『サザエさん』急落は“脱テレビ”時代の予兆!?

フジテレビのホームページより

人気アニメ『サザエさん』の視聴率が急落している。

ウィキペディアには「平均視聴率は1989年1月15日から2008年11月時点で22.3%、平均最高視聴率は1979年9月16日放送の39.4%(関東地区)、アニメ全体歴代高視聴率2位」と紹介されている。最高が40%近くで、8年前までは平均で20%も獲るオバケ番組だったのである。

筆者にも思い入れのある番組だ。

NHKの編成にいた時代、こんな分析をした。「もし『サザエさん』がNHK総合で放送されていたら、週間接触率はどれだけ上がるのか」。週間接触率とは、一週間で5分以上そのチャンネルを見る人の比率。2010年頃、NHK総合は6割ほどに留まっていた。ところが『サザエさん』が1つあると、5~6%も比率が上がると出た。すかさず当時の編成局長に、「似たようなアニメを開発すべき」と提言したが、残念ながら一顧だにされなかった。

視聴率急落の現実

話を『サザエさん』の視聴率に戻そう。

ビデオリサーチ社のデータで過去3年を追うと、確かに『サザエさん』は急落している。

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2014年2月の月間平均視聴率は21%を超えていた。ところが15年には15%を割り込むようになり、16年度に入ると13%に届かなくなった。しかも今年5月22日の放送が7.7%、7月3日9.9%、8月14日8.2%と、一桁に留まる回が出始めていたのである

ネット上では、「時代錯誤?『サザエさん』離れが止まらない・・・視聴率1桁も!」「視聴率絶不調・・・ついに始まった“日本国民のサザエさん離れ”」など、多くの記事が出るようになっている。こうした記事の主な主張は、“3世代同居の大家族”が「時代錯誤」とか「心理的な共感を得られない」からだとなっている。

しかし筆者は、こうした意見には賛成できない。

もしそれが本当の理由なら、なぜここ2~3年で急落しているのか、説明になっていないからだ。“3世代同居の大家族”“フネとサザエが共に専業主婦”“ちゃぶ台で全員そろって食事”など、描かれている世界と視聴者の実生活とのズレは、視聴率が20%を超えていた80年代から2000年代にかけて、ずっと同じだった。既に核家族化は進み、働く女性も増えていた。“ちゃぶ台”はとっくに茶の間からなくなり、波平やフネのように日常的に和服を着ている人はほとんど見かけなくなっていた。

“団塊の世代”原因論

「視聴率1桁でも看板 『サザエさん』はどこへ行く?」を書いたアニメ評論家の藤津亮太氏は、世代論に着目する。“800万人以上いた団塊の世代”と“もう一つの人口ボリュームゾーンである団塊ジュニア”が、磯野家とフグ田家という“伝統的価値観とニューファミリーの巧みな折衷”を描いた『サザエさん』の高視聴率を支えたと指摘しているのだ。

なるほど一理あるが、少し疑問も残る。

「(団塊ジュニアが)30歳になった2000年代初頭に視聴率が高かったのは、彼らが子供と一緒に『サザエさん』を見ていたからではないだろうか。そしてその子供たちが『サザエさん』を卒業する年齢になり、同時に団塊の世代が70歳に近づいていくにつれて、視聴率がゆっくりと右肩下がりになってきたように見える」

この論が正しいとすると、団塊ジュニアが成長して『サザエさん』を卒業し、次に子供と一緒に見るようになる間の10年間ほど、視聴率が一時期低迷し、その後再び上昇していたはずだ。しかし実際には、視聴率はそのようには動いていない。傾向として言い得ている部分はあるが、もう少し別の要素もあるような気がする。

“暇つぶし”“慰安”視聴の減少

データニュース社が毎日3000人のテレビ視聴動向を追う『テレビウッチャー』で過去5年ほどを振り返ると、面白い傾向が見える。

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月間の平均接触者数は、視聴率と同じように右肩下がりだが、録画をする人の数は5年間ほとんど変化がない。つまり“ぜひ見たい”と思っている人の数はあまり変わっていないが、“テレビをつけたら何となくやっているから見た”的な漫然と見る人がここ数年で急速に減っているのではないだろうか。

