パリの“DAIMYO”展

DAIMYO展のポスター(以下、写真はすべて筆者撮影)

2月16日からパリで始まった「DAIMYO」展が面白い。

DAIMYOと聞いて、日本人なら当然すぐに「大名」を思い浮かべる。

一方、大半のフランス人にとっては全くなんのことやらピンとこない。

だが、鎧兜が大写しになったポスターにデンと据えられたDAIMYOの文字は、視覚効果だけですでに何かズシンとくるものがあり、どんなものかわからなくても、まずは興味をそそられるはずだ。

場所は国立東洋美術館(通称ギメ美術館)。

最上階に登り詰めると、威風堂々たる甲冑が11体鎮座している。

国立東洋美術館(ギメ美術館)
国立東洋美術館(ギメ美術館)
美術館最上階に展示された日本の甲冑。中央は毛利家伝来とされるもの。個人蔵
美術館最上階に展示された日本の甲冑。中央は毛利家伝来とされるもの。個人蔵

塔のてっぺんのドーム屋根の内側という特別のシチュエーション。しかも、ガラスケースなど遮るものが何もない状態で相対する甲冑は、まるで城の天守閣に居並ぶ武将に取り囲まれているようでもあり、なかなかの迫力だ。

続く別館では、鎧兜をはじめ、陣羽織、刀などが展示されている。

こちらはガラスケースの中に収められた状態だが、縅(おどし)の糸のつや、兜の細工に使われた毛の一本一本までが手にとるようだ。

松江・松平家伝来の甲冑。鮫皮の縅など贅沢な細工が満載。ギメ美術館所蔵
松江・松平家伝来の甲冑。鮫皮の縅など贅沢な細工が満載。ギメ美術館所蔵

ところで、私たちにとって「大名」は、必ずしも戦乱の時代の象徴というよりは、大名行列に代表される戦乱のない江戸期のイメージが強いように思う。

その意味では、甲冑がメインの展覧会のタイトルが「大名」というのはどうなのだろう、という疑問がないこともない。

ただ、見方を変えれば、説明せんがための展覧会タイトルを持ってくるのでなしに、ここはバッサリと、フランス人にとってはほぼ初耳の「DAIMYO」の一語を掲げたところが潔い。しかも、副題を「日本の戦争の領主たち」とし、戦で勝ち抜いた君主たちの芸術的な戦闘衣を見せるというテーマを補足し、「大名」の定義も文字で説明されている。

さて、会場で驚くのは展示品の保存状態の良さ。一番新しくても江戸時代のものだが、色彩は少しも色あせていないという印象を受ける。金工や漆の細工にしても傷一つない見事さだ。

陣羽織、刀の展示コーナー
陣羽織、刀の展示コーナー
蟹のハサミをかたどった兜も
蟹のハサミをかたどった兜も
前出の甲冑の上部には、孔雀の羽がびっしり。
前出の甲冑の上部には、孔雀の羽がびっしり。

意表をつくような大胆な意匠、さまざまな工芸の粋を凝縮した展示品を眺めながら、私はてっきりこれらが日本の博物館から貸し出されたものだとばかり思っていた。

出自を知りたくて、今回の展覧会を企画したジャン=クリストフ・シャルボニエ氏に「日本のどこのものですか?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「全部フランスです。ギメ美術館の収蔵品もありますし、ニースの博物館から来たものもありますが、多くは個人のコレクターの所蔵品です」

なんと。本国日本から一体も借りなくても、これほどの鎧兜の展示ができるとは驚いた。

しかもフランスの熱心な蒐集家たちの系譜は、日本が開国して間もなくのヨーロッパのジャポニズム、つまり19世紀終わりから始まり、今もなお続いているのだという。

展覧会「DAIMYO」が興味深い理由はそれだけではない。

ギメ美術館のはす向かいにある「パレ・ド・トーキョー」とコラボレーションしていて、全部で33体ある甲冑のうち8体はそちらで、現代アーティストによるインスタレーションとして観ることができる。

東洋の古美術を集めたギメ美術館と、現代アート、しかもインスタレーションを中心とした展示の場であるパレ・ド・トーキョー。この二つは、同じくアートの殿堂といえども、異質の存在と言っていいだろう。それが今回初めての試みとして、「DAIMYO」のテーマのもとにコラボレーションする。ギメ美術館のチケットでパレ・ド・トーキョーにも同日中なら入館できるようになっていて、これまで進んで足を踏み入れることのなかったアートの舞台も体感できるというものだ。

パレ・ド・トーキョーでの「DAIMYO」は、コンクリートの地下空間にあった。

インスタレーションを手がけたのはジョージ=ヘンリー・ロングリー氏。1978年生まれの英国人アーティストだ。

日本の甲冑を彼は新しい捉え方で見せる。具体的には、現代の音楽、光、映像が満ちる500平方メートルあまりの空間に、ポツンポツンと甲冑を据えている。

現代アートの美術館「パレ・ド・トーキョー」
現代アートの美術館「パレ・ド・トーキョー」
現代アーティストによる「DAIMYO」のインスタレーション
現代アーティストによる「DAIMYO」のインスタレーション

映像が表すのは、人間が到達できない深海に潜るロボット。壁には「Industrial Debts(産業債務)」というタイトルの、感覚を剥奪された頭部を連想させる彼の作品が大写しになり、床には鎖のモチーフが浮かび上がる。そんな中、透明な台座の上に置かれた甲冑は、時代を超越して空間を浮遊する武将の抜け殻のように見えてくる。

ギメ美術館館長、ソフィー・マカリウさんもこの場所にいて満足げだ。

「とてもいいわ。見る人がこの空間を彷徨う感じの設定が面白いし、甲冑がとてもモダンなものに映る」

確かに。

時代をクロスオーバーする武将の物語でも生まれてきそうな、これまで体験したことのない、不思議に魅力的な気配に包まれる。

それにしても、これほど異質なものを大胆に合体させてしまうことに、日本人である私は少なからず驚く。

既成概念から自由になること、未体験を形にすること。

「国立」レベルでそれをやってのけてしまうのが、アートの都、パリの所以なのだろう。

会期は2018年5月13日まで。

右から日本の甲冑の専門家ジャン=クリストフ・シャルボニエ氏、ギメ美術館長ソフィー・マカリウさん、アーティスト、ジョージ=ヘンリー・ロングリー氏
右から日本の甲冑の専門家ジャン=クリストフ・シャルボニエ氏、ギメ美術館長ソフィー・マカリウさん、アーティスト、ジョージ=ヘンリー・ロングリー氏
映像をポツンと座って観ているような甲冑
映像をポツンと座って観ているような甲冑
兜の造形や縅の色使いがごくモダンなものに見えてくる
兜の造形や縅の色使いがごくモダンなものに見えてくる