NHKに吹いた3つの神風-検証!2016春改編(上)NHK編-

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ブラジルのリオデジャネイロで開催される第31回夏季オリンピックが始まった。

開会式から閉会式まで17日間、世界各国から集うトップアスリートたちの熱き闘いが続くが、テレビの編成は特別対応が続き、各局の特徴はしばらく薄れる。そこで2016年春編成の成否を、4~7月までで一旦振り返っておくことにする。

NHKのひとり勝ち

今年度春改編の後、NHKだけが3つの時間帯で視聴率を大きく伸ばし、ひとり勝ちとなった。

4月4日(月)から7月31日(日)までの4か月では、平均の世帯視聴率がゴールデンタイム(G帯:夜7~10時)で前年同期比1.5%の増加。プライムタイム(P帯:夜7~11時)で1.2%増。全日(朝6~夜12時)で0.6%増と、NHKだけが全時間帯で大幅にアップさせていたのである。

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ちなみに、民放の中では、TBSだけが3時間帯とも微増した。またテレビ朝日は全日だけ微増したが、他2つはマイナスだった。そして残り3局については、3時間帯とも減少と厳しい結果に終わっていた。特に日テレとフジの下落率が目立つ(ビデオリサーチ調べ・関東600世帯)。

「検証!2016春改編」の前半として、NHKが何故ひとり勝ちしたのかを分析してみる。

大事件が起こるとNHKが賑わう!

NHKのひとり勝ちには、実は3つの神風が吹いていた。

1つ目は大事件の続発。2つ目は平日夜の編成方針。3つ目は週末に強力な番組が出現した点だ。

このうち、1つ目の大事件続発が最も大きな影響力を持った。

今年4月から7月は、例年になく大事件が続発している。最大のものは、震度7の揺れが2度の熊本地震だ(4月)。余震が頻発し、さらに例年にない大雨が続き、被害拡大が懸念され続けた。

他にも4月には、パナマ文書問題と三菱自動車の燃費不正があった。5月には北朝鮮で36年ぶりの労働大会が開かれ、ミサイル発射が何度も行われた。さらに伊勢志摩サミットとオバマ大統領の広島訪問があった。6月には、消費税10%引き上げ延期、舛添前東京都知事の政治資金流用と辞職、英国のEU離脱、そしてトルコでテロが発生した。7月にもバングラディシュ・フランス・ドイツでテロが続き、トルコでは軍事クーデターが起こった。さらに国内でも、参議院選挙および東京都知事選挙と大きな選挙が1か月で2つも続き、下旬には19人が殺される戦後最大の殺害事件が相模原市の障害者施設で起こっている。

一連の出来事はNHKニュースの視聴率に直結した。2000年頃までは20%超えも普通だった『ニュース7』は、近年15%に届くことが稀だった。ところが4~7月は、20%超えの日も出るようになり、平均視聴率が15%を超えたのである。また平均一桁が多くなっていた『ニュースウオッチ9』も、今期は平均が二桁に乗るようになっていた。

「風が吹けが桶屋が儲かる」は日本のことわざだが、今期はまさに「大事件が続いて、NHKニュースが大賑わい」になっていたのである。

ちなみに平日のNHKは、7時台に『ニュース7』が30分、8時台に『首都圏ニュース845』15分、そして9時台には『ニュースウオッチ9』が60分ある。G帯3時間の6割近くがニュースで占められ、これらが例年より大幅にアップしたために、全体に与えるインパクトも大きくなったのである。

“8時またぎ”は民業圧迫!?

NHKの視聴率好調の2つ目の理由は、3月まであった平日夜7時半の『クローズアップ現代』を10時台に移動させ、一般番組を7時半から8時台の途中まで編成したことである。例えば月曜の『鶴瓶の家族に乾杯』は7時30分~8時43分、火曜『うたコン』は8時15分まで、水曜『ガッテン!』も8時15分までという具合だ。 

この改編により、7時30分から8時までの時間帯は、多い日で前年比4%ほど上昇している。

まず『ニュース7』が以前より2%ほど高く、ブリッジ効果で7時半からの番組が高い視聴率でスタートする。しかも7時50分ぐらいから、民放ではミニ番組やCMタイムに入る局が多い。ザッピングが盛んに行われる時間となり、各民放チャンネルからの流出が一定割合で発生する。その瞬間に番組をやっているNHKに流入する視聴者が少なからずいるのである。つまり前年に比べて今季のNHKは、7時半からの番組に、スタート時点と始まって20分以降に二つのエンジンを得て、高い視聴率を獲得していたのである。

この改編に対して民放の中には、「民業圧迫だ!」と怒りを露わにする編成担当者もいる。対抗策として、平日7時からの番組を2時間スペシャルにしたり、7時からの1時間番組でも終盤にCMを固めて放送するのを辞めたりする作戦に出るケースも出ている。それでもゴールデンタイムに日テレとフジが前年比で0.9%下げ、テレ朝も0.4%を失った。“8時またぎ”の影響は決して小さくなかったのである。

週末にジョーカー2枚!

