぴんさん』など)。

近年の傾向としては、完全なフィクションから実在の人物を「モデル」「モチーフ」にしたものが増えている。『チヨッちゃん』『ゲゲゲの女房』『花子とアン』『カーネーション』『マッサン』などがあったが、特にここ数作は『あさが来た』『とと姉ちゃん』『べっぴんさん』とこのパターンが続いている。

こうした伝統の中で、8時スタートと並び視聴率を急伸させた要因は『あまちゃん』(2013年上期)だった。

宮藤官九郎がNHKで初めて脚本を担当したオリジナルストーリーのドラマだ。東京の女子高生・アキ(能年玲奈)が母(小泉今日子)の故郷・三陸海岸の町で祖母(宮本信子)の後を追って海女になるが、ひょんなことから地元アイドルになってしまう第1パート。地元アイドルを集めたアイドルグループのメンバーに選ばれ、東京に戻り奮闘する第2パート。そして2011年3月に東日本大震災が起こり、再び三陸に戻り地元アイドルとして復興に関わる第3パートからなる物語だ。

この『あまちゃん』の当初10週は、以前の朝ドラと比べ特に突出した数字を残したわけではない。

1~2週が20%に届かず、第3週で初めて大台に乗せるが、その後10週までは平凡な数字に留まった。ところがその後、多少の上下はあるものの、おおむね上昇を続け、最終週が最高で22.98%となった。

しかも『あまちゃん』は単に視聴率に留まらず、満足度の高さや視聴者層の拡大ぶりに目を見張るものがあった。

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データニュース社「テレビウォッチャー」の調査によれば、第1週の満足度こそ3.75とドラマの平均よりやや高い程度だった。ところが2週3.89、3週3.96、第4週4.05とみるみる上がり、8月には4.10台に乗せ、しかもラスト2週は4.20台と朝ドラとしては稀有な高満足度となった(最終週は4.24で最高値)。

満足度だけでなく、視聴者層も回を追うごとに広がって行った。「テレビウォッチャー」によれば、F1(女20~34歳)とF2(女35~49歳)がどんどん増えたのである。例えばF1では1週が3000人中5.3人、2週6.0人、3週7.0人とじわじわ増え、24週13.3人、25週14.5人、最終週には15.8人と当初の3倍に増えていた。F2でも1週が21.2人、2週25.8人、3週26.8人が、24週33.7人、25週37.0人、最終週35.2人と当初より10人ほど増えていたのである。

『あまちゃん』による朝ドラの視聴者層の拡大は、博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所の調査でも確認されている。『あまちゃん』視聴者524人にいつから見始めたのかを聞いたところ、通常の朝ドラの回答と異なるパターンとなったのである。

普通は初回から見る人が一番多い。そして時間が経つに従って見始める人の数は減っていく。ストーリーが分からないと見る気がしないので、連続ドラマとしては当たり前の現象である。

ところが『あまちゃん』の場合、初回が一番多いのは変わらないが、2番目に突出して多かったのは、始まって4か月以上経過した8月のお盆休み後だった。実は毎週のダイジェスト「5分でわかる『あまちゃん』」を、NHKはお盆休みに一挙に放送し、それを見て朝ドラを見始めた人が全体の1割強に及んでいたのである。

さらに4~6月にも異変があった。この時期では徐々に見始める人が減っていくのが普通だが、逆に『あまちゃん』では5月末から6月にかけ見始める人が徐々に増えていたのである。過去のヒット曲やアイドルのオマージュ・パロディの多用、三陸の奇妙な方言(「じぇじぇじぇ」など)、バラエティ番組のディレクターを起用した斬新な演出などがネットや口コミで話題を集め、途中から見始める視聴者が続出したのである。

それでも『あまちゃん』の全体平均視聴率は20.6%とさほど突出したものではなかった。斬新な作りは若年層を開拓したものの、朝ドラの最大視聴層たる高齢層にあまり響かず、むしろ脱落者を作っていた。両層のプラスマイナスで、数字自体は大きく伸びることがなかったのだ。

ところが『あまちゃん』後の『ごちそうさん』『花子とアン』は全体平均が22%台。途中『まれ』が20%を切ったものの、『あさが来た』23.5%、『とと姉ちゃん』22.8%と、朝ドラは新たな黄金時代を迎えるようになった。『あまちゃん』が新たに若年層で朝ドラの視聴習慣を作り、その後の伝統的な演出が高齢層を呼び戻した分、結果として視聴者が増えたのである。

『べっぴんさん』の課題

ところが今期の『べっぴんさん』は、数年かけて作り上げた朝ドラの貯金を食い潰してしまうかも知れない。

例えば満足度。満足度は普通、ストーリーが進むと上昇する傾向にある。実際ほとんどの朝ドラマは、3~4週の方が1~2週より高い。ところが『べっぴんさん』は、話が進んだはずなのに満足度が下がっている。しかも『あまちゃん』以降で一番低かった『まれ』をも下回りそうな勢いだ。

低い点数をつけた人々の声は厳しい。

「ちょっとスピード感がない」65歳男

「明日の展開が見え透いていて退屈」40歳女

「今ひとつ何を伝えたいのかパッとしない」54歳女

「気分の悪い展開で朝から見たくない」39歳女

「面白くない。沈黙ばかりで飽きる」50歳女

「展開がゆっくりすぎる」34歳女

ちなみに『あまちゃん』直後の『ごちそうさん』やその次の『花子とアン』は、1週の満足度が『べっぴんさん』より低い。『あまちゃん』で朝ドラを見るようになったF1F2層が、オーソドックスな朝ドラに戻った内容・演出に対して低い評価をしたのが主因だ。それでも両ドラマとも、4週まででドラマの平均値を大きく上回るようになっていた。これが期間平均の視聴率が高くなって行った前提にあった。逆に評価が下がっている『べっぴんさん』に大きな不安が伴う理由である。

さらにF1F2層の視聴動向も気になる。

『あまちゃん』の時は1週から3週にかけて、F1は5.3人から7人に増えたと紹介した。その後の『ごちそんさん』から『とと姉ちゃん』も、当初3週は概ね4~6人のF1視聴者を保っていた。ところが『べっぴんさん』は、2.3~2.5人に留まっている。F2でも『あまちゃん』は21.2人から26.8人に増やしていた。その後のドラマも基本的に20人以上を保っていた。ところが『べっぴんさん』は3週とも20人に届いていない。『あまちゃん』が新たに開拓したF1F2での朝ドラ視聴層を、今回は逃がしてしまっている可能性がある。

勇気・愛情・信頼・希望

苦しい序盤だが、『べっぴんさん』第4週には多少可能性も出てきている。

月~木の4日間平均では、F1は3.5人とやや増えている。F2はまだ20人に届いていないが、同世代の視聴者の感想に明るい兆しが出始めている。

「だんだん話が明るくなってきて良かった」41歳女

「次回の話が気になる内容」26歳女

「いよいよ事業が始まるのかなとわくわくした」35歳女

ヒロイン・すみれ(芳根京子)たち4人のお店「ベビーショップ あさや」のトレードマークは“四つ葉のクローバー”。それぞれの葉が「勇気」「愛情」「信頼」「希望」を意味するらしい。筆者の世代は90年代に650万部を超えた『少年ジャンプ』の「友情」「努力」「勝利」を想起させるが、このマンガ雑誌のように『べっぴんさん』にも何とか大きくジャンプしてもらいたいものである。