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「不動産の民主化」のミッションを掲げ、大きく変貌する不動産業界に果敢に挑戦する「ヤモリ」とは?(下)

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
社会の変化と共に、不動産の価値も変わる(写真:アフロ)

                …前号から続く…

<「ヤモリ」が掲げる「不動産の民主化」とは?>

S:ご説明ありがとうございます。起業・創業の背景が見えてきました。ところで、藤澤さんは、「ヤモリ」の仕組みに関して、「不動産の民主化」という大きなミッションを掲げています。

 素人目には、不動産と民主化ということが必ずしも結びつかないのですが、「ヤモリ」が目指す「不動産の民主化」とはどういうことなのでしょうか。

藤澤さん:日本では空き家問題が深刻化する一方で、高齢や低所得などを理由に賃貸住宅に入居できない層も増え続けていて、大きな社会矛盾となっています。「ヤモリ」は個人の不動産オーナーに焦点を当て、「不動産投資から不動産事業へ」、より多くの人が不動産事業に取り組める世界を目指しています。

 不動産投資と聞くと、一般には高額でよく分からず敷居が高いというイメージがあるかと思いますが、「ヤモリ」はクラウドソフトウェアとデータ解析技術を活用して、その敷居を下げていきたいと思っています。正しい知識を持って効率的な賃貸経営ができる不動産オーナーを増やすことで、賃貸市場の活性化と住居環境の向上を実現していきたいと考えています。

 これまで地主など一部の人しか持つことができなかった不動産資産をより多くの人が持てるようにすることで、空き家や築古物件を活性化すると同時に、資産形成の一つとして多くの人が不動産からの安定収益を手にすることで、お金の為だけでなく、自己実現の為に働く人が増える社会を目指しています。そのような方向性を、「不動産の民主化」と考えているわけです。

<「ヤモリ」の具体的なサービスや活動は?>

S:なるほど。興味深いですね。それでは、次に「ヤモリ」が現在取り組んでいる具体的なサービスや活動について教えてください。

藤澤さん:不動産オーナー向けにクラウド不動産経営管理のサービス「大家のヤモリ」を提供しています。不動産オーナーは、保有物件の収支をクラウドで一元管理することができます。一方、管理会社向けには「管理会社のヤモリ」を提供し、相互のシステムが連携することで不動産オーナーと管理会社のコミュニケーションも円滑にクラウドで行うことができるようになっています。

 また、クラウドサービスと並行して、不動産投資初心者向けに、無料学習メディアの「ヤモリの学校」と、物件探しから管理売却まで寄り添ってサポートする「ヤモリの家庭教師」を提供しています。

 今年4月から開始した「ヤモリの家庭教師」の会員数は応募開始から2週間で160名を超え、早速全国の空き家や築古アパートの探し方からリフォーム、融資購入、管理まで支援しています。

 今後もクラウド不動産経営管理「大家のヤモリ」を事業の中心に据えながら、不動産事業に取り組む方々の経営リテラシーを向上させて、賃貸経営をサポートしていきたいと思っています。

サービスイメージ図(藤澤氏提供)
サービスイメージ図(藤澤氏提供)

<不動産業界を今後どのように変えていきたいのですか?>

S:不動産に関する社会全般のリテラシーを高めることで、社会や地域全体の活性化や新たなる発展にもつながりそうな活動です、非常に興味深いです。不動産は、一般の方にとって少なくともこれまでは必ずしも多くの接点はなく、かなりクローズドな感じがしていました。しかし、今後社会の変化や流動化が進み、より多くの人々が、「不動産」を理解し、活用したり、関わる可能性が高まることが予想されるなか、この「ヤモリ」のサービスや活動の社会的意味が高まりそうですね。

 その点も踏まえて、藤澤さんの考える「ヤモリ」の優位性や、それを活かして、不動産業界を今後どのように変えていきたいかを教えてください。

藤澤さん:「ヤモリ」では、全て開発を内製化していて自社でフルスクラッチでやっています。不動産投資を熟知している経営陣とフルスタックエンジニアのチームで、不動産分野に特化したクラウドサービスを開発しています。

