東京からパリへの贈り物 FUROSHIKI PARIS

パリ市庁舎前に出現した巨大風呂敷包み(以下写真はすべて筆者撮影)

いまパリの市庁舎前に巨大な風呂敷包みが置かれている。

おなじみの唐草模様で色は日本の国旗の2色、包みの横幅は50メートルと、市庁舎を覆い隠すほどの大きさで鎮座ましましている。

実はこれ、「ジャポニズム2018」の特別イベントとして開催されている“FUROSHIKI PARIS”のパビリオンで、11月1日から6日まで無料で一般公開されている。

外見もなかなかのインパクトだが、風呂敷包みの一部に小さく入口が切ってあって、そこから中へ入るとちょっと不思議な空間が広がっている。500平米、高さ6メートルの“包み”は足元も頭上も見渡す限りの唐草模様。その果てしない渦の中に浮遊しているような感覚がとても愉快だ。次に目に入ってくるのは、真四角のスクリーンのようにピンと張られて並んだ風呂敷。日本人とフランス人10人ずつ、著名人やアーティストたちがこのイベントのためにデザインしたものだ。さらに進むと天井からいろいろな形の風呂敷包みがぶら下がっていて、大小さまざまな風呂敷包みの空間を回遊するような仕掛け。360度全方向から見られる包みは全部で100個あり、色柄も多彩だが、ほとんどアートと思えるほどに凝った包み方のものもあって見飽きない。そしてさらに奥には、タブレットの動画を見ながら実際に包み方を体験できるコーナーへと続いてゆく。

パビリオンの中
パビリオンの中
画像
タブレット画面を見ながら包み方に挑戦
タブレット画面を見ながら包み方に挑戦
こんなアイディアも
こんなアイディアも

アーティスティックディレクターとしてこの企画を実現させたのは、建築家の田根剛(たね つよし)さん。

「人生の中で想定外のことでした」

イベントに先立って行われた記者発表の際に、田根さんは開口一番そんなふうに語った。

そもそもこの企画は、東京都知事、小池百合子氏のアイディアから生まれたもので、“世界最初のエコバッグ”である風呂敷を現代の視点で見直し、広く世界に発信することを意図して2年前から準備が始まった。そこでパリを拠点に活躍している田根さんに白羽の矢が立ったわけだが、彼にしてみれば、風呂敷イベントを自分が手がけることになるとは思いもしなかったという。

「調べて行くうちにどんどん面白くなってきて、実際に風呂敷を自分でも使い始めました。旅のカバンの中身を整理したりするのにとても便利ですし、布のテクスチャーがいいです」

イベントのアーティスティックディレクター、建築家の田根剛さん
イベントのアーティスティックディレクター、建築家の田根剛さん

巨大な風呂敷パビリオンも愉快だが、田根さんは市庁舎という場所ならではのもう一つのアイディアも形にした。

建物の壁面には、偉人たちの石像がたくさん飾られているのだが、その一体一体に風呂敷包みを持たせている。

「それぞれパリの歴史に多大な功績を残した人たちですが、パリ市民にとってもその存在は忘れられがちです。こうして風呂敷包みの、いわば贈り物を持ってもらうことで、石像を、つまり偉人たちをあらためて見直す機会になれば」

と、田根さんは演出にメッセージを込めている。

市庁舎正面の彫像にも風呂敷包み
市庁舎正面の彫像にも風呂敷包み
歴史上の偉人たちにも風呂敷包み
歴史上の偉人たちにも風呂敷包み

記者発表では、今回オリジナル風呂敷のデザインをした節子・クロソフスカ・ド・ローラさんも登場し、日本と西洋の文化交流の象徴である更紗模様をデザインに生かしたことを語った。節子さんといえば20世紀絵画の巨匠、故バルチュス氏の夫人で、ヨーロッパの社交界にも精通した方だが、ご自身のおつきあいの中で風呂敷がとても重宝しているそうで、手土産のチョコレートを風呂敷に包んで渡すと、中身よりも風呂敷の方をとても喜ばれることがしばしば。日本からたくさん持ち帰ってきた風呂敷がすぐになくなってしまう、というエピソードも披露してくれた。

