「行けー、行けー、デューク・フリード。飛べー、飛べー、グレンダイザー」

この歌詞を見て、メロディが浮かんでくる方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

そう。これは永井豪原作のテレビアニメ『UFOロボ グレンダイザー』の主題歌の冒頭。1970年代放映当時子供だった世代のかなりの数の方が口ずさめるのではないかと思います。

じつはこのアニメ、1978年からフランスでも放映されて大ブームを巻き起こしていました。タイトルは「グレンダイザー」ではなく、「Goldorak(ゴールドラック)」。

そしていま、パリのセーヌのほとりにそびえる「パリ日本文化会館」で開かれている「GOLDORAK -XPERIENZ(ゴールドラックーエクスペリエンス)」が大人気です。

展覧会場のフロアに掲げられた巨大画像(筆者撮影)
展覧会場のフロアに掲げられた巨大画像(筆者撮影)

パリ日本文化会館での展覧会

展覧会はいくつかのパートに分かれていますが、まずは原画の展示などから始まり、フランスでの展開、当時の人気ぶりが伝わる資料や玩具、そしてキャラクターに囲まれて写真撮影を楽しめるいわゆる没入型のコーナー、さらに「ゴールドラック」からインスピレーションを受けた現代アートへと続きます。

Go Nagaiのサインが入った原画。
Go Nagaiのサインが入った原画。

プラモデルなどを熱い視線で見つめる来場者たち。
プラモデルなどを熱い視線で見つめる来場者たち。

映画化されたときのポスター。
映画化されたときのポスター。

「男の子だけでなく、女の子にも人気があったのよ」と、等身大のヒーローと写真撮影するパリジェンヌたち。
「男の子だけでなく、女の子にも人気があったのよ」と、等身大のヒーローと写真撮影するパリジェンヌたち。

コンテンポラリーアートの題材になった「ゴールドラック」。
コンテンポラリーアートの題材になった「ゴールドラック」。

記念切手が発売に

噂には聞いていたこの展覧会。わたしはあるタイミングで体験することになりました。それは「ゴールドラック切手」のお披露目会。展覧会開催中のパリ日本文化会館で行われたのです。

パリ日本文化会館での切手発表会。館長の鈴木仁さんに、記念の特別シートが贈られた。
パリ日本文化会館での切手発表会。館長の鈴木仁さんに、記念の特別シートが贈られた。

当然のことながら、切手は勝手に発行できるものではありません。フランスでは郵政公社の一部である、Philaposte(フィラポスト)がすべての切手を制作していて、ドルドーニュ地方にある製造所では、日本の切手も含む外国切手の印刷も手掛けています。

フランスで発行される記念切手は年間50シリーズほどだそうですが、今回の「ゴールドラック切手」もそのひとつ。2年前に申請をし、財務大臣の承認を得てはじめて形になるというものです。

発表会の壇上には、フランスに「ゴールドラック」を紹介したBruno-René Huchez(ブルーノ=ルネ・ユシェ)の娘であるSégolène Godeluck(セゴレーヌ・ゴドラック)さんの姿がありました。じつはこの女性こそが、「ゴールドラック記念切手」プロジェクトの立役者。彼女は「ゴールドラック」生みの親の娘であり、かつフィラポストのコミュニケーションディレクターでもあるのです。

セゴレーヌ・ゴドラックさん
セゴレーヌ・ゴドラックさん

「ゴールドラック」誕生秘話

セゴレーヌさんは、「ゴールドラック」誕生の経緯をこんなふうに語りました。

「茶の湯、生花、料理。父は日本文化にとても興味を持っていました。輸出入の商社マンだった時代、ある日の午後、父は滞在先の東京『ニューオータニ』の部屋でアポイントの時間を待つ間にテレビをつけていました。子供向け番組をやっていたのですが、それに魅了されてしまったのです。ロボット、いい感じの登場人物たち。悪者もいたり…。

内容を知りたくて、レセプションに通訳を頼みます。父の希望を理解したスタッフの若い女性が、番組の内容、そして誰がプロデューサーなのかを説明してくれました。それが『UFOロボ グレンダイザー』でした。

