バドミントン全英オープンが開幕 世界ランク2位・山口茜選手が頂点に接近!

山口は156センチと小柄だが、球の出所が分かりにくく、対戦相手を翻弄する(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「一度は世界ランク1位になってみたい」

 年間王者を決める昨年12月のスーパーシリーズファイナルズで、女子シングルスで優勝を果たした山口茜選手(再春館製薬所)。最近、彼女は次の目標について、こう口にしている。

 3月8日付の世界ランキングは2位。14日から始まる全英オープンでは、第2シードを確保し、目標へ近づく可能性が高まっている。

2017年後半から急速にレベルアップ

 強豪揃いの日本チームの中でも20歳の山口には、世界ランキング1位に届きそうな勢いがある。

 2017年秋以降の山口は強かった。思い入れのあった8月の世界選手権は16強、9月のジャパンオープンは8強。「勝ちを意識しすぎた」というのが山口の反省の弁だ。

 しかしこの敗戦から山口は戦い方のバランス軸を「自分らしく、楽しく」という気負わないスタイルに戻したという。夏までの結果を求める気持ちは、社会人になってからの約1年半、“プロ”としてどうあるべきかの模索の一つだったのだろう。

「自分らしく、楽しく」という姿勢も、その先には勝利への意識があるのだから、一見大差はないが、微妙な心のチューニングで山口はあっという間に変わった。

 10月のヨーロッパの2大会で準優勝を収めると、11月の中国オープンで約1年ぶりにスーパーシリーズを制覇。その後、香港の大会を経由して日本に帰ると、すぐに日本一を決める全日本総合選手権に出場した。

 ここでは緒戦で「ちょっと疲れています…」と珍しく疲労を打ち明けながらも、決勝では鋭い攻撃を繰り出す大堀彩(トナミ運輸)を退け、3年ぶり2度目の優勝を遂げた。

 そして山口にとって2017年の極めつけは、世界のトップ8のみが招へいされるスーパーシリーズファイナルズの制覇だろう。

 個人戦では、オリンピック、世界選手権に次いで権威がある。この大会の賞金は8万米ドル(約900万円)で、山口は見事初優勝し、2017年における賞金王にも輝いた。(Badzine調べ。26万1,363米ドル=約2800万円)

 いかに山口がこの1年間、コンスタントに上位進出をしたかの証でもある。

奥原はレシーブ型、山口はラリー型

 そんな山口のプレースタイルだが、2016年リオ五輪の銅メダリストで、昨年の世界選手権を制した奥原希望(23、日本ユニシス)と比較すると分かりやすい。

 ともに156センチで足をよく動かすという点では似ているが、奥原が徹底したレシーブ型なのに対し、山口はラリー型で奥原よりも攻め手が多い。

 たとえばジャンプしながらの攻撃は小柄さを補う威力があり、しかも空中感覚に優れている。

 シャトルを捕らえるとき、ジャンプしながら打つ、ジャンプしきった頂点で打つ、ジャンプしきったあと落下しながら打つなど、微妙に打点を変えることができる、と話すのは、プロバドミントントレーナーで、高校生だった山口のヒッティングパートナーを務めたことのある藤本ホセマリ氏だ。

「そもそも空中で球を捕らえてミスしないだけでも難しい。ですが山口選手はミスしないどころか、正確に打点を使い分けコントロールする。すると相手はどのタイミングで打たれるか分からず、リズムを狂わされるんです」

 

 コート四隅に配球しながらも、一球ごとにタイミングや高さ、距離を少しずつ変えて、相手に捕りにくくさせ、主導権を握る。それが山口の強さのひとつである。

「山口はポーカーフェイス」

 雰囲気も奥原とは違った魅力がある。奥原が神々しいストイックさをまとい、試合のあとは勝っても負けても情感があふれるのに対し、山口はどちらかといえば、仰ぎたいというより、見守りたくなる雰囲気だ。

語弊はあるが、どこか子どこのようで負けたあとは敗戦理由を探るように首をひねり、勝ったあとは照れたようにはにかんでいる。

 以前、ヘ・ビンジャオという中国選手が「山口はポーカーフェイス。感情が読めないので試合するのが難しい」と話していたが、それは、山口の“邪気のなさ”から来ているのではないか。

 つまり20歳の女性なら、ある程度、自分を飾るものだが、山口はそんな欲に極端に重きがないように見えるのだ。

 12月のスーパーシリーズファイナルズの優勝後には、賞金の使い道を尋ねられ、「少年マンガかな」とぼそっと答えていたことが報道されていたことからわかるように、山口はあくまで素朴だ。

 ただ「団体戦好き」を公言する山口なので、社会人になってから勝って周りを喜ばせたいという欲は強くなっていたようだ。

だが、先ほど話したようにそんな欲とのよい距離感が最近ようやく掴めてきたのではないか。

 だから、強さを増した。

 リオ五輪の女子ダブルスの金メダリスト、松友美佐紀(日本ユニシス)にも同じことを感じるが、「どう打ったら試合に勝てるか」という好奇心が強く見える。

 子ども時代同様、世界トップレベルになったいまもワクワクしながら追求を続けている、そんな印象だ。

 好奇心に突き動かされて戦っている様子が欲のなさに見えるのだろう。

日本初のシングルス世界ランク1位なるか?

 2018年に入ってからも山口の勢いは止まらない。3月11日に終わったドイツオープンでは2連覇を遂げた。その後、英国に移動し、昨年は3位に留まった全英オープンに挑む。

 もし今回、山口が優勝すれば、日本の女子シングルスとしては奥原希望以来、2年ぶりの優勝、3人目の覇者になる。

 また世界ランキング1位に到達する可能性について、山口が所属する再春館製薬所の池田雄一監督はこう話している。 

「世界ランキング1位のタイ・ツーイン(台湾)とのポイント差が大きいので、仮に山口が優勝したとしても、タイ・ツーインが1回戦負けならという状況です。ただ可能性はゼロではありません」

 さらに池田監督は続ける。

「もちろん、本人はかなり世界ランキング1位にはこだわりがあります。でも、その思いをプレッシャーにせず、コントロールできるのも山口です」

 余談だが、選手には世界ランキングの上がり具合を大して気にしない選手と、どの大会でどこまで勝ち進めば、世界ランキングがいくつ上がるか、綿密に計算する選手がいる。

 この点において、じつは山口は後者であるという。

「私より全然、詳しいです(苦笑)。今回もかなり計算していると思いますよ」(池田監督)

 やはり日常での欲は少なくても、世界ランキング1位への山口の思いは強いのだ。

 全英オープンは山口が初優勝を遂げるのかが一つの見どころだが、現行システムになってから日本シングルス勢初の世界ランキング1位が誕生するのかにも注目だ。