フランス流おしゃれなおうち時間 パリマダムがミレニアル世代の息子と立ち上げた新ブランド

「ラリッド・ア・パリ」のアデライド・ダンディニエさん(筆者撮影)

パリマダムの欲求から生まれたブランド

「おうち時間」をみなさんどんなスタイルで過ごしていますか?

リモートワークの推奨で自宅で過ごす時間がめっきり増え、とにかく楽が一番とは思うものの、おしゃれから遠ざかってゆくことに一抹の不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか?

ラウンジウエア(部屋着)のブランド「Lalide a Paris」(ラリッド・ア・パリ ※真ん中のaは、アクサングラーブ付き)を立ち上げたパリマダム、アデライド・ダンディニエさんは、世界的にリモートワークが進む昨今よりもずっと前から、そんな思いを抱えていました。

アデライドさんの職業はテキスタイルデザイナーで、フリーランスとしてパリやニューヨークのブランドなどを顧客に活動を続けてきました。いっぽうプライベートでは4人の子供のママン。長男の年齢が33歳と聞くと驚いてしまうほど若く美しい女性です。

アデライド・ダンディニエさん。ブランド名の「ラリッド」は幼少のころからの彼女の愛称(筆者撮影)
アデライド・ダンディニエさん。ブランド名の「ラリッド」は幼少のころからの彼女の愛称(筆者撮影)

かつてわたしはインテリア雑誌の仕事でカルチェ・ラタンにある自宅を取材したことがありますが、これぞパリのおしゃれなアパルトマンという雰囲気。その自宅がアドライドさんの生活の場でもあり、仕事空間でもあります。つまり、在宅で仕事をする女性の大先輩というわけで、日々の暮らしをさらに豊かにするための「超快適でしかも美しい部屋着」をずっと探し求めてきたのだそうです。

ところが、フランスの市場にあったのは、高級デザイナーズブランドの超高額なものか、ファストファッションの大量生産品の両極端。彼女の欲求にこたえるものがないという理由から、自分がほんとうに求めるものを自分で創ろうと2019年6月にブランドを立ち上げました。仕事のキャリアも審美眼も人生経験も円熟の域にさしかかってからの起業というわけです。

品質と伝統技術へのこだわり

アデライドさんがこだわったのはまず素材です。

「肌に直接触れるものだから、生地の質はとても大切。OEKO-TEX(エコテックス)基準をクリアした最高級のコットンを使っています。幸運なのは、リヨン近郊の家族経営の生地メーカーにお願いしたり、信頼のおける作り手と仕事ができていることです」

フランスのリヨンは高級織物の町として王政の時代から有名ですが、いまでもその伝統は続いています。アデライドさんのこれまでのキャリアからそのファミリーとご縁がありました。

生地はいずれも最高品質の天然素材。プリントのモチーフはすべてアデライドさんのデザイン(筆者撮影)
生地はいずれも最高品質の天然素材。プリントのモチーフはすべてアデライドさんのデザイン(筆者撮影)

アレルギーなどの心配のない肌に優しく、洗濯をくりかえしても毛羽立ったりしない長繊維のコットンやイタリア製のシルクなど、世界最高基準をクリアしたものに、彼女自身がデザインしたモチーフをプリントしたものが「ラリッド・ア・パリ」のラウンジウエアの素材になっています。

ディテールにもこだわっていて、衿や袖口の縁取りとして使われているレースもフランス製。カレーという昔から高級レースの産地として知られている町で作られたものを採用しています。

「アール・ド・ヴィーヴル(暮らしのアート)。フランスには美しい布地の伝統があり、それを生かすことに魅力を感じています。価格的に有利な、マダガスカルなどで生産されている生地を使うことも考えましたが、結果的にみると、信頼のできる作り手が近い場所にいてスムーズにやりとりができることが幸いしました」

と、アデライドさん。

パンデミックのために世界各地の工場が休業したりするなかで、求めに応じて細々とでも稼働を続けてくれた工房が供給元だったおかげで、ロックダウン中でも製品を作り続け、注文にこたえることができたそうです。

イタリア製のシルクの部屋着 Photo / Lalide a Paris
イタリア製のシルクの部屋着 Photo / Lalide a Paris
「近所へのお使いにも」とおすすめのベルベット素材のアンサンブル Photo / Lalide a Paris
「近所へのお使いにも」とおすすめのベルベット素材のアンサンブル Photo / Lalide a Paris

