データが語る!「2016春ドラマ序盤戦の通信簿」(1)“ドラマのTBS”復活か!?

TBSのホームページおよびポスターから作成

 2016年春クールの民放GP帯ドラマ全14本が出そろった。

日本テレビ3本(『世界一難しい恋』『お迎えです。』『ゆとりですがなにか』)

テレビ朝日3本(『警視庁捜査一課9係』『警視庁・捜査一課長』『グッドパートナー』)

TBS3本(『重版出来!』『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』『99.9-刑事専門弁護士-』)

テレビ東京1本(『ドクター調査班』)

フジテレビ4本(『ラヴソング』『僕のヤバい妻』『早子先生、結婚するって本当ですか』『OUR HOUSE』)

 以上5局14本の中で、初回視聴率トップは15.5%をとったTBSの『99.9~』。唯一15%を超え、しかも2回目が19.1%と3.6ポイントも上げている。通常連続ドラマは初回が高く、2回目は1~2割ほど落ちることが多い。逆に2割以上押し上げたのは快挙と言えよう。

 テレビ番組を評価するには、視聴率以外に満足度や録画数という指標もある。関東3000人の地上波テレビの視聴と、全国3000人のBS視聴の実態を調べているデータニュース社は、「テレビウォッチャー」というサービスを提供している。視聴度合・録画状況・番組満足度・自由記述による感想などを毎日収集している調査で、満足度は5段階評価、録画数は3000人中の何人が録画をしたかを出している。これよれば全14本の初回の中で、満足度1位は3.9ポイントを取ったTBSの『私 結婚~』だった。また初回の録画数では、首位は207人が録画したTBSの『99.9~』だった。

 今クールのドラマ初回で、視聴率・満足度・録画数の3指標で三冠王を獲った格好だが、業界では「“ドラマのTBS”復活か」という声が出始めている。ここ20年ドラマは視聴率を下げ続けている。その流れの中で今期のTBSは、数字も内容もしっかりしているからである。

他を圧倒する『99.9-刑事専門弁護士-』

 まず初回が視聴率と録画数で1位となり、データが出揃っている2回目ドラマ10本の中で、視聴率・満足度・録画数の全てでトップとなった『99.9-刑事専門弁護士-』。初回と2回目の推移は、視聴率が15.5%→19.1%・満足度3.72→3.94・録画数207→236と、全ての指標が向上している。ドラマの満足度は平均が3.6~3.7あたりだが、同ドラマ2回目はF1M1(男女20~34歳)からF3M3(男女50歳以上)の全ての層で平均を上回り、かつF1M1とF3に至っては4ポイント台と画期的な評価を得ている。さらに同調査ではM1のドラマ接触者数は一桁となることが多い中、同ドラマ2回目は二桁に乗せて来た。視聴者層の広がりと全層からの高い評価は、今クールの中では圧倒的だ。

 知り合いの元ドラマ・プロデューサーは、卓越した出来を 以下のように表現している。

 王道の刑事弁護士モノではあるが、なかなか良く出来ている。主人公がありきたりの正義漢ではなく、むしろやや「変人」なのだ。「真実は100人いれば100通りだが、事実は1つ」という信念のもと、たった一つの事実をオタク的に追い求める。マツジュンが好演。弁護士の世界でも刑事裁判の弁護がいかにマイナーで企業法務がメジャーかを押えていて、香川照之さんが説得力を持った演技で表現している。所長の岸部一徳さんが日弁連会長の座を狙うため刑事部門を作ったというのも、一徳さんの一クセも二クセもあるタヌキ振りだと納得できる。パラリーガルのラーメンズ片桐仁、渡辺真起子、マギーなど脇役もいい。奥田瑛二さんがいわくありげに登場して今後が楽しみである。

出典:「ドラマ王国TBS」復活か!?4月クール連続ドラマ           

金曜10時のコメディ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』

 視聴率こそ、初回も2回目も10.3%と微妙だが、満足度は初回がトップ、2回目はやや落ちて3.69ポイントと平均点。初回の高い評価で2回目から見始めた人々などに「それほどでもない」という落胆などがあり、やや満足度が下がったようだ。それでもプロは高い評価を与えていた。

 

 『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』・・・いいタイトルである。一度聞いたら忘れないとまでいかなくても、一度覚えたら忘れない。容姿端麗キャリア充実、高収入なのに結婚できないアラフォー女子の「痛さ」を、これでもかこれでもかと戯画化して傷口に塩をすり込んでいく。美化された過去の回想シーン(BGMはユーミンとスピッツ!)。こうなるはずだったという希望的観測のシーンの演出が大仰で心憎い。

主演の中谷美紀さんはシリアスな芝居は勿論だが、コメディエンヌとしても一級品である。中谷美紀で、脚本の金子ありさ。そうか「電車男」か!・・・このドラマは「エルメス」の15年後だったのだ。1~2話とも10.3%と二ケタを死守しており今後の伸びも期待できる。

出典:「ドラマ王国TBS」復活か!?4月クール連続ドラマ                     

 データで見ると、面白い現象が見つかる。初回から2回目で満足度は落ちたものの、録画数は149→164と大きく伸びた。その大部分はF2(女35~49歳)によるものだった。“39歳・独身・容姿端麗・年収1500万円”という最強の恋愛弱者が、超ドSの毒舌恋愛スペシャリスト(藤木直人)から“恋愛術”を学びながら、どう婚活に成功していくのか。単にフィクションとしてのドラマを楽しむだけでなく、現実的で役に立つドラマとして見始めた人も少なくなかったようだ。「テレビウォッチャー」に寄せられた自由記述にも、それを覗わせるコメントが少なくなかった。

「未婚の人の良いお手本になりそう」「結婚適齢期の娘に見せたい」(F3)

