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【パリ】ハイブランドのメッセージ新時代 「シャネル」が国立自然史博物館で無料展覧会

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
「シャネル」の展覧会ポスター(写真はすべて筆者撮影)

コスメティックと植物学のコラボ

今月23日から27日までの5日間、パリのジャルダン・デ・プラント(国立植物園)内の自然史博物館で「シャネル」の展覧会が開催されています。

テーマはLa Beaute se cultive(ラ・ボーテ・ス・キュルチーヴ 註/太字のeは上にアクサンテギュ記号)。「栽培する美」「育まれる美」「美は培われる」、ひいては「高まりゆく美」というふうにも訳せるでしょうか。

美とは撒いた種を収穫するものという概念を「シャネル」は創業以来育み続けてきました。

これが「シャネルのマニフェスト(宣言)」と題した文の冒頭です。

そのためには自然そのものが持つインテリジェンスとの対話が不可欠、とうわけで、世界に冠たる歴史を誇る植物学の殿堂とコラボレートする形で展覧会が企画されました。

展覧会の様子は、こちらの動画をご覧ください。

新型コロナ禍への対応として、パリの美術館、博物館はいずれもインターネットを通じて日時をフィックスしたチケットを入手するという方法が取られていて、この展覧会もまたそうでした。けれども、5日間だけの開催、しかも無料の展覧会ということもあって、ネット予約はすでにクローズ。直接現地に出向いてチャンスを狙うという方法しかないのですが、初日の午前中はチケットがなくてもおよそ1時間待ちで入場が可能でした。

ところで、ハイブランドによる自然志向、原点回帰を全面に押し出したこの展覧会が企画されたのは、新型コロナ禍で人々のよりエコロジカルな関心の高まりに沿うため、と、わたしは想像しましたが、答えは違っていました。

展覧会はもともと3月に予定されていたもので、ロックダウンなどに伴い半年遅れでの開催になったのでした。つまり、パンデミックがこれほど人々の暮らしや認識を変えてしまう以前に企画されていたものです。さらにいえば、古くから人間が見出していた植物の利、恵みにあらためて着目し、「オープンスカイラボラトリー」のような実践的な取り組みはもう10年以上前から進んでいたわけで、このご時勢だから急に企画したイベントなのでは、という見方はまったく違っていたわけです。

持続可能なリュクスとは

ハイブランドの先見性。

それを実感する体験をわたしは今年2月にもしていました。ワインとスピリッツの世界最大級の見本市として知られるパリのVinexpo(ヴィンネクスポ)でのこと。こういった会場ではたいてい、出展者は新作のプレゼンテーションや宣伝、商談を目的にしていますが、「モエ・ヘネシー」のブースはまったく違っていました。

3日間の会期を通じて、環境問題、生物多様性、水資源、持続可能な発展について語り合うフォーラムを繰り広げたのです。語り合うのは、ブランドのプレジデントをはじめグループの各ワイナリーの栽培責任者や醸造責任者と世界各地の学者たち。さらには料理人、スタートアップ、学生たちも交えて膝を突き合わせて自由に意見を交換する場面もありました。

2020年2月パリVinexpoでの「モエ・ヘネシー」のブースの様子
2020年2月パリVinexpoでの「モエ・ヘネシー」のブースの様子

メインテーマは「Living Soil(生きた土壌)」。上質のシャンパーニュやワインを作って売ることがブランドの仕事なのはもちろんですが、ブランドがよってたつ土壌、ひいては環境問題への取り組みなくして未来はないということを20年前から意識し、必要と思われる方策を考え実践してきたうえで、そのノウハウを分かち合い、学際的な知見も積極的に取り入れて次なる時代に臨もうとしていることがはっきりと伝わってきました。

それと同様のメッセージが、今回の「シャネル」の展覧会にも通底しているように感じます。

ハイブランドが将来もハイブランドであり続けるために必要なことは何か。持続可能な真の豊かさへの取り組みが、いま目に見える形で進行中のパリです。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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