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アイナ・ジ・エンドの圧倒的絶唱とBE:FIRSTの完成度【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
映画『SING/シング: ネクストステージ』公式サイト

2022年3月度の月刊レコード大賞の選定です。今回は映画『SING/シング: ネクストステージ』のサウンドトラックから選びました。

突然時間があいたので、事前に情報を仕入れず、シネコンに飛び込んだのですが、映画が始まってから「あーあ」と思いました――「これ、吹替版じゃないか!」。

私(55歳)に近い年齢の方々は字幕版を好むはずです。「吹替版は子供向け」という観念があるものですから。

それでも我慢して観ていると、オオカミのポーシャというわがまま娘の歌が最高なのでした。

そこで私ははたと気付くのです――「あ、この声ってBiSHのアイナ・ジ・エンドじゃないか!」

女性アイドルグループのボーカルは最近、ご存じのように大人数でのユニゾンが多いのですが、対してソロパートの多いBiSHの中で、際立って目立つアイナ・ジ・エンドの声質は独特な魅力があります(BiSHが「女性アイドルグループ」かどうかという話は一旦おくとして)。

声量が豊かで、とびっきりハスキーで、そしてどこか物憂げ――。

私が世代的に思い出したのはCHARAや葛城ユキとか。でも本質的には、あのジャニス・ジョプリンに近いものを持っていると思います。

今月の月刊レコード大賞は、『SING/シング: ネクストステージ』のサウンドトラックに入っていたアイナ・ジ・エンド『Could Have Been me』(作者クレジット:下記※)。映画のラストに近いところでポーシャが圧巻の絶唱(=感情をこめ、夢中になって歌うこと)を聴かせる曲です。

残念ながら、アイナ・ジ・エンド版の動画が見つからなかったので、英語版の映像から。吹替版ではこの曲を、アイナ・ジ・エンドが朗々と絶唱します。

ちなみに、サイト『映画ナタリー』でのアイナ・ジ・エンドのインタビューがなかなか良かったので紹介しておきます。彼女、子供の頃からミュージカルに興味があったのですが、お父さんにこう諌められます。

オーディションの書類も書いたんですけど、お父さんに「お前は顔で落とされるからやめとけ」って言われて落ち込んで(笑)。

でも今回、この吹替版で圧倒的な絶唱を披露した上で、彼女は過去をこう振り返ります。

中学校の頃の自分に「歌が好きだったら顔は関係ない!」って言ってあげたいです。

最高です。まさに「Could Have Been me」=「未来から振り返って、洋画の吹替版で絶唱するのは"私だったかもしれないのに"って、思うのはイヤだから」。

しっかりとしたギター演奏力と作曲能力を持った山本彩(元・NMB48、AKB48)、音楽的基礎教養が豊かな生田絵梨花(元・乃木坂46)と並んで、「令和日本のジャニス・ジョプリン」になれるかもなアイナ・ジ・エンドの今後に期待です。

もう1曲、こちらは、その完成度で取り上げたいと思います。BE:FIRST『Bye-Good-Bye』(作詞:sty・SKY-HI、作曲:Chaki Zulu・SKY-HI)。

どこをどう突っついても売れる予感しかしない音。完璧に作り上げられた非の打ちどころのない商品性、その割り切りは私にとって、とても爽快に感じました。

BTSをかなり積極的に意識した音作りだと思うのですが、BTSは今や、それこそ60年代におけるビートルズのような「世界のBTS」なのですから、かっこいいところ、冴えたところは、どんどん取り入れていいと思うのです。

それではまた来月。

※『Could Have Been me』作詞:いしわたり淳治、作曲:Adam Slack・Luke Spiller・Joshua Michael Wilkinson・Rick Parkhouse・George Tizzard

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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