ルポ・技能実習生が「逃げる」ということ(1)「失踪」と片づけていいのか? 借金漬けの移住労働と低賃金

技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影

 法務省による「失踪」能実習生についての調査が話題となっている。一方、技能実習生が会社から出る/逃げることを、「失踪」という言葉だけで、片づけていいのだろうか。

 筆者は2014年からベトナムや日本で、技能実習生や家事労働者など、海外での移住労働の経験を持つベトナム人に聞き取りを行ってきた。その取り組みの中で、技能実習生が会社から出る/逃げる行為を「失踪」、そしてこの行為を行う主体を「失踪者」という言葉で片づけることに違和感を抱いてきた。そこで今回は、技能実習生が実習先企業から「逃げる」ことについて検討したい。まず技能実習生が会社から逃げる/出ることの動機形成とその背景をみていく。

◆「失踪」を問い直す必要性

 日本においては、技能実習制度を推進してきた国際研修協力機構(JITCO)による技能実習生の「失踪」統計があるほか、政府機関が技能実習生が実習先企業・監理団体の管理下から出る/逃ることを、「失踪」という言葉で表現することが一般的だ。新聞やテレビでも技能実習生の「失踪問題」が報じられている。

 しかし、「失踪」とは、国家や実習先企業、送り出し機関(仲介会社)、監理団体など、技能実習制度にかかわる技能実習生以外のステークホルダー(利害関係者)の視点から出た言葉であり、会社から出る/逃げるという行為の責任を技能実習生のみに背負わせていないだろうか。そして、2020年の東京オリンピックを前に、治安当局が在留資格を持たない外国人の取り締まりを強める中、失踪者は日本社会の秩序を乱す<逸脱者>としてみられてきた面があるのではないだろうか。

 だが、技能実習生が会社から出る/逃げることを、単純に個人の責任にはできない。

 筆者が行った聞き取りでは、そもそもベトナム人技能実習生は実習先企業から逃げた人も、そうでない人も、全般的に高額の渡航前費用を借金して送り出し機関(仲介会社)に支払っており、借金漬けの状態で来日し、借金を返済しながら、低賃金で働いていた。その上、技能実習制度では職場は変えられないとともに、住居は会社が提供した寮となる。借金がある上、在留資格、仕事、住居が結びついており、がんじがらめの状態で、借金を返しつつ働くことになる。

 日本での技能実習経験を肯定的にとらえる技能実習生もおり、帰国後も日本で知り合った人たちとフェイスブックなどを通じて連絡を取り合う元技能実習生もいることは確かだ。受け入れ企業の社長や上司が親切にしてくれたという話を技能実習生から聞くこともある。地域のボランティア日本語教室に参加したり、職場内に親切な人がいたりする場合、技能実習生は地域や職場で人間関係を構築できる。ただし、どのような地域のどんな実習先企業で働けるのかは運次第だ。日本で生活し、仕事をしつつも、日本人の友達が一人もできなったという技能実習生もおり、問題があっても気軽に相談できる人がいないという例があることもまた課題となっている。

 そして技能実習生は制度上、実習先企業を変更できないので、問題があっても、我慢するほかない。筆者が話を聞いた技能実習生の中には、朝3時までの長時間労働で休みがほとんどないという人や、きつい仕事を割り振られた人、あるいは除染といった危険な仕事をさせられた人がいた。

 それに加え、日本での就労期間中に実習先企業において、むなぐらをつかまれる、顔を殴られる、すれ違いざまに肩をわざとぶつけられるという身体的な暴力、「ベトナムに帰れ」「バカ」といった言葉による暴力、モノを投げつけられる、体を触られるなどのセクハラ、ケガをしても十分に治療させてもらえない、行動を監視される、外出を禁止される、罰として雨の中で外に立たされるといった状況に置かれていた人たちがいた。こうした暴力やハラスメントは一回性のものではなく、常習的に行われていた人もいた。また暴力については、男性が被害者になるとみられがちだが、女性が被害に遭うこともある。

 そんな中、一部の技能実習生の中から会社から出る/逃げることを選択する人が出ているわけだが、現在の日本社会で使われる「失踪」という言葉ではとらえられない、例えば技能実習生にとっては自分の身を守るための「避難」という事例がある。そのため「失踪」という言葉だけで、技能実習生が会社から出る/逃げることを位置付けることには、疑問が浮かび上がる。

◆借金漬けの移住労働が常態化

技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影
技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影

 筆者は2014年9月から2018年8月まで、ベトナムと日本において、ベトナムから日本、台湾、韓国などに、技能実習生や家事労働者、工場労働者などとして、移住労働に出た経験を持つベトナム人に対し、移住労働を行う背景、移住労働に当たっての仲介会社の利用、仲介会社への手数料とその工面方法、移住労働先での就労実態、賃金、帰国後の生活などについて聞いた。

