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新型コロナ“戦時下”のパリから ー外出制限 1週目のレポートー

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
3月22日(日曜)朝9時30分 パリ6区レンヌ通り(文中の写真も筆者撮影)

マクロン大統領が「これは戦争です」と連呼しながら、国民に一致団結を求めたのが3月16日のこと。新型コロナウイルスの感染拡大は日々深刻さを増していて、3月23日14時までに確認された感染者数は19856人、死者860人を数えている。

こんなことになるとは、ほんの少し前まではほとんどの国民がまったく予想だにしなかった。

『ル・フィガロ』紙 3月17日の一面 マクロン大統領のテレビ演説中の様子と「我々は戦争状態にある」の文字
『ル・フィガロ』紙 3月17日の一面 マクロン大統領のテレビ演説中の様子と「我々は戦争状態にある」の文字

そもそも、フランスで最初の感染者が公式に発表されたのは1月24日。武漢も経由した中国出張から帰った48歳の男性(中国系フランス人)がボルドーの病院に、もう一例はパリ18区の病院に運ばれた報告によるものだ。

その後も新たな感染例がぽつぽつと聞かれるものの、新型コロナウイルスのニュースとしてメディアが話題にするのは、中国の状況や「ダイヤモンドプリンセス」号のことが多く、一般の人にとっては対岸の火事といった意識が強かったように思う。

フランス公衆衛生局(Sante Publique France)の発表を元に、esri Franceが制作したグラフを見ると、最初の感染例発表から1ヶ月間(2月24日まで)は感染者数12まででほぼ横ばい、ところが、2月29日に100人になり、さらに1週間後には10倍。その後は爆発的な増加が続いている。

急展開を見せた2月末から、これまでの推移は次のような具合だ。

2月29日(土曜)5000人以上の集会禁止

パリで毎年恒例の一大イベント「農業見本市」(2月22日〜3月1日)が最終日を待たずに終了。昨年の観客動員数は9日間で約63万人。今年は8日間でおよそ43万人

【この日までにフランス全土で確認された感染者100/死者2】

※以下、その日までに確認された感染者と死者の数字を【感●/死●】で表す。

MS(健康省)、SP(公衆衛生局)、F2(フランス国営放送20時のニュース)等で発表された数字に基づいているが、発表の日時によって、多少の揺れがあるようだ。

3月1日(日曜)  ルーヴル美術館閉鎖。これは労働組合側からの要求によるもので、彼らの安全が保てないという理由。またクラスターが発生していたオートサヴォア県の人口5000人の村の村長さんが、自身も感染し、これから入院すると自ら発信したfacebook動画が全国版のニュースで流れる。

【感130/死2】MS

3月2日(月曜)【感178/死3】MS

3月3日(火曜)【感204/死4】MS

3月4日(水曜) ルーヴル美術館再開。

【感285/死4】SP

3月5日(木曜)この日の午後、私はシャルル・ド・ゴール国際空港の到着ロビーにいたが、日本からのツアー参加者のお出迎えに来ていた方々は、キャンセルの多さを口にされた。当初25人の申し込みが最終的には3人というツアーもあると聞いた。

【感423/死5】SP

再開されたルーヴル美術館内、3月7日の様子。普段よりもずいぶん人が少なく、展示室の場所を聞こうとしたところ、2メートルほど先から「これ以上近づくな」というジェスチャーをした係員もいた
再開されたルーヴル美術館内、3月7日の様子。普段よりもずいぶん人が少なく、展示室の場所を聞こうとしたところ、2メートルほど先から「これ以上近づくな」というジェスチャーをした係員もいた

3月6日(金曜)【感613/死9】SP

3月7日(土曜)【感949/死11】SP

3月8日(日曜)1000人以上の集会が禁止に。

イタリア北部で移動、行動の制限(この時点でイタリアで確認された感染者数5883人、死者233人)。

【感1126/死19】F2

3月9日(月曜)イタリアでの移動、行動の制限が全土に拡大される(10日から施行)。

【感1191/死21】MS

3月10日(火曜)【感2039/死44】SP

3月10日のヴェルサイユ宮殿。悪天候にもかかわらず、入場まで1時間待ちという相変わらずの人気ぶり。館内ではいつもと変わらずオーディオガイドのサービスもあった
3月10日のヴェルサイユ宮殿。悪天候にもかかわらず、入場まで1時間待ちという相変わらずの人気ぶり。館内ではいつもと変わらずオーディオガイドのサービスもあった

