【新型コロナウイルスと増えるDV・虐待】全国女性シェルターネットが政府に要望書提出、移住女性も被害に

(写真:アフロ)

 世界的な新型コロナウイルスの流行を受け、学校の休校や外出自粛の動きが出る中、家庭内ではドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待の問題が深刻化している。

 そんな中、特定非営利活動法人「全国女性シェルターネット」は3月30日、安倍晋三首相、橋本聖子内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、加藤勝信厚生労働相にあて、「新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」を出した。

◇「DV・虐待相談窓口の運営継続を」「経済的困難にある母子の保護拡充が必須」

 全国女性シェルターネットは要望書で、DV・虐待の増加を受け、1)緊急の状況下においてもDV・虐待相談窓口の運営を継続するほか、相談・支援体制を拡充することを求めた。

 さらに、2)新型コロナウイルス対策期間中には自治体による一時保護などの措置業務が滞ることを想定し、被害者が市町村や民間シェルターに逃げ込んだ場合、自動的に一時保護を開始することも要望している。

 経済面に関しても、今後、経済的困窮に陥る母子家庭の増加が予想される中、3)世帯単位での給付を行う場合、住民票上の世帯主でなくても一定の条件を満たすDV被害者が申し出た際に援助金などを給付する特別措置を講じることも要請。これは、DVから逃げるため住民票を移さないまま家を出ている配偶者や子どもが、援助金を受け取れない危険性があるためだ。

 経済面に関してはさらに、4)現金給付にとどまらず、収入が生活保護基準を下回る人には生活保護を適用するなど、生活保護の適用拡大を要望している。

 また、5)DV シェルター関係者に関する行政の発表内容や報道において配慮することも要請している。これは、シェルターなどの利用者・スタッフに感染者が出たことが詳しく報道された場合、秘匿しているシェルターの場所が知られてしまう危険があるからだ。

◇家庭の外に出られないということ

 全国女性シェルターネットが要望書を出した背景には、DVや虐待の相談が増えていることがある。新型コロナウイルスの流行を受け、学校が休校となり子どもたちが自宅で過ごすとともに、リモートワークの広がりにより大人も在宅するケースが増えている。そんな中、以前からあったDVや虐待の問題がさらに深刻化しているのだ。

 具体的には、「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を押し付け、ことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた」「かねてからDVで母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視したりするようになったので、避難が難しくなり、絶望している」(全国女性シェルターネット「新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」)といった問題が起きている。

◇相談すること自体が困難に

 被害者が外部に相談しにくい状況が生じていることも課題だ。新型コロナウイルスの流行を受け、自治体のDV相談センターの中に面談業務を中止するところが出ているためだ。

 さらに、夫が常に在宅していたりするため自宅からの電話相談ができなくなり、相談の道が狭められる人が出ている。

 例えば、「相談センターの面談が休止になって電話相談のみになっているが、自営業の夫からのDVを相談中の被害者が夫と子どもが在宅しているので電話での相談は困難と思われ、連絡が途絶えている」(全国女性シェルターネット「新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書」)といった課題が起きている。

◇外国人特有の課題も

 DVや虐待は、移住者・マイノリティにも深刻な問題だ。また、移住者・マイノリティは在留資格の問題があるとともに、言葉の課題、社会的なつながりのぜい弱性といった特有の課題にさらされている。

 全国女性シェルターネットの要望書は、厚生労働省が新型コロナウイルスに関する外国人向け情報を出しているものの、外国人の中にはそうした情報に行き着くことができない人がいると指摘する。

 さらに、配偶者ビザで日本に滞在する海外出身のDV被害者の中で、離婚せず別居中の人からは、民間支援機関にしかつながっていないこともあり、新型コロナウイルスに関連する保障を受けられるかわからないと、不安の声が出ているという。

 また外国人の場合、同じ国の出身者のネットワークから必要な情報を得ることができる反面、DV被害に遭い逃げている場合、同国人ネットワークにもアクセスすることが不安でできない人もいる。技能実習生らへの経済的支援が出るのかについても、心配の声が出ている。

◇浮き彫りになる女性・子ども・移住者の課題

 内閣府男女共同参画局が2019年9月25日付で発表した「配偶者暴力相談支援センターにおける配偶者からの暴力が関係する相談件数等の結果について(平成30年度分)」によると、2018年度(2018年4月1日~2019年3月31日)の全国283カ所の配偶者暴力相談支援センターが受け付けたDVの相談件数は計11万4481件(来所3万4849件、電話7万5964件、その他3668件)となり、前年度の10万6110件を超えた。

 2018年度の相談件数うち、女性からの相談は11万2076件と、男性からの相談の2405件を上回る。

 さらに日本語が十分に話せない被害者からの相談件数は計1996件(来所772件、電話1078件、その他146件)で、こちらも前年度の1495件から増加。日本語が十分話せない被害者からの2018年度の相談のうち、女性による相談は1987件、男性は9件だった。言語別では英語が101件、スペイン語が127件、タイ語が125件、タガログ語が709件、韓国語が47件、中国語が383件、ロシア語が26件、ポルトガル語が284件、その他が182件、不明が12件となっている。

 ただし、この数字は相談件数であり、実際には相談ができていないDVの被害者が存在する。

 世界経済フォーラムの「The Global Gender Gap Index 2020 rankings」では、日本の順位は世界153カ国中121位という低水準にとどまるなど、日本社会における男女格差は大きい。さらに外国出身者やマイノリティについても、かねてそのぜい弱な状況が指摘されてきた。

 

 もともと男女の権力関係が非対称であるとともに、女性や子ども、移住者・マイノリティをめぐる課題がある中、新型コロナウイルスの流行拡大を受けた外出の自粛、リモートワークの広がり、休校措置、経済の不安定化などが、結果として家庭内の問題を深刻化させている。同時に、DVや虐待の被害を相談する道も狭まっている。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための外出自粛や休校措置などの各種取り組みは必要なものだが、家庭は誰にとっても常に安全で居心地の良い場所とは限らない。密室になりやすい家庭にいることで、かえって危険にさらされる人が存在する。そして、相談先が限られてしまうことで、身体的・精神的な暴力をはじめ様々な暴力に直面しても外部に助けを求めることができなくなる。

 全国女性シェルターネットの要望書によれば、新型コロナウイルスの流行を受け移動制限措置が講じられているイタリアやフランスでは、DVの増加に対応するため、すでに政府が対応策を打ち出している。外出自粛やリモートワーク、休校措置などが実施される際には、最もぜい弱性の高い女性、子ども、移住者・マイノリティの保護策も同時に行う必要があることを、各国の取り組みは示唆する。日本政府もDV・虐待の問題に目を向け、必要な施策を迅速に講じる必要がある。(了)