妊娠中に解雇された日系人女性、3人の子抱え所持金なく:リーマンショックの教訓生かされるのか

(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの流行拡大を受けた景気減速により、外国人労働者の中に仕事を失う人が出てきている。支援組織には多数の相談が舞い込んでいる状態だ。もともと契約や派遣など非正規の雇用形態で働く人が少なくないなど、不安定雇用に置かれてきた外国人労働者。新型コロナウイルスの流行拡大を受けた政府の自粛要請や経済全体の落ち込みの中、よりぜい弱性の高い外国人労働者がさらに困難な事態に直面している。

◇相次ぐ相談

 外国人労働者の支援にあたる三重県のユニオンみえ(三重一般労働組合)の神部紅(じんぶ・あかい)さんが4月21日、筆者の電話取材に応じたところによると、ユニオンみえでは現在、新型コロナウイルスに関連する労働相談が急増している。とりわけ海外出身の派遣労働者から寄せられる相談が突出して多い。

 また解雇や雇い止めに伴い、会社の借り上げ住宅など住まいから追い出されるといった相談も増加している。

 神部さんはこう語る。

 「2008年のリーマンショックをこえる深刻な事態となることは明らかです。私たちは、仕事を失い住まいも奪われ命を脅かされる労働者らを守るため、早急に問題解決を図るよう企業らに求めています。ですが、新型コロナウイルスに便乗し問題解決を先延ばしにする対応も増えており、強い危機感を抱いています。移住労働者などぜい弱な環境に置かれている人の存在に加え、経済活動や社会のあり方の問題などが改めて浮き彫りになっています」

◇妊娠中の解雇、借り上げ住宅からの退去迫られる

 最近、解雇されたとユニオンみえに駆け込んできたのは、日系ブラジル人のエリさん(仮名)だ。もともとは派遣労働者として、愛知県の企業に雇用された上で、大手自動車メーカー向けに部品製造を行う工場に派遣されていた。

 一方、2月末になると、新型コロナウイルスの影響による「生産量、減少の為」という理由で「解雇予告通知」を受け取り、3月末付で解雇された。また、解雇通知を受けて以降、会社が借り上げていた住宅から退去するよう迫られたという。

 

 エリさんは現在、妊娠中で、1歳、8歳、12歳の子どもたちを育てている。しかし解雇され、収入が途切れている。すでに所持金はない状態だ。

 夫の就労先も減産となり、収入が激減している。

 神部さんは「本人は2月18日、自身の妊娠を会社に告げています。このことも解雇の優先的な対象になった理由だと考えられます」と話す。

  「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(男女雇用機会均等法)第9条第3項や、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)第10条などでは、妊娠・出産、育児休業などを理由として解雇などの不利益な取扱いを行うことを禁止している(厚生労働省資料)。ユニオンみえでは、後述する団体交渉申し入れの際、会社に対し、妊娠・出産に関連する不利益な取り扱いをやめるよう申し入れた。

◇「渡航費用」立て替え制度で来日

 神部さんによれば、エリさんは2019年、家族と来日した。この際、仲介者を通じて来日したが、「渡航費用」として、1人当たり航空券の代金30万円、布団代1万7000円、通訳費用1万円を立て替えてもらう形となったという。結果的に、夫婦2人で合わせて60万円を超える渡航費用を立て替えてもらった格好になった。

 神部さんは「エリさんは、日本での就労開始後、賃金からこの立て替えられた『渡航費用』が天引きされていたと話しています」と説明する。

 賃金からはまた、会社の借り上げ住宅の家賃として月6万5000円、社会保険料、税金、電気代が引かれた。手取りは月によって変動があったが、平均して10万円ほどにとどまった。

 神部さんは「日系人の雇用に際しては、『渡航費用』の立て替えが行われることが少なくありません。この際、賃金から立て替えられた『渡航費用』が天引きされるため、就労開始後すぐの手取りがゼロになる人もいます。手取りがゼロの中で生活費をどうするかというと、給与の前借りによってしのぐことになる人が多いのです」と説明する。

◇抗議行動を実施

 ユニオンみえはエリさんを解雇した会社に対し、1)解雇撤回、2)住居追い出しを行わないこと、3)100%の休業補償、4)出産に備えて法令通りの手続きを懈怠なく進めること、5)直ちに団体交渉に応諾すること――などを求めた。