「40の女のモテる対応、参考になって勉強になる!」(F2)

「世の女性の為になるかな」(F1)。

 ドラマに出て来る具体的なノウハウの一端を見てみよう。

 まず“美人・キャリア・アラフォ”の主人公みやびは、恋愛においては三重苦を背負った恋愛弱者に陥っている。例えば、他人から好かれようと思わずに、無意識にドクターオーラを滲ませ、その結果“女として見てもらえない”“自らチャンスを減らしている”と貶められている。

 そんな彼女に対して毒舌恋愛スペシャリストは、不特定多数の男から好かれるために3つの“ション”を男系に変えろと命ずる。「コミュニケーション」「リアクション」「ファッション」だ。

「コミュニケーション」では、“明るく”“愛嬌たっぷり”“程よく本音”が鍵だという。「リアクション」のキーワードは“本物の感動”。「ファッション」で重要なのは、“清らか”“可憐”“可愛らしい”。みやびはこれまで、“華やか”“お洒落”“シャープ”な服装を選んできた。これが“美人・キャリア・アラフォ”の三重苦を背負う現在ではマイナスだというのである。

 恋愛マスターになるためのこうしたノウハウが、ドラマではテンポよく速射砲のように連打される。これをボーッと見ているだけで記憶するのは至難の業。気の利いた女子は、録画して後でゆっくりチェックしていることだろう。ただしこの本と演出は、人を惹きつけるのに大いに成功しているものの、視聴率に直結するリアルタイム視聴には結びついていないかも知れない。録画再生視聴を促進してしまうので、痛し痒しといったところなのである。

いずれにしても、ストーリーは布石がしっかり打ちまくられ、視聴者を引き付けて止まない。

 みやびの本命は、高校時代に好きだった同級生、桜井(チュートリアル徳井)。ただし久しぶりに再会し、彼への想いが再燃し、自分なりにアプローチするが、ドラマ初回から彼女はいきなり振られてしまう。そんなみやびにアプローチしたのが、会社で“ミスターアベレージ”と呼ばれている石田(鈴木浩介)。みやびの医院に出入りするデリバリーボーイ(瀬戸康史)も気になる。愛嬌よく可愛げのある年下男子だ。そして最も引っかかる存在が、毒舌恋愛スペシャリスト(藤木直人)。みやびに「幸せな結婚を味あわせたかった」と言いつつ、本人の過去は謎だらけ。以上4人の男たちが登場し、「結婚できないんじゃなくて、しない」と強弁してきたみやびの周囲を回遊する。彼女の選択はどう揺れ、最後はどんな結論を出すのかが気になる。視聴者を最終回まで引っ張る力は十分過ぎると言えよう。

TBS好調ドラマの3本目は『重版出来!』

 視聴率初回9.2%は決して良い数字ではない。しかし初回録画数160は、全14本の中では4位。テーマへの関心の高さを物語る。満足度も初回こそ3.57ポイントとやや平均を下回ったが、2回目3.83ポイント、3回目3.87ポイントと、平均を超え順当に伸ばしている。35歳以上だけでなく、F1M1も2~3回目で4ポイント台の高い評価をしているのは珍しい。主人公のキャラクターと黒木華の演技に、「小気味よい」(F1)、「感動できるドラマ」(M1)、「元気いっぱいの黒木華ちゃんを見ているだけで力が湧いてくる」(F2)、「見ていてポジティブになれる」(F3)と、惹き付けられている人が多いことを証明している。

 知人の元ドラマ・プロデューサーも佳作と評価は高い。

 いい出来だ。「映画ビリギャル」の那須田P・土井Dの黄金コンビで脂が乗っている。ケガでオリンピックをあきらめた柔道女子がコミックで世の中を明るくしようと編集者になるお話なのだが、黒木華ちゃんがややもっさりしたヒロインを好演している。彼女はその動きと芝居を観ているだけで飽きさせない稀有な存在である。

私の中では、男優では阿部サダオ、女優では黒木華である。私は「チビ太」であり「おそ松さん」一辺倒なのでわからないのだが、原作を読んでいる者からすると、このドラマは原作へのリスペクトがあり、観ていて心地よいそうである。松重豊、安田顕、荒川良々、脇役陣が充実している。そもそも「出来」を「しゅったい」と読むなんて初めて知った。このドラマのおかげである。

出典:「ドラマ王国TBS」復活か!?4月クール連続ドラマ           

 『私 結婚~』は婚活する上で、現実的に役に立つノウハウが満載だったが、『重版出来!』は社会人として仕事をする上で役に立つ言葉がしばしば出て来る。

 「マンガはどんなに面白くても、売れるとは限らない。勝手に売れる作品なんてない。売れた作品の裏には、必ず売った人間がいる。オレ達が売るんだ」

 「自らアイディアを出して動く営業、協力的な担当編集者、作品を愛してくれて推してくれる書店員さんたち。この三者がしっかりてをつなげば、作品が大化けする可能性がある」

こうした仕事に熱く打ち込む人々の言動が、見る者の感動を呼ぶ。『99.9~』でも、主人公の刑事事件専門弁護士(松本潤)は実は料理の達人で、知り合いから絶賛の声を浴びながら「やっぱり丁寧にやることが大事だなあ」とつぶやく。今期TBSドラマ3本に共通するのは、生きる上で、あるいは仕事をする上で、どんな姿勢が大切なのか、根本の部分に向き合おうとしている点だ。そこに感動が生まれ、結果として視聴率や満足度につながっているようだ。

分かり易い視聴率の部分に端的に効果が表れているとは限らないが、「“ドラマのTBS”復活か」という声は、確かに幾つかの根拠があるように思える。3本の今後の展開から目が離せない。