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M-1決勝でランジャタイが波乱を起こすか 東西しゃべくり対決にも注目

鈴木旭ライター/お笑い研究家
(写真:アフロ)

今年の決勝メンバーは、前大会のM-1グランプリ王者・マヂカルラブリーの影響を感じざるを得ない。

年明けに開催された無観客イベント『マヂカルラブリーno寄席』のライブ配信チケットが14000枚超えの売り上げを見せ、「地下ライブ」「地下芸人」といった言葉が広く知られることになった。永野やモダンタイムスといった“地下の匂いがする芸風”が一気に世間に浸透し、ついには年末のM-1まで尾を引いている。

そもそも地下ライブは、知名度の低い芸人たちが主催する小規模なお笑いライブのことを指す。ただ、その文脈の中で“固定観念に捉われないスタイル”も同時に生み出されていった。マヂカルラブリーの「漫才か、漫才じゃないか論争」は、ここに端を発していると言っていい。

ランジャタイ、モグライダー、真空ジェシカ、つい最近まで錦鯉も地下ライブに出演していた。構成力や掛け合いの妙で勝負するのではなく、自分たちの“アクの強さ”を剥き出しにして笑わせる。12月19日、そんな地下のカリスマたちがいよいよM-1決勝の舞台に姿を現す。

ランジャタイが波乱を起こすか

“地下っぽさ”の象徴とも言えるコンビがランジャタイだ。そのネタは、“支離滅裂”という言葉がしっくり来る。

国崎和也が「200キロまでならバーベルを上げられる」「最高の漫画ができた」などと突拍子もないことを言い出し、その“あり得ない過程”を身振り手振りで演じていく。伊藤幸司は戸惑いつつも随所で情報を補足し、辻褄の合わない言動にツッコミを入れて笑わせる。テーマは入口であり、国崎が逸脱したまま投げっぱなしで終わるのが彼らのスタイルだ。

ちなみに国崎は、「『M-1』の決勝行って、信じられないぐらいスベること」を今年の目標としているらしい。(2021年10月30日に「クイック・ジャパン ウェブ」で公開された「ランジャタイ、トイレの水を飲む生活から、自販機のボタンを押せるようになるまで。お笑いスターへの憧れと目標」より)

今大会で審査員・上沼恵美子の“怒られ枠”とも言われているが、実際の決勝ではどんな評価を受けるのか。2018年のM-1でトム・ブラウンを絶賛した立川志らくのコメントも楽しみだ。

満を持して決勝進出のモグライダー

今年、初めて決勝に駒を進めたモグライダーも地下の匂いを放っている。ともしげの「言い間違い」や「言葉が出て来ない」といったハプニング性に対し、芝大輔が小気味よいツッコミを浴びせていく。練習量によって完成度を高める、という種類のものとは真逆のスタンスだ。

私は漫才ライブのDVD「穴掘り天国」(2017年の単独ライブを収録)を見て、その潔さに思わずうなった。内容は観客からリクエストされたネタをひたすら披露するのみ。しかし、これがまったくダレないのだ。ネタ合わせなしのストロングスタイルだからこそ、いい意味での緊張感が出ていたのだろう。

アルコ&ピース・酒井健太は、YouTubeチャンネル「アルピーチャンネル_アルコ&ピース公式」内の動画『【緊急】M-1決勝直前!ガチ優勝予想!【アルピー敗者復活から優勝へ!】』の中で「仕上がってる。芝さんがいいね!」とモグライダーの優勝に期待を寄せている。19日は、地下のモグライダーがついに日の目を浴びるかもしれない。

「学生お笑い」出身と最年長コンビ

今大会でもっとも鋭利なボケを繰り出すのが真空ジェシカだ。サブカル好きは川北茂澄のボケでニヤリとするだろうし、そうでない人もガクのツッコミによって笑いどころが理解できる。わかりやすいボケも織り交ぜつつ、巧みに自分たちの世界に引き込む手練れのコンビだ。

大学時代に『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』(テレビ朝日系)の企画『第1回漫才を愛する学生芸人No.1決定戦』で決勝進出、早稲田大学放送研究会が主催する『大学生M-1グランプリ』で準優勝するなど、早くから結果も残している。