3月11日(水曜)WHOのテドロス事務局長がパンデミック宣言。サッカーUEFAチャンピオンズリーグ、パリ・サンジェルマンVSドルトムント戦(パリ/パーク・ドゥ・プランス競技場)が無観客試合に。

【感2280/死48】F2

3月12日(木曜)20時、マクロン大統領テレビ演説 翌週16日から全国の学校(保育園から大学まで)閉鎖決定。不要不急の外出自粛とテレワークが呼びかけられた。

【感2876/死61】MS

3月13日(金曜)100人以上の集会が禁止に。

【感3661/死79】F2

3月14日(土曜)  この夜の首相発表により、24時から、レストラン、カフェ、映画館などが閉鎖。食料品店、薬局、ガソリンスタンド、銀行、タバコ・新聞販売所など生活に必須のものを除き、すべての商店も対象になった。

【感4499/死91】F2

 

3月15日(日曜)  全国一斉地方自治体首長選挙第1回投票 投票率50パーセントを下回る記録的な低さになった。

久々の好天に恵まれたこの日、外出自粛要請にもかかわらず、パリは大変な人出になり、これを政府は多いに憂慮し、翌日さらに厳しい措置が発表されることに。

スペイン全土行動制限施行(スペインで確認された感染者7753/死者288)   

【感6378/死161】SP

3月16日の『ル・フィガロ』紙。「まだのんきなフランス人達」の見出しとパリのセーヌ河岸を歩く大勢の人々の写真
3月16日の『ル・フィガロ』紙。「まだのんきなフランス人達」の見出しとパリのセーヌ河岸を歩く大勢の人々の写真
一夜明けたパリ。ブティックもカフェもすべて閉鎖。サンジェルマン界隈もこの通り
一夜明けたパリ。ブティックもカフェもすべて閉鎖。サンジェルマン界隈もこの通り
花の色が鮮やかな分、物悲しい
花の色が鮮やかな分、物悲しい
スーパーマーケットの前には、行動制限施行前に買い出しをしようという人の列
スーパーマーケットの前には、行動制限施行前に買い出しをしようという人の列
紙製品の棚、そしてパスタや小麦粉の棚がすっかり空っぽになっていた
紙製品の棚、そしてパスタや小麦粉の棚がすっかり空っぽになっていた

3月16日(月曜)  20時、マクロン大統領テレビ演説 翌日正午から全国で外出制限令。首長選挙第2回投票延期決定。

【感6633/死?】※筆者、信憑性のある数字の把握ができず。

3月17日(火曜) 正午から外出制限施行 

●テレワークが不可能な場合の職場への移動 ●食料、生活必需品、薬などの近所での買い出し ●医療関係業務のための移動 ●子供や介護が必要な人の支援のための移動

これ以外の外出は禁止。また上記の場合でも申請書の所持が必須で、違反者には罰金(135ユーロ=およそ1万6000円)が科される。

テニスの全仏オープン「ローランギャロス」の延期決定(5月〜6月開催が9月〜10月に)。

【感7730/死175】

外出制限開始日の朝、郵便局の前の行列
外出制限開始日の朝、郵便局の前の行列
パン屋さん。「明日からも開いていますか?」と尋ねれば、「もちろん! ちゃんと食べなきゃね」との返事。レジの前には透明のアクリル板が設けられ、お客さんとの直接のコンタクトを避ける工夫がされていた
パン屋さん。「明日からも開いていますか?」と尋ねれば、「もちろん! ちゃんと食べなきゃね」との返事。レジの前には透明のアクリル板が設けられ、お客さんとの直接のコンタクトを避ける工夫がされていた
普段通りの品揃えに癒される
普段通りの品揃えに癒される

