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ほっこりオランダのクリスマス旅 Valkenbourg【ファルケンブルク洞窟のクリスマスマーケット】

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
昔の石切場が舞台のクリスマスマーケット(写真はすべて筆者撮影)

オランダ各地のクリスマス。ゴーダドルトレヒトの次は、ファルケンブルクのクリスマスマーケットをご紹介します。

ファルケンブルク(Valkenbourg)。

あまり馴染みのない地名ですよね。今回のプレスツアーに参加するまで、私もまったく不案内でした。

先の2つの町が、首都アムステルダムやロッテルダムからもそう遠くない北海沿岸エリアだったのに対して、こちらはぐっと南の内陸部。地図で見ると、スポイトの先の水滴、はたまたペンダントヘッドのように、そこだけ本体から突出して、ドイツとベルギーに囲まれた地域の真ん中に位置しています。

国土の多くが海面よりも低いオランダですが、この辺りまで来るとなだらかな丘が広がり、ワイン用の葡萄畑まで見られたのは思わぬ発見。ワインづくりができるということは、北ヨーロッパとしては温暖な気候の証拠でしょう。

今回の旅では、オランダの鉄道を自由に乗り降りできるユーレイルパスを活用
今回の旅では、オランダの鉄道を自由に乗り降りできるユーレイルパスを活用
車内販売は体力仕事。コーヒーを頼むと小脇のノズルからカップへお湯が。背中の大きなリュックサックにお湯が入っていたのでした。肩から下げた箱の品物には、USBケーブルもありました
車内販売は体力仕事。コーヒーを頼むと小脇のノズルからカップへお湯が。背中の大きなリュックサックにお湯が入っていたのでした。肩から下げた箱の品物には、USBケーブルもありました
自転車が市民の足であるオランダ。列車のデッキで手慣れた早さで折りたたみ式の自転車を組み立てているところに遭遇
自転車が市民の足であるオランダ。列車のデッキで手慣れた早さで折りたたみ式の自転車を組み立てているところに遭遇

さて、町に降り立つと、目指すマーケットまでの道すがらの商店街もすっかりクリスマスムード。カフェやサロンドテもなかなかの賑わいです。聞けばこの町は昔からかなり知られた観光地。6万人の人口の町にホテルが125軒もあるそうで、地元オランダだけでなく、すぐ近くで国境を接するドイツ、ベルギーからも年間を通じてツーリストがやって来るのだそうです。

オランダの建築というと煉瓦造りのイメージがありますが、この町では「マール」と呼ばれるはちみつ色した石造りが目立ちます。教会も駅もしかり。メインストリートを歩いていると、正面の丘の上に古城の遺跡が現れるのですが、それもこの色をしています。

じつは目指すクリスマスマーケットは、この石の採石場だった地下道が舞台になっているのです。

昔の城門の役割をしていた塔。地元の石「マール」で建てられています
昔の城門の役割をしていた塔。地元の石「マール」で建てられています
賑わう通りから間近に見える城山には、中世の遺構が
賑わう通りから間近に見える城山には、中世の遺構が
クリスマスマーケットの入り口
クリスマスマーケットの入り口

地下道の全長はなんと250キロ。東京から福島くらいの距離を連想して耳を疑ってしまいましたが、一帯に張り巡らされた地下道の総延長がこの距離で、クリスマスマーケットはその一部を利用したもの。地下のクリスマスマーケットとしてはヨーロッパで最も古く、広く、来場者が多いそうで、今年は11月16日から12月23日までの開催で、65ほどのスタンドがたちました。

ローマ時代からの由緒がある石切場を有効活用している場所というと、世界遺産にも登録されたシャンパーニュの熟成カーブが思い浮かびますが、戸外の気温に関わらず地下は年間を通じて温度が一定というのが共通点。こちらの場合は12度と、冬ならむしろ快適な環境で凍えずにクリスマスイベントを楽しむことができるというわけです。

中へ入ると思いのほか、広い空間が開けていました
中へ入ると思いのほか、広い空間が開けていました
石を切り出した道具の跡や、昔の人が石に刻んだ絵や文字がところどころに見えます
石を切り出した道具の跡や、昔の人が石に刻んだ絵や文字がところどころに見えます
こんな立派な彫刻も
こんな立派な彫刻も
思い思いに趣向を凝らしたスタンドが続きます
思い思いに趣向を凝らしたスタンドが続きます
球根専門のスタンドがあるあたり、さすがはチューリップで有名なオランダならではです
球根専門のスタンドがあるあたり、さすがはチューリップで有名なオランダならではです
“洞窟カフェ”もなかなかの賑わい
“洞窟カフェ”もなかなかの賑わい

ちなみにこの長い地下道には、昔の石炭の採掘やローマ時代のカタコンベ(地下墓所)を再現した場所があるそうで、さらには自転車やマウンテンバイクのルートとしても利用されているのだとか。

遠いご先祖の営みが、彼らが思ってもみなかった形で再利用され、たくさんの笑顔に出会える場所になっていると思えば、2018年という年に生きていることもまんざら悪くない。そんな気持ちになってくるのでした。

思わず笑顔になるクリスマスオーナメント
思わず笑顔になるクリスマスオーナメント
パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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