 この中で、雇用主のもとから出た/逃げた経験を持つ人については、(1)逃げることを決めた動機、(2)逃げるための手段・ルート、(3)逃げた後の日本での仕事・生活、(4)帰国の経緯――を聞いている。逃げることを決めた動機以外の要素を聞き取り項目に入れているのは、動機だけでは、逃げることを実現できないからだ。

 では、技能実習生はどうして会社から逃げたいという動機を持つようになるのか。技能実習生が実習先企業から逃げる動機は、一つの側面だけでは説明できない複合的なものだが、動機形成のカギとなりそうなのが、不健全なバランスシートの存在だ。

 技能実習制度においては、ベトナムでは仲介会社(送り出し機関)が、日本側では監理団体が、技能実習生と実習先企業とをつなぐ。技能実習生は送り出し機関を通じて来日することが求められるが、この際に、手数料を支払う仕組みが構築されている。ベトナム労働・傷病軍人・社会省(MOLISA)は仲介会社が技能実習生から徴収できる手数料の上限を設けており、3年契約の実習生で上限3,600米ドル、1年では1,200米ドルと規定されている。だが、筆者の聞き取りでは、この手数料の上限は守られておらず、100万円を超える手数料を支払っているケースが大半だった。

 だが、読者もご存じのように、技能実習生の賃金は決して高いものではない。以前の「研修生制度」の時代には、1年目の研修生時の賃金が月に6~7万円という水準の人もいた。そこから少し改善が見られたとはいえ、依然として低賃金状態が継続しており、手取りが10万円を切るということが少なくない。

 以下の表を見てほしい。これは、さまざまな困難な状況に直面し、技能実習生が来日前に仲介会社(送り出し機関)に支払った手数料や、来日後の賃金や生活費などに関してまとめたものの一例だ。賃金総支給額、家賃・税金・社会保険料、手取り、生活費、残りの金額はすべて1カ月単位の数字となっている。

技能実習生のバランスシートの一例、(2018年の聞き取りデータから筆者作成)
技能実習生のバランスシートの一例、(2018年の聞き取りデータから筆者作成)

 この表にある技能実習生は、農村の出身者で、年齢は20~30代。家族の経済状態を改善するとともに、自身の人生を切り開きたいと、日本という国に希望を抱き、来日することを決めた人たちだ。

 

 4人はそれぞれ、ベトナムの都市部にある仲介会社(送り出し機関)に対し、1人当たり約73万円から125万円の手数料を支払った。この際、すべての人が借り入れを行っている。その後、渡航前研修を受けるセンターで数カ月にわたる渡航前研修を受けてから、2015年から2017年にかけ、いわば借金漬けの状態で、来日したのだ。

 その後は、各地で就労していたが、賃金水準は決して高くない。技能実習生の賃金は各都道府県の最低賃金水準にはり付いていることが多いと言われる。そのため基本給は10数万円にとどまる。技能実習生は賃金から家賃、税金、社会保険料が引かれる。場合によっては水光熱費やインターネット料金が引かれることもある。もともと10数万円の賃金から、これらの費用が引かれると、手取りは10万円を切ることも少なくない。

 他方、ベトナム側では仲介会社への手数料支払いのために大きな借金をしていることから、この賃金の中から、借金を返済していく。借金額の大きさに比べて賃金が低いため、生活は切り詰める。生活費が月に9,000円だった技能実習生は毎月食費は7,000円のみに抑え、ほかにインターネット料金2,000円を出すほか、余計な支出を抑えていた。そして残りのお金はそのままベトナムの家族に送り、借金返済に充てるのだ。それでもみな借金額が大きいため、返済には1年以上の期間を費やすことになる。こうした借金と賃金の不均衡なあり方は、この4人にとどまらず、筆者が話を聞いたベトナム人技能実習生としては一般的なものだ。

 

 借金を背負いながら日本で働いていた4人はさらに、「ケガをしているにもかかわらず十分な治療を受けられなかった」「強制的に帰国させられそうになった」「除染をさせられていた」「きつい仕事の一方で賃金が低かった」といったそれぞれの状況に直面し、支援者の元に保護されるに至った。

◆移住インフラの形成と搾取・人権侵害の継続

技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影
技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影

 なぜ、こうした借金漬けの労働者が生まれるのか。

 

 注目されるのは、国境を超える移住労働を促すシステムそのものだ。

 ベトナムでは、政府がかねて「労働力輸出(xuat kau lao dong)」政策を掲げ、労働者の送り出し人数の目標値を設定しているほか、政府が送り出しを担う仲介会社に事業免許を付与するといった仕組みができている。