3つ目の神風は、週末夜に強力な番組が2つ出現した点だ。1つは土曜7時半からの『ブラタモリ』、もう1つは日曜8時の『真田丸』だ。

『ブラタモリ』は街歩きを趣味とするタモリの冠番組で、訪問地の歴史を味わいつつ、独自の視点でユニークな街歩きを展開し、同時にタモリ独特の軽妙なトークも味わう“探検・散歩番組”だ。レギュラー番組としては09年秋から始まったが、タモリが平日12時のフジ『笑っていいとも』で司会を14年3月まで勤めていた関係でロケ時間が限られ、第1~3シーズンは半年だけの放送で、訪問地も東京周辺に限られていた。

ところが『笑っていいとも』の終了でタモリの時間的制約が緩み、ロケ対象を全国に広げた。それと共に視聴率が上昇し始め、今年4月以降は平均が14%を超えるに至っている。特に伊勢志摩サミット直後に放送した第40回「伊勢神宮~人はなぜ伊勢を目指す?~」は18.6%と驚異的な数字を弾き出した。

もう1つの週末ジョーカーが日曜8時の『真田丸』だ。

三谷幸喜がシナリオを担当し堺雅人が主演する同ドラマは、平均視聴率が初回19.9%・第2話20.1%と久々に好スタートを切る大河ドラマとなった。「三谷幸喜の脚本は真田家も視聴者も翻弄し、さながらジェットコースターのよう」と絶賛する記事がスタート早々に出たくらいだ。4~7月の平均視聴率も17%を超え、前年の『花燃ゆ』を7%ほど上回った。

2つの番組は、単にその時間帯の視聴率が上がっただけに留まらない。その後ろの番組にも波及効果をもたらし、面として視聴率を押し上げている。

『ブラタモリ』の直後は「土曜ドラマ」だが、今季は『トットてれび』が放送された。高い数字でドラマが始まったことと、ドラマの力が相まって、同時間帯は前年同期比で3%ほど視聴率が上がっている。

『真田丸』の後の『NHKスペシャル』も、3%ほど数字が高くなっている。「大アマゾン」「キラーストレス」「未解決事件」「ミラクルボディ」などの人気シリーズもあるが、熊本地震・英国のEU離脱・相模原障害者殺傷事件など大事件発生直後のタイムリーな放送もあった。『真田丸』からのブリッジ効果と相まって例年になく高い視聴率となっていた。

根本問題は未解決!

以上3つの神風に乗り、NHKは4~7月にひとり勝ちの快進撃を続けた。

ただし、これがNHKの真の実力と考えるのは早計だ。NHKにとっての根本的な課題、“広い年代へのリーチ”は必ずしも解決していないからだ。

NHKは受信料制度を前提とする放送局だ。つまり多くの国民が受信料を支払うに値する放送局でなければならない。その前提は、日常的にNHKを視聴する習慣を大半の生活者が持っていることだ。

ところが実態は異なる。

10代後半から30代では、NHK総合を“一週間で5分以上見る”という週間接触者率は半分ほどしかない。40~50代でも決して盤石というわけではない。NHKを多く見るのは、60歳代から70歳代以上の高齢者層に偏っているのである。公共放送は“あまねく”電波を届け、“あまねく”視聴されることを使命としているが、現状は必ずしもそうなっていない。

では今期春改編で、若年層により見られるように進化しただろうか。残念ながら答えはノーだ。

3つの神風で最も視聴率を上げたのはニュースだった。ところが『ニュース7』も『ニュースウオッチ9』も、50歳代までの視聴率はあまり改善していない。

“8時またぎ”で数字を上げた7時半からの番組も、視聴率は上がったが、50歳代以下の視聴率は大きく改善していない。『ニュース7』の視聴率が大幅に上昇しても、高齢者の視聴が大半である以上、その直後の番組の視聴者が一挙に若返ることもあり得ない。つまり今期春改編で、NHKから離れていた高齢者の掘り起こしをしたのであり、課題だった若年層の開拓はほとんど出来ていなかったのである。

ただし例外が1つある。『真田丸』だ。高齢層の視聴率を上げると同時に、男20~50代と女40~50代で視聴者を大幅に増やしている。若年層に馴染みが薄れている歴史ものでも、脚本や演出の仕方次第では多くの人に見てもらえる可能性を示した成功例と言えよう。

以上のように、3つの神風に乗りひとり勝ちしたものの、“あまねく視聴”という根本課題は未だ解決していない。ただし『真田丸』のように一条の光明がさし始めた番組もある。この好調ぶりを好機として、ぜひ公共放送としての新たなステージに到達してもらいたいものである。今後のリーチ拡大の取り組みに期待したい。