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【パリ】パラス級ホテルがいよいよ再開へ

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
「オテル・プラザアテネ」のファサード(写真はすべて筆者撮影)

3月半ば以来ずっと休業したままだったパリのパラス級ホテルが、いよいよ再開される。

じつに5ヶ月半ぶりのことだ。

ところで、「パラス」とは何か。

フランスのホテル格付けは、フランス観光開発機構(ATOUT FRANCE)によって定められいて、1つ星から5つ星まである。「Palace(パラス)」は、5つ星の中でもさらに特別な価値をもついわば超高級ホテルのことで、厳しい審査を経てこの称号が与えられる。

フランス(海外県も含む)には現在合計31のパラスがあるが、そのうち12がパリに集中している。

3月半ばからのロックダウンを受けて、パリのカフェやレストラン同様、これら12のパラスも軒並み扉を閉ざした。そして、5月、6月、7月と外出制限、国境封鎖が徐々に解除になるにつれて、商店やレストラン、そしてホテルも再開されてきたのだが、パラス再開のニュースはほとんど聞こえてこなかった。

「La cerise sur le gateau(ケーキの上のさくらんぼ)」という形容がフランス語にはある。日本なら「画竜点睛」とでも言えるだろうか。花の都パリでパラスが沈黙しているというのは、まさにこのさくらんぼがない、どこやらうすら寂しい眺めだったのである。

「オテル・プラザアテネ」(2017年6月)
「オテル・プラザアテネ」(2017年6月)
「オテル・ドゥ・クリヨン」の「サロン・マリー=アントワネット」
「オテル・ドゥ・クリヨン」の「サロン・マリー=アントワネット」
「ル・ムーリス」の「ベルエトワール・ペントハウス・スイート」のバスルーム
「ル・ムーリス」の「ベルエトワール・ペントハウス・スイート」のバスルーム

さて、パリの12のパラスホテルの再開予定は次のようになっている。

(情報は8月23日時点での各ホームページの記載による。※は特に明言していないものの、サイトでの宿泊予約が可能な日、もしくは直接ホテルへの電話確認による)

Four Seasons Hotel George V9月1日から

Hotel de Crillon, A Rosewood Hotel8月24日から

Hotel Lutetia※9月24日宿泊分から可能

Hotel Plaza Athenee9月1日から(館内のAlain Ducasse au Plaza Atheneeは9月2日から)

La Reserve Paris-Hotel and Spa営業中(5月8日から再開している)

Le Bristol Paris9月1日から(館内のレストランEpicureも同様)

Le Meurice9月1日から(館内のレストラン Le Meurice Alain Ducasseは9月2日から)

Mandarin Oriental Paris※9月24日宿泊分から可能

Park Hyatt Paris Vendome9月1日から

Royal Monceau - Raffles Paris※宿泊再開の目処は流動的。再開は10月か?

Shangri-La Hotel Paris10月1日から

The Peninsula Paris宿泊再開日未定。ただし、レストラン、ロビーなどは営業中

ところで、フランス全体がこんな状態なのかというと、じつはまったくそうではない。

8月22日付の『ル・モンド』の記事が興味深い。

全国的に見ると、この夏でもホテルの客室の8割は開いていた。海岸沿いの地方ではその数字は98パーセントになるという。対してパリでは半分。つまりパリに限って、パラス級をはじめ多くのホテルが休業状態だった。

記事中の地図は、地域ごとの違いをさらに端的に表していて、海辺の町、ルアーヴル、サンナゼール、ラロッシェル、トゥーロンなどでは、1室あたりの売り上げが前年比を上回ったところもあるという。

『ル・モンド』8月22日の記事。地図の丸は客室の売り上げ前年比(7月1日から8月16日)。青は前年比プラス、赤みが濃くなるほどマイナスの数字が増加。パリは前年比マイナス62.5パーセント
『ル・モンド』8月22日の記事。地図の丸は客室の売り上げ前年比(7月1日から8月16日)。青は前年比プラス、赤みが濃くなるほどマイナスの数字が増加。パリは前年比マイナス62.5パーセント

要するに、フランス人は新型コロナ禍でもしっかりとヴァカンスをとり、外国ではなく国内の海辺、もしくは自然の豊かなところで過ごした。いっぽうで、アメリカ、アジアなど遠方からの顧客の比率が高いパリのホテルはこの夏、大苦戦を強いられたいうことなのだ。

9月1日から学校の新年度が始まるのにともなって、パリの人たちも長いヴァカンスからいよいよ戻ってくる。諸々の社会活動も再開されるわけだが、数々の見本市やイベントの中止、もしくは規模縮小がすでに発表されていて、観光客ばかりかビジネス客の再来も期待薄のパリ。いわゆるコロナ前の状態にならないことは誰もがわかっている。

そんな中でのパラスの再開である。多大なリスクを取りながらの挑戦になるだろう。だが、もしかしたらそこでの工夫から次の時代へのヒントが見えてきたりするかも…。そんなふうに考えるのはあまりにも楽天的すぎるだろうか。

ともかく、ケーキの上にふたたびさくらんぼが戻ってくる。

「オテル・プラザアテネ」客室からの眺め
「オテル・プラザアテネ」客室からの眺め
パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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