父の求めに応じて、スタッフは制作会社の『東映動画』を電話帳で調べ、即電話をしてくれました。幸いにも英語がわかる人が出て、その夜のうちにアポイントを取り付けて会うことに。そこから『ゴールドラック』の物語は始まるのです」

この日はセゴレーヌさんの背中にも「ゴールドラック」。「1978」は、フランスで初放映された年。
この日はセゴレーヌさんの背中にも「ゴールドラック」。「1978」は、フランスで初放映された年。

社会現象になった日本のアニメ

「グレンダイザー」という名前はフランスではあまり受けないということで、「007」シリーズのタイトルなどから想を得て「ゴールドラック」という名前に替え、1978年7月3日からテレビ放映が開始されました。

当時、フランスで親しまれていたアニメといえばディズニー。あるいはベルギーの作者によるものがすこしあるくらいでした。そんななか、まったく新しいカルチャーといっていい「ゴールドラック」が始まると、子供たちはテレビに釘付けになり、翌年1月には、フランスで人気のある週刊誌『パリマッチ』の表紙を飾るほどの社会現象になりました。

週刊誌『パリマッチ』表紙。「ゴールドラック熱」の文字も見える。
週刊誌『パリマッチ』表紙。「ゴールドラック熱」の文字も見える。

「ゴールドラック」を皮切りにユシェさんが立ち上げた配給会社は、「キャンディ・キャンディ」、「宇宙からのメッセージ・銀河大戦」、「宇宙海賊キャプテンハーロック」など、日本のアニメをフランスで次々と紹介してゆきました。

現在のフランスを動かす「ゴールドラック」世代

それから40余年。当時の子供たちは立派な大人になりました。フィラポストのプレジデントGilles Livchitz(ジル・リヴィッツ)さんもゴールドラック世代を自認するひとり。

「記念切手は11日からフランス全土で発売されますが、全部で35万シート。すぐに売れきれてしまうのではないかと思います」

と、プレジデントとしてのコメントを述べる一方で、プライベートの思い出も語ってくれました。

フィラポストのプレジデント、ジル・リヴィッツさん。
フィラポストのプレジデント、ジル・リヴィッツさん。

「わたしはいま53歳ですが、小さいときに番組をよく見ていて大好きでした。宇宙、ヒーロー。操縦室から滑り台を使って下りてゆくシーンなど、よく覚えています。8歳と4歳の息子がいますが、上の子は、再放送を喜んで見ていますよ」

切手発表会、展覧会場でも印象的だったのは、立派な大人たちが目をキラキラさせていたこと。仕立ての良いスーツで、アニメのキャラクターの隣で嬉しそうに写真を撮っている姿に、こちらも思わず頬がゆるみます。

それにしてもいまどうして「ゴールドラック」? と思いましたが、メディアでの記事、イベントはこれまでにもしばしば見られるようです。

「ゴールドラック」の原画やセル画などのコレクターアイテムが、オークションで予想額の何倍もの価格で取引されていることが昨年ニュースになっていたり、つい近頃では、フランス人作家たちによる二次創作のハードカバーのマンガ本も発行されている様子。

フランスで日本のポップカルチャーを象徴するこのアイコンは、いつの時代でも廃れないポジションをすでに獲得しているという印象を受けます。

日本、フランス同時発売の郵便ポスト切手も

さて、「ゴールドラック切手」はフランスでのみ発売されましたが、日本の「国際文通週間」にちなんで、フランスと日本の郵便ポストが図柄になった切手が両国で同時発売となりました。赤と黄色のポストが並んでいるシート。シンプルですが、なんだかとても微笑ましくて、日仏相思相愛の仲がいつまでも続いてゆくことを願いたくなる切手です。

筆者も郵便局の窓口で無事購入。「ゴールドラック」と黄色いフランスのポストの図柄の切手は国際郵便用の価格(1枚1.50ユーロ)。日本の赤いポストの図柄の切手はフランス国内郵便用(1枚1.28ユーロ)。
筆者も郵便局の窓口で無事購入。「ゴールドラック」と黄色いフランスのポストの図柄の切手は国際郵便用の価格(1枚1.50ユーロ)。日本の赤いポストの図柄の切手はフランス国内郵便用(1枚1.28ユーロ)。

パリ日本文化会館

展覧会「GOLDORAK - XPERIENZ」

2021年9月15日〜10月30日