3月18日(水曜)  罰金を科された行動制限違反者4095人。この日1日で89人が死亡。重篤患者961人のうち半数は60歳以下の報道。グラン・テスト地方、ミュールーズ市内の病院が飽和状態のため、患者を軍用機で南仏トゥーロン、マルセイユへ移送。

【感9134/死264】F2

3月19日(木曜)  グラン・テスト地方、コルマールなどの病院も飽和状態。外出制限を徹底するため、大西洋(ブルターニュ地方など)、地中海(マルセイユなど)の海岸線が立ち入り禁止に。医療現場でのマスク不足が深刻さを増す。

【感10995/死372】F2

3月20日(金曜)  パリのセーヌ川沿いやエッフェル塔の下のシャンドマルス公園なども立ち入り禁止に。ミュールーズ市で軍による野営病院の設営開始。

【感12612/死450】F2

3月21日(土曜)  グラン・テスト地方からボルドーへ軍用機で、コルシカ島からマルセイユ等へ軍艦で患者を移送する模様が報道される。イルドフランス地方(首都圏)でのピークに備えて、リタイヤした医療関係者、学生らの応援を募集。

【感14459/死562】F2

3月22日(日曜)フランスでの症例初期(オワーズ地方)の治療にあたったのち、自らも感染し入院中だった医師が死亡。世界で10億人が外出制限下に。

【感16689/死674】SP

この日の朝9時すぎ、ラスパイユ通りの“ビオマルシェ”には、いつもの半分、いやもっと少ない数のスタンドしか出ていなかった。

オーガニックの食材を揃えたこのマルシェは、日本の旅行者の方々にも人気の朝市。普段なら人をかき分けて進むくらいの混みようだが、外出禁止令が施行されて6日目のこの日、あまり人と接触しないように早い時間を狙って行ったということもあるが、人の姿は寂しいくらいに少なかった。

外出制限令が出された時、まずは2週間ということだったが、延長されるのはまず間違いなく、制限はもっと厳しいものになるのではないかというのが巷の空気。来週にはこのマルシェも開催されるかどうか、かなり微妙だろう。

すっかり人の気配のなくなったレンヌ通り。それでも最低限の交通手段として市バスは健在。とはいえ、この朝見かけたバスに乗客の姿はなかった
すっかり人の気配のなくなったレンヌ通り。それでも最低限の交通手段として市バスは健在。とはいえ、この朝見かけたバスに乗客の姿はなかった
マルシェでは、感染阻止に欠かせない“社会的距離”、人と人の間隔最低1メートルという目安のためだろう、地面に線が引かれていた
マルシェでは、感染阻止に欠かせない“社会的距離”、人と人の間隔最低1メートルという目安のためだろう、地面に線が引かれていた
買い出しの波が去った後、スーパーには棚に載せきれないトイレットペーパーが山積みになっていた
買い出しの波が去った後、スーパーには棚に載せきれないトイレットペーパーが山積みになっていた

テレビでは、各地で奮闘する医療従事者たちの疲労やマスク、設備の不足などが報じられ、極力入院患者を増やさないために自己隔離の徹底が呼びかけられている。

一個人がすべきことは、できるだけ外に出ないこと。人との接触を避けること。これは自分自身のためだけでなく、他者を守ることにもなると専門家たちは繰り返す。

予想もしなかったこの非常事態に、人々は辛抱強く耐えている。

パリの中心にいても、鳥のさえずりで目覚めるほど静まり返った日々だが、毎日20時になると街に拍手がこだまする。これは“戦争”の最前線にいる医療従事者への感謝の気持ちを込めた拍手。全国に広まったこの習慣に賛同する人は自発的に窓を開け、あるいはベランダに出て1分くらい拍手を送るのだが、これが私には一人一人の存在確認のようにも思える。今日もまた引きこもりの一日に耐えた自分を、そして同志を讃えるかのような拍手。顔もよく知らない隣人たち、そして社会というものとの連帯を感じる毎日の句読点のようになっている。

20時の拍手中のお向かいの窓
20時の拍手中のお向かいの窓
パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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