節子・クロソフスカ・ド・ローラさん。色柄を選び、名前入りで誂えたローケツ染の風呂敷をバッグのようにして
節子・クロソフスカ・ド・ローラさん。色柄を選び、名前入りで誂えたローケツ染の風呂敷をバッグのようにして
節子さんデザインの風呂敷
節子さんデザインの風呂敷

今回、風呂敷を提供した会社の一つ、山田繊維株式会社の代表取締役、山田芳生さんは会場でみずから包み方の手ほどきをされていたが、このイベントと並行して「ユニクロ」マレ店で展開している風呂敷がなかなか好評だと語る。

「ユニークな柄の風呂敷がよく売れているようです。最初は100枚納めましたが、追加注文がありました」

ではいったいフランスの人たちは風呂敷をどう使うのか? 

「昨今外国でもブームのBENTOを包むためという需要が一つあります」

という山田さんの答えに納得。たしかにこちらには他に代用になりそうなものがあまりないし、BENTOが好きな人なら、FUROSHIKIに興味がないはずはない。京都と東京にある山田さんの直営店「MUSUBI」の写真を見せてもらうと、風呂敷のどちらかというと古臭いイメージとは大きくかけ離れたもので、これなら若い人や外国人にウケそう。「ミナ・ペルフォネン」とコラボレーションしたり、新しいデザインを積極的に取り入れている。

そんな前向きな取り組みが功を奏してだろう。過去30年、特にバブルがはじけてからというもの下降の一途をたどっていた風呂敷市場がここに来て少しずつ上向きになり、海外のセレクトショップなどからもオーダーが入るようになってきたというのだから、なんとも明るいニュースだ。

風呂敷製造卸の山田繊維株式会社の代表取締役、山田芳生さん
風呂敷製造卸の山田繊維株式会社の代表取締役、山田芳生さん
山田さんによれば、外国人に受けるのは、こんなインパクトのある柄ゆき
山田さんによれば、外国人に受けるのは、こんなインパクトのある柄ゆき
アニエスb のデザイン
アニエスb のデザイン
草間彌生デザイン
草間彌生デザイン
ジャン=ポール・ゴルチェデザイン
ジャン=ポール・ゴルチェデザイン
ビートたけしデザイン
ビートたけしデザイン
細川護煕デザイン
細川護煕デザイン
安倍首相のデザインもある
安倍首相のデザインもある

ところで、このFUROSHIKIイベントの写真をフランス人の友人に見せると、「エルメスのカレ(スカーフ)みたいなものでしょう?」という反応が返ってきた。

「ううん、違う、違う。こっちはコットンで、あっちはシルク。使い方が違うし…」と、私。

値段だって何倍も違う。山田さんによれば、お弁当包みくらいのサイズなら日本で千円以下で買えるそうだが、エルメスの定番サイズのカレは日本円にしておよそ4~5万円也。素材、大きさ、デザインが違うとはいえ、その価格は雲泥の差だ。けれども、写真でぱっと見たくらいでは、確かに同じようなもの。同じ四角の布なのに、かたや自国で忘れ去られそうになっていた存在で、かたや世界中の人が行列をなして大枚をはたく。不思議といえば不思議で、ちょっと考え込んでしまう。

いや。そもそもこういう比較はナンセンスで、風呂敷にはカレとは別の、カレよりももっと未知数の将来性があるのだと思うことにしよう。シンプルといえばこの上なくシンプル。そこにどのような絵を描くこともでき、どんな形にも変化しつつ、いつでも元の一枚の布に戻れる風呂敷。パビリオンになってたくさんの人を丸ごと包んだり、巨大なオブジェにだってなれるのだから…。

協賛のLVMHによる巨大風呂敷包みが、ブーローニュの森にあるフランク・ゲーリー設計のLA FONDATION LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン財団)の前に
協賛のLVMHによる巨大風呂敷包みが、ブーローニュの森にあるフランク・ゲーリー設計のLA FONDATION LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン財団)の前に