 

 一方、会社は4月14日、1)解雇の撤回はしない、2)住居についてはユニオンみえが保証人となり、滞納があった場合は代わりに支払うこと、3)新型コロナウイルスを理由に事実上の団体交渉拒否――などの回答を出したという。

 

 こうした中、ユニオンみえは4月20日、会社に対し、抗議行動をするとともに、会社に団体交渉の申し入れを行った。

 神部さんは「非常時だからといって人権や働く者たちの権利がなくなるわけではありません。それどころか、困難に置かれている状況でこそ、権利はしっかりと行使され、弱い立場に置かれている者たちが擁護されなければなりません」と強調する。

◇リーマンショックで打撃を受けた日系人

 現在、多数の外国人・移住者を抱える日本だが、過去には自国民を海外に送り出してきた歴史を持つ。日本は移民送り出し国だったのである。中でもブラジルをはじめとする中南米諸国や北米、ハワイなど様々な国・地域に日本人が移り住んでいった。

 一方、90年代に入り、出入国管理及び難民認定法(入管法)改正に伴い、日本の企業はブラジル出身者を中心に多数の日系人を受け入れた。日系人は各地の工場などで就労し、日本の産業を支えてきた。

 しかし、リーマンショックにより多数の日系人が仕事を失った。

 

 そんな中、日本政府は日系人について「帰国支援事業」を通じた帰国を推奨した。この事業は離職した日系人を対象に、1人30万円、扶養家族については1人20万円を日本政府が支払う代わりに、帰国を求めるものだった(厚生労働省、2009年、「日系人離職者に対する帰国支援事業の概要」)。

 

 厚生労働省は当時の発表資料で、「現下の社会・経済情勢の下、派遣・請負等の不安定な雇用形態にある日系人労働者については、日本語能力の不足や我が国の雇用慣行に不案内であることに加え、我が国における職務経験も十分ではないことから、一旦離職した場合には再就職が極めて厳しい状況におかれることとなります」と説明している。

 他方、日系人はもともと契約や派遣といった非正規雇用の不安定な状況に置かれていた。また、日系人が各種産業を支えているにもかかわらず、日本政府は日本語教育や職業訓練の提供、生活支援など日系人が日本で生きていくために必要な施策を十分に行ってきたのだろうか。

 困窮する日系人を帰国させ、国境の外に物理的に出してしまうことは、海外にルーツを持つ人々の切り捨てと言われても否定できない。

◇「大恐慌以来の景気後退」=IMF、雇用の維持が課題

 新型コロナウイルスの流行拡大を受けた経済への打撃は相当規模に達するとみられる。国際通貨基金(IMF)は先に発表した「世界経済見通し(WEO)」で、全世界の2020年の経済成長率が前年からマイナス3.0%になるとの予測を明らかにした。IMFは新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受け、各国がロックダウン(都市封鎖)や国境封鎖をする中、2020年の世界経済は「世界金融危機のときを超える、大恐慌以来最悪の景気後退を経験する可能性はきわめて高い」と予想する。

 IMFは、日本の国内総生産(GDP)伸び率が2020年、マイナス5.2%になると予測。米国はマイナス5.9%、ユーロ圏はマイナス7.5%、英国はマイナス6.5%と落ち込み、先進国・地域全体ではマイナス6.1%になるとの見方だ。

 すでに日本の産業部門には様々な影響が出ており、以前から不安定雇用にある海外にルーツを持つ労働者の雇用が揺らいでいる。外国人留学生もまた、アルバイトを失ったり、内定取り消しのリスクに直面したりする。さらに、非正規雇用の日本人労働者やアルバイトで生活をしてきた学生も雇用情勢の悪化に直面している。だが、人々が安心して生活できる収入が確保できなければ、経済の多くを占める消費部門が低迷し、経済の回復が遅れる。雇用が揺らぐことは結果的に、経済へ打撃を長期的に与えるリスクがある。

 この世界的な危機にあたり、リーマンショック時と同じことを繰り返すことを防がなければならない。排除ではなく、雇用の維持を実現するための知恵を絞り、それを実行することが政府、企業に求められている。(了)