民放テレビのイメージについて、ビデオリサーチ社は10年ほど前、こんな調査結果を出していた。「退屈しのぎ・暇つぶし」54.1%、「気分転換・ストレス解消」50.5%、「生活の一部になっている」45.2%。つまり帰宅し特に用事がないとテレビをつけ、ザッピングで何となく見る番組を見ることが生活習慣となっている人がかなりいたのである。

確かに生活者を大別すると、「お金を出してでも時間が欲しい人」と、「お金を出して暇をつぶす人」に大別される。もちろん、現実には両者は完全に二分されるわけではなく、前者も一週間など一定期間の中では“暇つぶし”をしたい瞬間がある。後者にも当然忙しい瞬間もある。ただしその度合いで二分すると、高学歴・高所得層とそうでない層が、ほぼこの二分法に当てはまる。民放関係者と議論しても、放送時間の大半を占める娯楽番組は、後者をターゲットとしてマスを獲り、広告収入を増やそうとしているという。

しかしこの論理がここ数年、通用しなくなってきた。

スマホが普及し、生活者の多くはテレビ以外に“暇つぶし”“慰安”を求めるようになってきた。電通総研の調査では、スマホ所有者のアプリ起動率は、テレビのHUTを上回り始めている。そこで行われているのは、ソーシャルメディアで知人・友人とのコミュニケーションやゲームなどが大半を占める。テレビを見ながらという人も少なくないが、明らかに意識はテレビからスマホに移り始めている。

テレビ番組を見るより、ネット上の動画を見る人も増えている。

NHK放送文化研究所『日本人とテレビ2015』によると、インターネットに毎日接触する人は、2010年と比べ2015年は急増している。ハイティーンから30代に至っては6割以上、40代で5割強、50代でも4割ほど、60代でも2割に達する。

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その中で動画を「よく」「ときどき」見る人は、テレビよりネット動画を面白いと思う人が増えている。見逃したテレビ番組を動画サイトで見る人や、暇な時はテレビよりネット動画を見る人も出てきているのである。

つまり家に帰るとついテレビを付けるのではなく、ネット動画を探す人も増えている。“暇つぶし”“慰安”のためにテレビ番組を見る行為は減っているのである。

『サザエさん』急落回の背景

『サザエさん』の視聴率が直前数回と比べ急落した回にはほとんど原因がある。

14年5月3日は13.5%、15年5月3日も10.9%で、その前数回より急落していたが、両方ともゴールデンウィークの真ん中の日曜日。明らかに『サザエさん』よりレジャーが優先した人が多かったと思われる。

14年8月31日の10.9%・15年8月23日の8.8%は、日テレ『24時間テレビ』に大幅に食われていた。

今年5月22日の7.7%は、歌丸師匠の最後の司会で『笑点』が拡大版となり、視聴率も27.1%と裏番組を大きく食っていた。

その後『サザエさん』は11%台が頻発し、7月3日には9.9%を記録してしまう。これら一連は、『笑点』の司会者が交代して視聴率が20%前後を獲るようになり、直後の『バンキシャ』もブリッジ効果で数字を上げたことも関係している。しかも今年4月以降は、熊本地震を初め大事件が頻発し、報道番組のニーズが高まっている。

極め付けは8月14日の8.2%。リオ五輪の最中で、この日は卓球女子団体が準々決勝でオーストラリアを下している。NHKの『ハイライト』と『首都圏ニュース・気象情報』が要因に加わっていた可能性が高い。

“脱テレビ”の意味

つまり“暇つぶし”“慰安”のために見る人が多い『サザエさん』は、他の目的が生ずると真っ先に見られなくなるタイプの番組なのである。今年頻発している視聴率一桁は、大半がこれで説明ができよう。

そしてより深刻なのは、「“暇つぶし”“慰安”のためにテレビを見る」という行為が減っている点だ。スマホが普及しソーシャルメディアを使う時間が増えているように、テレビのライバルが屈強になっている。デジタル録画機の普及も、「“暇つぶし”“慰安”のためにテレビを見る」を圧迫している。

筆者はこういう状況を“脱テレビ”時代とみる。よってテレビ局は、これまで強かった番組がそうでなくなる事態を想定し、見てもらうための新たな要素を加えていかなければならなくなっている。

『サザエさん』の視聴率急落は、そういう時代の到来を意味しているのではないだろうか。