 今後ヤモリの事業を拡大することで、これまでアナログで眠っていた物件情報や修繕履歴などのデータがどんどん蓄積されていくことになり、データを活用して透明性の高い市場を作っていきます。また賃貸管理業務や融資業務についても、まだまだ効率化できる余地がある分野であると考えています。不動産市場は、100兆円以上の価値がありますが、不動産オーナーを起点にデジタル技術を駆使して今後もサービス展開していく予定です。そのようなサービスや活動を通じて、不動産業界をより可能性の広がるものにしていきたいと考えています。

<起業・創業でのご苦労は?>

S:ところで、藤澤さんは、Knotelの日本のカントリーマネジャーもやられていましたよね。2社の立ち上げを同時並行してやられていたわけですが、何かご苦労等はありませんでしたか。

藤澤さん:KnotelはNY発のスタートアップで、創業者のAmol Sarvaはこれまで10社以上を起業してきたシリアルアントレプレナーです。2019年にAmolが旅行で東京に訪問した際に、「ヤモリ」の事業プランをぶつけたことがきっかけで意気投合し、日本事業の立ち上げをやることになりました。二足の草鞋を履き、NYとの時差も利用して日夜働く毎日でしたが、急成長のユニコーンスタートアップの経営を肌で感じることができたことは非常に勉強になりました。また、二つの事業を一緒に立ち上げることで、不動産業界のネットワークを構築することもできて、自分自身の引き出しの幅を広げることができたと思います。

<ご自身の今後の展望は?>

S:一石二鳥という感じですね。最後に、藤澤さんご自身の今後の展望を聞かせてください。

藤澤さん:実際に起業してみて自分の無力さを実感している日々ですが、しぶとく挑戦していきたいと思います。「ヤモリ」を起業した理由もそうですが、社会を少しでも良くすることができると自分が信じられることに、日々全力で打ち込んでいけるような生き方を送っていきたいと考えています。

 そんな生き方が自分にとっての幸せと感じていて、それを続けることで社会にインパクトを与えられるような事業を創っていけることが理想です。まだまだスタート地点に立ったばかりですが、今後もしぶとく、そしてラーニングしながら新しいことにどんどん挑戦していきたいと思います。

S:頑張ってください。藤澤さんの今後に期待しています。また応援させてください。

<藤澤正太郎氏の略歴>

藤澤正太郎氏(写真:本人提供)
藤澤正太郎氏(写真:本人提供)

 慶應大学卒業後、三菱商事株式会社に入社。海外インフラ事業開発とアセットマネジメントに従事。南米チリに4年間駐在し、海水淡水化事業の立ち上げに従事。その後、NY本社の不動産ユニコーン企業であるKnotel Inc. のJapan GMを務める。「不動産の民主化」をミッションに株式会社ヤモリを設立、代表取締役を務める。

<参考情報>

・「ヤモリ」会社概要:

会社名:株式会社ヤモリ

設 立:2019年11月22日  所在地:東京都渋谷区

事業内容: 

「ヤモリ」は「不動産の民主化」をミッションに、クラウド・AIを活用して不動産賃貸事業の学習から購入、管理、売却まで、不動産オーナーの経営を支援するサービスを提供。これまで東京大学FoundXや東大IPC 1st Roundに採択されて、不動産事業に特化したクラウドプラットフォームを開発。2020年にサービスを提供開始して以降、登録資産規模100億円超、不動産オーナー400人以上と管理会社が利用中。

・Knotel:

米国ニューヨーク本社の「Knotel Inc(以下、Knotel)」は、世界各国の主要17都市、200以上の拠点で、フレキシブルワークスペースを運営するリーディングカンパニー。

しかし、コロナ禍の影響で苦戦を強いられ、米連邦破産法11条に基づく会社更生手続きを行い、米国NASDAQ上場企業のNewmark社に買収された。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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