飄々とした川北のボケに、ガクが戸惑ったトーンで的確なツッコミを入れていく雰囲気もいい。大会当日は、いかに早くコンビの空気感に引き込めるかがポイントになるだろう。

錦鯉も長らく地下ライブに出演していた。数年前、若手に交じってライブに出ている2人を見たが、今と変わらず楽しそうだった。昨年、念願のM-1決勝に進出して4位となり、その後はバラエティー番組で引っ張りだこになった。

感服するのは、2年連続で決勝に残ったことだ。忙しい合間を縫って数少ないライブに出演し、ネタを仕上げ、しっかりと結果を出した。M-1ファイナリストの最年長記録を更新し、今年は50歳の長谷川雅紀が晴れ舞台に臨む。今もっとも応援したいおじさんたちなのは間違いない。

東西しゃべくり対決「オズワルドvsもも」

地下色が目立つ中、いわゆる“しゃべくり漫才”で決勝に残ったのがオズワルドとももの2組だ。

今大会の大本命と目されるオズワルドは、3年連続の決勝進出。畠中悠の飄々としたボケ、伊藤俊介のワードセンス溢れるツッコミはよく知られたところだろう。ここ数年の躍進で、すっかり“東京漫才”の象徴的なコンビとなった。

昨年の大会で、ダウンタウン・松本人志から「静かな感じで見たかった」、オール巨人から「大きな声でツッコんだらどうですか?」とのアドバイスを受け、板挟みになった伊藤。とはいえ、ここ最近で見事にそのハイブリッドなツッコミを体現している。今年は3度目の正直となるか。注目したい。

一方で、初の決勝進出を果たし、大会をかき回しそうなのがももである。結成5年目の最年少コンビで、金髪にヒゲが「まもる。」、黒髪にメガネが「せめる。」という見た目とは逆の芸名も面白い。そのうえ、この“ズレ”こそがネタ全体の核心なのだからよく考えられている。

容姿イジりを交互に行う独自のフォーマットは、新しさを感じると同時にスッと入って来る分かりやすさもある。「何でやねん、お前……」を起点とするリズム、力強い関西弁もクセになる。終盤に向かってテンポアップする掛け合いがハマれば一気に爆発するかもしれない。

2019年に初出場で優勝を果たしたミルクボーイからは「ももは(自分たちと)一緒やから、決勝に行ったら一撃で(優勝まで)行かなアカン。2回はない」と伝えられたという。(2021年12月15日に「Smart FLASH」で公開された『M-1ファイナリスト「もも」最高得点王者ミルクボーイから「俺らと同じや」と声をかけられた2人が一撃必勝を狙う』より)

勢いのある西のももを、東のオズワルドが阻止できるか。このあたりも見物である。

地下組と常連組の攻防

そのほか、インディアンスとゆにばーすは3度目の決勝進出。漫才とコントの両刀使いであるロングコートダディも初の決勝進出を果たした。

インディアンスは田渕章裕の軽快なボケが年々精度を高めているし、ゆにばーすはここ最近でしゃべくりに磨きをかけ、はらと川瀬名人の掛け合いが面白くなっている。ロングコートダディは“脱力系”とも称されるゆるい雰囲気が特徴で、出順によっては爆発するかもしれない。

敗者復活枠も非常に熾烈な戦いになるだろう。ハライチ、見取り図、ニューヨークなどファイナリスト経験者が選ばれることも考えられるし、ヘンダーソン、マユリカ、キュウ、ヨネダ2000といった初出場組が勝ち上がる可能性もある。

いずれにしろ、今大会でもっとも注目すべきは、ランジャタイをはじめとする地下の面々が「M-1でどう評価されるか」だ。独自のスタイルを持つ地下組が会場を沸かすのか、それともオズワルドなど常連組がしっかりと最終決戦に残るのか。手に汗握る大会になるのは間違いないだろう。

ライター/お笑い研究家

2001年から東京を拠点にエモーショナル・ハードコア/ポストロックバンドのギターとして3年半活動。脱退後、制作会社で放送作家、個人で芸人コンビとの合同コント制作、トークライブのサポート、ネットラジオの構成・編集などの経験を経てライターに転向。現在、『withnews』『東洋経済オンライン』『文春オンライン』といったウェブ媒体、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『FRIDAY』(講談社)、『日刊ゲンダイ』(日刊現代)などの紙媒体で記事執筆中。著書に著名人6名のインタビュー、番組スタッフの声、独自の考察をまとめた『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。

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