起業からの道のり

スタートから1年と3ヶ月。ロックダウンという前代未聞の事態もありながら、ブランドはどのように推移してきているのでしょう。

2019年6月、立ち上げ当初にしたことは「Boudoir(ブゥドワール)」というスタイルのプレゼンテーションでした。

「18世紀、大きなシャトーに暮らしていると、天井が高く室内がなかなか温まらない。そのため、女性たちは中二階などにあたる天井が低く、小さな暖炉がある『ブゥドワール』という空間ですごしていました。そのイメージの現代版で、最初は自宅、そして別のパリの美しい空間に友人、知人たちを招き、お茶やお菓子を楽しみながら商品に直に触れて試着する機会をつくりました」

優雅なマダムのサロン的集いに始まり、有名デパート「ボンマルシェ」でポップアップストアを展開。本当ならば今年2月から2ヶ月半、このデパートでの発表が続くはずだったのですが、ロックダウンのために1ヶ月で中断となってしまいました。

自宅リビングをから始めた「ブゥドワール」スタイルのプレゼンテーション(筆者撮影)
自宅リビングをから始めた「ブゥドワール」スタイルのプレゼンテーション(筆者撮影)
パリの高級デパート「ボンマルシェ」の一角でのポップアップストア Photo / Lalide a Paris
パリの高級デパート「ボンマルシェ」の一角でのポップアップストア Photo / Lalide a Paris

コロナ禍でさぞかし打撃を被ったのではと思いきや、「ブゥドワール」やデパートでの売上不足分は、ブランドのスタート時に立ち上げていたeコマース(インターネット販売)で補填できているのだそう。

そちらの分野を担当しているのが、共同創業者のガスパール・ダンディニエさん。28歳になるアデライドさんの三男です。

「ラリッド・ア・パリ」の共同創業者、アデライドさんとガスパールさん親子(筆者撮影)
「ラリッド・ア・パリ」の共同創業者、アデライドさんとガスパールさん親子(筆者撮影)

ガスパールさんはパリの上級ビジネススクールを卒業。カーシェアリングの世界的なプラットフォーム「BlaBlacar」に勤務していましたが、母親が温めていた新しいプロジェクトを一緒に立ち上げるべく、会社を辞めて「ラリッド・ア・パリ」の共同創業者になりました。

クリエーションがアデライドさんの分野なら、ビジネスデベロップメントはガスパールさんの担当。母と息子、ベビーブーマーとミレニアル世代。性別、世代、キャリア、得意分野もすべて異なる二人ですが、お互いに補い合えるものが多いというのが、母子ともが同感していることです。

ロゴマークを手がけたのは4人きょうだいの末っ子で、母の好みを知り尽くしているひとり娘
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共感から広がる市場

クリスマスなどには、男性がプレゼントとして購入するという需要もありますが、顧客の大半は女性。年齢は30代から70代までと幅があるものの、大きく2つの女性像が浮かびあがってくると、ガスパールさんは分析します。

「ひとつは30から45歳くらいの活動的なビジネスウーマン。銀行家やコンサルタントとして日中はとても忙しくしているけれども、夜の自宅での時間はまったく違うものにしたいという女性。スーツなどきちんとした格好から開放されて、美しいアパルトマンでリラックスしてくつろぐためのラウンジウエアを求めたいという需要です。ふたつ目は母のようにフリーランスで自宅で仕事をしている女性か主婦で、家にいても美しくあり続けたい人。雰囲気を変えるためにではなく、自宅での自分の世界観をつくるための部屋着を、という女性です」

キャリアウーマンがもうひとりの自分になれる部屋着 Photo / Lalide a Paris
キャリアウーマンがもうひとりの自分になれる部屋着 Photo / Lalide a Paris

「世界のどんな場所を旅しても、やっぱりパリが一番好き」という生粋のパリジェンヌ、アデライドさんの発想の源は、これまでに集めてきた豊富な布のアーカイブやソフィア・コッポラの映画など多岐にわたりますが、いずれのアイテムにも彼女のライフスタイルやパーソナリティが反映されています。

「20年後も着たいと思われるデザインだという確信があるから、新しいコレクションを発表しながら、最初のコレクションもずっと提供し続けてゆくつもりです」

いまのところ、95%がeコマースを通じての販売で、フランスだけでなく、アメリカ、中東、オーストラリアからも注文が届き始めているのだとか。アデライドさんの実感とセンスに共鳴する女性の輪が、パリの「ブゥドワール」から世界へと広がりつつあります。