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帰国困難な外国籍者の在留資格の変更可能に=入管庁、「帰国できない。仕事もない」技能実習生から悲鳴も

巣内尚子研究者、ジャーナリスト

 出入国在留管理庁は4月3日、新型コロナウイルスの影響を受け、帰国困難となっている技能実習生ら外国籍者を対象とする在留期間の伸長措置を実施した。

 

◇技能実習生は「短期滞在(90日・就労不可)」か「特定活動(3カ月・就労可)」に在留資格の変更可

 出入国在留管理庁の職員は同日、筆者の電話取材に対し、新型コロナウイルスの影響で帰国が困難となっている技能実習生については、「短期滞在(90日・就労不可)」ないし「特定活動(3カ月・就労可)」への在留資格の変更が可能になると説明した。この措置を受け、これまでの30日から90日に、1カ月から3カ月にそれぞれ滞在期限をのばすことができるようになる。これらの情報は同庁のホームページに「新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて」として掲載されている。

 また、このうち「特定活動(3カ月・就労可)」に在留資格の変更ができれば、日本において3カ月間就労を継続できることになる。ただし、「特定活動(3カ月・就労可)」への変更が認められるのは、同一の受け入れ機関(企業)・業務での就労を希望する技能実習生に限られる。

 このほか、帰国できない事情が継続している場合、更新を受けることが可能となる。

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の 在留諸申請の取扱いについて(出典:出入国在留管理庁)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の 在留諸申請の取扱いについて(出典:出入国在留管理庁)

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の 在留諸申請の取扱いについて(出典:出入国在留管理庁)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の 在留諸申請の取扱いについて(出典:出入国在留管理庁)

 一方、出入国在留管理庁の職員は、「在留資格の変更を申請する際は原則、本人が申請することになっている」とする一方、「技能実習生の場合、実質的には監理団体が取りまとめた形での申請になると見込んでいる」とする。同時に、同じ受け入れ機関(企業)で同一の業務にあたることが要件となるため、現在の受け入れ機関(企業)での仕事を継続することが見込まれる。そのため申請にあたっては、技能実習生は監理団体、受け入れ機関(企業)の協力を受けながら、実際の手続きは監理団体がとりまとめることが想定されているという。

 出入国在留管理庁はホームページに「新型コロナウイルス感染症に関する情報はこちらに掲載しています」というページを作り、関連情報を掲載している。

◇「短期滞在」やそのほかの在留資格の人も期限伸長可能に

 出入国在留管理庁は、「短期滞在」の在留資格で日本に在留中の外国籍者についても4月3日付で、「短期滞在(90日)」の在留期間更新を認め、許可する在留期間を30日から90日に伸長すると説明する。同時に、その他の在留資格で在留中の外国籍者に関しても、「短期滞在(90日)」への在留資格変更を許可している。

 こちらも、それぞれ帰国できない事情が継続している場合、更新を受けることが可能だ。

 

 この情報も出入国在留管理庁のホームページに「帰国困難者に対する在留諸申請及び在留資格認定証明書交付申請の取扱いについて」として掲載されている。

 

帰国困難者に対する在留諸申請及び在留資格認定証明書交付申請の取扱いについて(出典: 出入国在留管理庁)
帰国困難者に対する在留諸申請及び在留資格認定証明書交付申請の取扱いについて(出典: 出入国在留管理庁)

◇帰国できず、仕事もない

 この措置が出された背景には、新型コロナウイルスの影響で帰国できずにいる技能実習生ら外国籍者の存在がある。

 

 ベトナム出身の男性、タインさん(仮名)は、日本で働く技能実習生だ。

 タインさんは来日前、ベトナムの仲介会社(送り出し機関)に5000米ドルを支払った。この費用は親族などからすべて借り入れて賄ったという。来日後は、従業員数十人の受け入れ企業で就労しながら、渡航費用のためにできた借金を返した。

 直近の賃金は1時間当たり約980円。最低賃金よりは高いものの、1000円にはとどかなかった。最近は受け入れ企業の仕事が少なく、残業はほとんどない。残業というと否定的なイメージを持たれることもあるかもしれないが、渡航費用のための債務返済や故郷への仕送りの責任を持つ技能実習生の中には、残業で稼ぎたいという人もいる。通常の賃金だけでは、思ったような稼ぎが得られないからだ。

 タインさんの手取りは、賃金から家賃に加え、水光熱費、社会保険料などが引かれ9万円程度となる。時期により手取りが9万円を下回ることもあった。

 

 同僚の技能実習生の中には、受け入れ企業の従業員に殴られ、契約終了を前に帰国した人もいるという。また技能実習生の賃金は日本人よりも低かった。それでも、社内にはタインさんに親切にしてくれる従業員もおり、タインさんはその人について「とても良い人です」と言う。タインさんは独学で日本語を勉強しながら、この3年、就労を続けた。そして、この春、規定の技能実習の期間を終え、故郷のベトナムへと戻る予定だった。

 だが、新型コロナウイルスの影響で帰国ができなくなった。さらに技能実習の期間も終わり、現在は仕事がなく、寮で過ごしている。

  

 タインさんの不安は帰国時期の見通しが立たないことと、生活費の負担だ。仕事がないため収入が途絶えており、食費などの生活費は貯金を使って支払っている。

 筆者の取材にタインさんはSNSで、「監理団体が帰国のための航空券を用意してくれたのですが、実際にはいつ帰れるのかわかりません」と説明する。

 タインさんは出入国在留管理庁の措置に関してもこれまで知らず、これから監理団体に問い合わせるという。

 ただし、現在の受け入れ企業は前述したように最近仕事が少ない状況だ。タインさんは「(受け入れ企業は)現在、仕事があまりないですから、この会社で仕事を続けられるかわからないです」と言う。

 「収入がないのに、生活費はかかります。いつベトナムに帰ることができるのかわかりません。この件について、誰が私を支援してくれるのかもよくわかりません」 

 

 タインさんは困惑しながらそう語っている。

 出入国在留管理庁では、この在留期限の伸長措置に関して、前述したようにホームページで広報をしている。ただ残念ながら、在留資格の伸長措置が理解できるベトナム語の書類を筆者は見つけられなかった。また、より具体的な詳細を理解し、申請に必要な手続きをするには、各地の入管に問い合わせる必要がある。

 在留資格の変更措置は、帰国が困難になっている技能実習生をはじめ外国籍者の助けになるだろう。ただし、帰国困難者をより迅速にサポートするには、本人が理解できるよう母語による情報発信をするとともに、技能実習生については監理団体と受け入れ企業に対して関係機関から直接通知をして協力を要請するなど、より踏み込んだ支援を行う必要がある。

 技能実習生の支援を続ける榑松佐一さん(愛労連元議長)は4月4日、筆者の取材に対し、「技能実習生だけでなく、技能実習生を受け入れている中小企業や監理団体の中にも、こうした情報を知らないところがあると思います」と指摘している。(了)

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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