STATION F 世界最大ベンチャー基地の住人たち(4)

貨物駅を改装した世界最大のベンチャー基地STATION F(以下写真は筆者撮影)

パリSTATION Fのスタートアップを紹介するシリーズ4回目は、Uptale(アップテイル)。

これまではモバイルアプリのスタートアップだったが、こちらはヴァーチャルリアリティのソフトを開発している。

ヴァーチャルリアリティなどと聞くと、そちら方面にとんと疎い私などは、頭の中に霞がかかったようになる。

創業者はおそらく若い男性で、共通言語で話すことが可能なのだろうかと正直ちょっと心配していた。

だが、目の前に現れたのは、意外にもギャップを感じさせない、ほとんど同世代に見える聡明そうな女性だった。

彼女の名前はAurelie Truchet(オレリー・トゥルシェ)さん。Uptaleの4人の共同創業者のひとりだ。

手にしていたちょっとごついゴーグルを「ご覧になりますか」と差し出し、私の頭に装着してくれた。

Uptale創業者のひとり、オレリー・トゥルシェさん
Uptale創業者のひとり、オレリー・トゥルシェさん
ゴーグルをつけて仮想空間を体感
ゴーグルをつけて仮想空間を体感

「これはデモンストレーション用のイメージです」

ゴーグルの内部に映し出されたのは、見知らぬ惑星に降り立ったシーン。頭を上下左右に動かすと、映像が展開して360度の視野が開けるようになっている。ヴァーチャルリアリティ。なるほど、仮想の世界を現実のものとして体験するというのはこういうことかと腑に落ちる。

オレリーさんら4人がUptaleを立ち上げたのは、2年半ほど前。当時彼女は大企業で活躍するキャリアウーマンだった。

フランス有数の保険金融グループAXA(アクサ)、日本でもおなじみのDanon(ダノン)などが彼女の仕事場で、社員教育のチームに所属していた。その時常々感じていたのは、メソッドが退屈であまり魅力的でないこと。本やビデオが中心の従来の方法を改良し、新しい方法を探った。チームにはマイクロソフトから来た人もいて、彼らは新しいテクノロジー、とりわけヴァーチャルリアリティを得意としていた。そのノウハウを社員教育で生かすことになるわけだが、これが元になって自分たちの会社を設立することに発展した。

勤めている会社と自分たちの新しい会社。最初はみんな二足のわらじを履いている状態だったが、1年前にそれぞれ辞職し、新会社に集中することに。ちょうどその時期にSTATION Fに入居することになった。

1年前の時点でも彼らの会社の製品にはかなり需要があった。大企業相手に社員教育を提供しているコンサルティング会社、そして彼女の古巣であるダノン、さらに自動車、航空機産業の会社が続々と顧客になった。

「彼らにとって、私たちのソフトが本当に有効です。例えば、自動車製造の部門に新人が入ってくると、その教育のために生産ラインをいったん止めて説明していました。その間のロスは額にすると相当な数字になります。今はラインを止める代わりに、私たちのシステムで仕事環境を再構築して、安全に、間違えたとしてもリスクなく職業訓練をすることができる。それが結果として経済的なロスをなくすことにもつながるのです」

「この“道具”はいわばパワーポイントのようなもの」とオレリーさんは商品を端的に説明する。ヴァーチャルリアリティのイメージを作るには、エージェンシーなど専門のところに制作依頼することをまず考える。だが、彼女たちが開発したソフトを利用することで、それぞれの会社に技術的なノウハウがなくても、ヴァーチャルリアリティのイメージが作れるというものだ。

創業者4人でSTATION Fに入ってから1年の間に、スタッフの数は10人になり、顧客は50を数え、その数はどんどん増えている。これまで紹介したスタートアップの方々も口を揃えて言っていたことだが、STATION Fの入居者であることによって、様々な便宜を受けられるだけでなく、仕事のクオリティの指標にもなって、クライアントへのウケも良い。今のところ顧客のほとんどはフランスの企業や学校などだが、ハーバード大学とも仕事を進めたり、外国での認知度も上がっているという。

順調な発展途上にある彼女らのプロジェクト。今後の課題は“道具”をどんどん進化させてゆくことと経済的な安定。“道具”に人工知能、さらに感情まで盛り込む新しいサービスを志向しているそうだ。

ちなみに、STATION Fのサイト上で施設を体感できるシステムもUptaleによるもの。ぜひお試しあれ。