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若者と中小企業との新たなる関係性をつくり出して、地域のミライを創出する。

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
自身のビジョン「若者と共に地域のミライを創る!」のフリップを掲げる佐々木研さん

「リ☆パブリカンNeo Who’s Who…何故彼らは社会を変えたいのか? 2025年のリーダー像を探る…」 その4

(本インタビューは、WEBRONZAで掲載してきた「リ☆パブリカン」の新バージョンである「リ☆パブリカンNeo」として行ったものです。)

佐々木研ミライ企業プロジェクト事務局長

聞き手:鈴木崇弘(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授)

日本の企業の多くは中小企業であり、日本の産業・経済や雇用を支えているのは中小企業であるといえる。だが、中小企業のイメージは必ずしも良いとはいえない。その結果、人材も集まりにくいのが現実である。なぜそのような状況なのであろうか。その状況に対する調査を行い、その問題を改善あるいは解消するために、果敢に取り組んでいるのが、本インタビューで紹介する「ミライ企業プロジェクト」である。

本記事では、そのプロジュクトにおいて中心的役割を果たしている佐々木研さんにお話を伺った。

―「ミライ企業プロジェクト」が始まった経緯を教えてください。

佐々木研さん  私が所属していた株式会社シーズクリエイト(大阪府八尾市)は元々新聞の折込み印刷などを本業にしている会社ですが、社長は新規事業を模索していました。その関係で、2011年ごろ、奈良や大阪で、地域や企業において何か困ったことや問題に関して、1年間ぐらいヒアリングしたのです。その一環で、八尾市や堺市で企業を調査したところ、現地の中小企業が人材不足であることや若者に知られていないことが分かったのです。そこで、若者と中小企業をつなぐものとして、中小企業を紹介する「READY」というフリーペーパーを自社で作成して、生協や大学では配布することにしたのです。

その時に、インターンシップなど小学生から大学生までのキャリア教育を行うNPO法人JAE(大阪市北区)と一緒に作成したわけですが、そのファウンダー・会長の山中昌幸さんからそのペーパーにコメントをいただいたのです。

そこで、JAEと共同して事業をすれば、何か新しい展開が出来ると考え、さらに事業を進めていく上で、広報も重要であるため、広報支援会社のPRリンク(大阪市中央区)の代表取締役の神崎英徳さんにもご協力いただくことにしたのです。

このようにして、3つの企業がタッグを組んで、2013年4月から、豊かな社会づくりに貢献している中小企業を社会に伝えると共に、働くことに対する若者の価値観を変えて、その両者をつなげていく「ミライ企業プロジェクト」を開始したわけです。つまり3社が協力した方が、規模も大きくきめ細やかなサービスができると考えたわけです。

―なぜ、中小企業を「ミライ企業」と呼ばれるのですか。

佐々木さん  それは、日本にある企業の99%は中小企業であるにもかかわらず、学生にとっては、ネガティブなイメージがあります。ところが、実際には中小企業にも魅力的な人材もたくさんいるわけです。そこで、そのイメージを払しょくするために、中小企業を「ミライ企業」と呼ぶことにしたのです。

―なるほど。具体的にどのような活動をされているのですか。

佐々木さん  大きく分けると現在は、3つの活動をしています。

まず「ミライ企業図鑑」という名称で、サイトや冊子を作成して、それらの企業を若い方々に知ってもらう活動をしています。それらの資料や情報提供を使って、2015年には10の大学でキャリア教育の授業を行いました。

2番目が、インターンシップです。学生がミライ企業で、1カ月から半年にわたって、仕事を体験してもらうプログラムです。

3番目が、新卒採用企業と学生をつなぎ、マッチングさせる事業です。

さらに今後は、企業向けに職場を改善するための研修の提案など、定着支援を行っていく予定です。

―プロジェクト自体はどのようにマネタイズされているのでしょうか。

佐々木さん  資金の多くは企業からいただいています。たとえば、図鑑への掲載料、社員研修費、学生とのマッチングが成功した場合の手数料などです。また、このプロジェクトに参加している企業が一堂に会する「ミライ会議」というものがあります。そこには学生も参加し、学生と企業が出会う場になっているのですが、その場合は企業と学生の両方から参加費等をいただいています。そして、「ミライスタディーツアー」というのがあるのですが、その場合は、参加する経営者などに参加費を払っていただいています。

―ミライ企業プロジェクトの活動は広まってきているのですか。

佐々木さん  まず規模的に拡大してきています。これまでのように関西だけでなく、すでに沖縄に地域事務局があり、今夏は広島や三重にも地域事務局がつくられました。図鑑掲載企業は70社、他の事業への参加企業は30社あり、沖縄でも10社から20社がこのプロジェクトに参加するようになってきています。

また、創業の3社以外にも、就職支援会社や社労士、大学教授などの専門組織(家)も関わるようになってきています。

また先ほど申し上げたこととも関わるのですが、昨年2月で関西では、ミライ企業図鑑を、すでに170大学のキャリアセンターに各50部から100部ずつ設置、大阪市内の24か所の図書館に寄贈してきています。今のところ、大学の先生やキャリアセンターのスタッフの方々からは、「授業で活用できる」などとの良い反応をいただいています。

