岸田文雄氏が、9月末自民党総裁になり、今月4日臨時国会で第100代総理に新たに選出された。これは、菅義偉前総理が、9月3日に、官邸で記者団に、自身の任期満了に伴う自民党総裁選への不出馬の突然の表明から生まれた政治トップの交代劇であった。この交代劇には、衆議院選挙が迫る中、コロナ禍対応をはじめとする政策対応や国民への情報発信の不適切さなどに伴う前政権への国民の支持率の低下に対する政権与党である自民党の議員や党員らの危惧などが背景にある。

 岸田氏は、これまでリーダーシップの欠如がよく指摘されてきていたが、総理・総裁の就任が確定するや脱兎のごとく、党および内閣の人事や自身の政策の発表を行った。党人事や内閣の人事を見る限りでは、党内および派閥の力学や自民党総裁選での自身への支持・不支持などを勘案し、自身の独自色も踏まえ、対外的に党が変わったというそれなりのメッセージとアピールを交えた高等テクニックに基づく、人事を行ったように感じる。その意味では、岸田総理は、いわれているのと異なり、意外と自身の意見・意思があり、リーダーシップを発揮しようとしているのかもしれない。

岸田政権発足。
岸田政権発足。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 しかし、そのような岸田総理の動きや姿勢は国民に理解され、受け止められているのだろうか。

 表1、表2をみると、岸田新政権への評価は、これまでの歴代の政権の政権支持を比べると、前政権の最終月よりは2割程度は上昇しているが、それほど高いとはいえない。

 特に、読売新聞や毎日新聞の世論調査によれば、甘利明氏の自民党幹事長への任用には否定的な意見が強い。岸田総理は、予想に反して、就任後すぐに今月内の解散総選挙を決めた。これは、甘利幹事長を含めた自民党の幹部人事や組閣人事に関する批判やボロがでて内閣および自民党の支持が急落するなかで衆議院総選挙を行うことを避けるための対応であったと考えられる。

(注)表1~表3は、標記メディア等発表を基に筆者が作成した。
(注)表1~表3は、標記メディア等発表を基に筆者が作成した。

 ところで表2を、時系列的に作り変えてみると、表3のようになる。

 これをみるとわかるように、岸田政権は、期待の大きな政権があまりうまく機能せず、その次に誕生した政権と同じような状況および政権支持率にあるといえる。

 第2安倍政権は、期待の非常に高かった民主党政権が失敗し、政治への期待が低い中でできた別の政党による政権であったために、一部を除き大きな政治改革がなかったり様々な問題課題があっても、ある程度のことをすれば、その前よりはましという評価を受けやすかった状況だったがゆえに、長期政権を維持できたと考えることができる。しかし、長期政権による綻びやコロナ禍対策への不十分さ等から、国民は、政権・政治への変化を異色の経歴の菅義偉総理に求めたが、同政権は、同総理のキャラもあり国民とのコミュニケーションに失敗し、国民のその期待に十分に応えられず、急速に支持を失い、岸田政権ができたといえる。

 それはつまり、岸田政権は、表3に示されているように、大きな期待で生まれた政権が失敗し、国民の政権や政治へ期待が低下する中でできた政権(しかも政権与党は変わらない状態の政権)なのだ。このような政権は、ここ15年の政治の歴史かの視点からすると、国民の政治をみる目は厳しいので、約1年で変わってしまう短命になっている。その意味からすると、岸田政権への政権支持率が低いのは国民の政治への厳しい判断の表れであり、野党を含む政治状況にもよるが、岸田総理も、これまでの同様の政権のように厳しい政権運営が予想されるのである(注1)。

 岸田総理は、このような状況を恐らく十分に理解されているであろう。であるがゆえに、内閣に当選3回の若手議員や女性の閣僚を各3名づつ登用したり、自民党の重責である総務会長にも当選3回の若手議員を任用するなどして、岸田政権の新しさをアピールしたりしているのだろう。 

 だが筆者の限られた経験からも、政治においては、単に若いから良いとか、若いから改革志向だとか考えるのは必ずしも正しくないと考えている。政治においては、やはり経験がそれなりに重要であり、そのためには時間もかかるのだ。その意味では、党や内閣での若手の起用は、岸田政権の運営に支障を生む可能性もある。

 しかも、政治や政策は、個人の個性や特性も重要であるが、基本的にはチーム対応なのだ。その意味からすると、大臣や党の幹部の一部を若手に変えるだけでは、意味がないとはいわないが、必ずしも十分ではないのだ。

もっと若い世代等の考えなどが活かされる仕組みが必要だ。
もっと若い世代等の考えなどが活かされる仕組みが必要だ。提供:koni/イメージマート

 そこで、岸田政権でぜひ試みてほしい仕組みがある。それは、次のような考えに基づく仕組みづくりだ。

 党内的あるいは閣外的には、政治のトップは必ずしも若くなくても良い。しかし、それらを支える体制に若手や多様なバックグラウンドの人材を採用して、外部の若い知見を、行政や政治、政策づくりに活かす方が有効なのではないかと考える。つまり経験のある政治トップが、若い多様な人材を守り、彼らが活躍することを支援するような対応にするのだ。

 若い世代であれば、その後のリスクも少ないし、この仕組みを通じて、行政や政治の様々な経験を積むこともできる。政治の方も、若い多様な人材の知見を利活用できることになる。日本のように変化しにくい社会で変化を生んでいくという意味、特に政治的・政策的な意味おいては、この方が、より有効に機能できるのではないかと考えることができる。

 そのような仕組みを考える上で、台湾の実例が参考になる。

 台湾のデジタル大臣であるオードリー・タン氏は、スティムソン・センターでのインタビューで、次のような仕組みを説明している。

 「台湾には、逆指南(reverse mentorship)という考え方があるんです。社会変革アクションプランに参加している省庁が12ほどありまして、そこのトップには必ず、逆指南役と呼ばれる人が2人就きます。いずれも35歳未満の、たいていは社会起業家がイノベーターで、彼らがその省庁を引っ張っていくのです。」(注2)

 この先例を参考にして、日本でも、各省庁の大臣のサポート役に、各3名の35歳未満の逆指南役を置き、予算と権限を与える。そのうち少なくとも1名は必ず男性以外のジェンダーにする。彼らは、行政経験があってもいいが、基本的には民間でのイノベーターや社会起業家などの経験のある、35歳未満の人材とするのである。

 これらの人材は、若いうちに、ある程度の立場で行政や政治で経験できることになる。そして将来は、民間と行政・政治の間を行き来し、外部からはわかりにくく、変化させていくのが難しい、行政・政治を大きく変化させていく、エンジンとして機能してくれることが期待できると考えられる。

(注1)岸田政権成立後の株価の動きをみても、市場の同政権への評価は厳しい。

(注2)出典は、『the Japan times News Digest コロナ禍を生き抜く…厳選危機管理スピーチ集』(ジャパンタイムス出版2020年)より。