―その図鑑について、もう少し詳しく教えてください。

佐々木さん  図鑑は、対象企業の経営者(社長)を取材した記事が、3カットの写真と共に掲載されていて、各社1頁で構成されています。そこには、社長が実現したいミライがわかるように書かれています。

中小企業は学生にとってこれまでは名称もわからないような状態でした。その図鑑を通じて、企業からは「わかってもらえて良かった」という意見や学生側からは「中小企業のイメージがわかった」という声もいただいています。

このようにして、企業と学生に「出会って」もらうような機会をつくっているわけです。そして、そのように学生に知ってもらえれば、学生から中小企業への手ごたえも変わっていくと考えています。実際、学生からは「中小企業を体験や見学したい」、「スタッフと話してみたい」、「施設を知りたい」などという声もいただくようになってきています。

―話が前後してしまうのですが、そもそも「ミライ企業」とはどのような企業(中小企業)と考えればいいのでしょうか。

佐々木さん  ミライ企業の指標は、「理念力」「組織力」「革新力」の3つです。もう少し詳しく申し上げると、「人材育成に対する姿勢」「事業内容の社会性」、「経営理念の浸透」など複数の条件に当てはまり、それらを高めている企業を、「ミライ企業」と認定しています。

これらの指標を経営者に自己評価をしてもらい、認定していています。ただ今後は社員にも評価してもらうべきだとも考えています。

それからもう一つ付け加えておきたいのは、ミライ企業プロジェクトは、ファウンダーの3社が、これまでに付き合いがあり、信頼でき、先に申し上げた3つの指標を充たした30社からスタートしています。そのため現在もすでに参加した企業に紹介を受けて企業を自己評価してもらい、「ミライ企業」に認定するというシステムをとっています。今後は、既参加企業2社以上の推薦と3つの指標の一定水準を満たしているということが基準になっていくのではないかと思います。

―ミライ企業プロジェクトの今後について教えてください。

佐々木さん  若者は、基本的にまだまだ大企業志向です。それは、中小企業は、下請けで、いつ潰れるかわからないようなイメージがあるからです。

そのイメージを変えていくために、「地域の人事部」や「地域のCSR室」といった構想も出てきています。その構想では、ミライ企業のための地域での人材プールや同期人材への合同研修会の開催などを考えています。まずは、2016年春からミライ企業のための合同説明会を開催する予定です。

そのような活動や仕組みづくりをして、若者に中小企業にも目を向けてもらって、彼らの働く価値観を変えると共に、彼らが長くきちんと働けるような状況をつくり出していきたいと考えています。

また今後行政や大学との連携もさらに進めていきたいと考えています。その一環として、法政大学教授の坂本光司先生が主催されている「人を大切にする経営学会」との連携や同学会の関西支部のサポート、さらにイベントも開催予定です。そのような連携を通して、人を大切にする企業とのネットワークも広めていきたいと考えています。

そして、私たちのプロジェクトは、地域事務局が自走できるようにしたり、企業コミュニティーの形成なども行い、活動を通じてキチンとマネタイズしていける方向に持っていきたいと思います。さらに今後は、より多くのものができるオープン・フォーラムとしてのプロジュクトにしていければとも考えています。

―ありがとうございました。

鈴木コメント

この「ミライ企業プロジェクト」は有りそうでなかった取り組み。そこで行われている活動の一つひとつは、決して新規でも、物凄くユニークなものではない。ただし、その各々を組み合わせた、プロジェクトを全体としてみてみると、実にユニークなものに仕上がってきている(今も深化、拡大中なのであるが)。その意味では、このプロジェクトは、編集的創造性の賜物なのではないかと思う。

またこのプロジェクトは、飽くまでもビジネスとしてマネタイズする手法が取られているので、逆説的に今後とも拡大しながら、持続的に続くことが可能だと考えられる。

そして、このようなプロジュクトの場合、金銭的かつ人的工面をしながら、それを構成する個々の活動を着実に継続しかつ全体としてまとめていくのは、実は地味で大変な仕事なのである。佐々木研さんはその役割を担っている。今後のビジネスや活動は個人や一企業ではできなくなってきている。そこでは、そのようなプロデューサー的な役割や人材は、重要であり貴重であると考えられる。また、佐々木さんの役割は、近年使われることの多くなった、大きな目標やビジョンなどの実現に向けてまい進する仲間や関係者を支援し奉仕するリーダーシップである、サーバント・リーダーシップに近いものであると感じた。

佐々木研(ささき・きわむ) ミライ企業プロジェクト事務局長

アパレルや学校の職員などを経て、2012年より株式会社シーズクリエイトCSR室に所属。さまざまな社会課題解決のために活動する中でNPO法人JAE、株式会社PRリンクとともに『ミライ企業プロジェクト』をスタート。プロジェクトの事務局長として全体を取り纏める。2016年春よりフリーランスとして企業のサポート業務や学校の講師として活動。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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