 技能実習制度では、実質的に労働者であるはずのアジア諸国出身の人たちを「技能実習生」、受入れ企業を「実習実施機関」、日本側で技能実習生と企業をつなぐ組織を「監理団体」と呼ぶなど、独特の言葉の使い方がなされている。その中で、送り出し地で技能実習生の送り出しを担う組織は「送り出し機関」と呼ばれる。だが、ベトナムでは「送り出し機関」というのは、そもそも営利目的でビジネス展開する仲介会社であり、登記上も会社組織だ。技能実習生に話を聞くと、「送り出し機関」を「会社(cong ty)」と呼んでいることが分かる。仲介会社はベトナム社会では、時に「労働力輸出会社(cong ty xuat khau lao dong)」とも言われており、あくまでも営利目的のビジネスを行う会社組織なのだ。

 日本側で、技能実習制度の「国際貢献」「途上国への技術移転」という建前を維持するためなのか、独特の言葉が使われ続ける半面、ベトナムではあっけらかんと送り出しビジネスが営まれている。

 仲介会社の中には、移住労働者の送り出しを成長産業と位置づけ、積極的な営業活動、広告宣伝活動、農村でのセミナーなどのリクルーティング活動を行うところもある。また1つの会社の中に、日本部門、台湾部門(家事労働、工場労働)、韓国部門、留学など複数の部門が存在することもある。

 ベトナムはかつて旧社会主義圏に労働者を送り出していたが、近年では主に台湾、日本、韓国への労働者の送り出しを進めている。この中で、仲介会社が相手国の企業とベトナム人労働者とのマッチングを促すといった送り出し実務を行い、その一方では労働者から手数料を徴収するという、いわば仲介会社を核とする移住産業が構築されている。

 仲介会社や渡航前に研修を実施する研修センターに加え、個人で移住労働者の勧誘を行う仲介者(ブローカー、nguoi moi gioi)、さらに渡航前費用の貸し付けを行う銀行、個人の高利貸し、送金会社なども存在しており、これらがベトナム側の移住産業を形成している。

技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影
技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影

 一方の日本側では、監理団体が実習先企業から監理費を徴収するビジネスモデルが構築されている。監理費は技能実習生1人当たり1カ月に3万円から5万円という話を聞くが、監理団体によって差があるようだ。場合によっては、紹介料が発生する場合もあるという話もある。残念ながら、紹介料の詳細を突き止めるに至っていないが、紹介料は1人当たり30万~50万円に上ることもあると聞く。こうしたお金が技能実習制度の中で動いている。

 さらに技能実習生が1年目の1号から2年目以降の2号に移行する際、必ず技能実習評価試験を受けることが求められる。この試験については、実習先企業が試験実施機関に受験料を払うことが必要になる。労働組合など支援者からは、この試験が技能実習制度の建前を維持するためのアリバイになっているのではないかとの声が出ている。同時に試験の受験料は受験生1人当たり数万円となっており、企業の負担は小さくない上、これが一つの試験産業になっているとも指摘されている。

 このように、ベトナムでは仲介会社(送り出し機関)、個人のブローカー、銀行、個人の高利貸し、日本では監理団体、試験実施機関といった様々なアクターが事業活動をしながら、両国間で国境を超える移住産業が構築されている。

 

 さらにベトナムと日本の間の労働者の移動は拡大しており、それに合わせて移住産業も拡大していると言える。技能実習生が帰国後に、送り出し機関で営業職や日本語教師として働いたり、元技能実習生が送り出し機関を立ち上げたりするケースもあり、元技能実習生もまた移住産業の維持・拡大の一翼を担っている。

技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影
技能実習生をはじめ移住労働者の送り出し地となっているベトナム北部の農村、筆者撮影

 英オックスフォード大学ビャオ・シアン教授とスウェーデンのストックホルム大学のヨハン・リンドクイスト教授の2014年の共同論文(注1)で示された「移住インフラ(Migration Infrastructure)」 という概念がある。これは移住労働を促す、あるいは条件づける仕組みの総体を移住インフラとして位置づけるものだ。

 シアン教授とリンドクイスト教授は、移住インフラには移住労働に関する「法的」側面、仲介会社をはじめとする「商業的」側面、人間関係など「社会的」側面、支援組織など「人道的」側面、インターネットなどの「テクノロジー」の側面という5つの側面があり、これらの側面が連関し合いながら、国境を超える移住労働を促進させるとともに、移住労働の行き先や移住労働期間、就労できる職種を限定するなどの条件付けが行われると説明する。

 この議論を日本とベトナムの間の国境を超える移住労働に当てはめてみると、日本で働く技能実習生の増加と前述した移住産業の形成を踏まえれば、既に様々な側面が関連し合いながら、両国間の移住インフラが構築されてきたと言えるだろう。

 他方、移住インフラという一度動き出したシステムの総体の中には、既得権益を持つ人や組織が出てくる。そのため、移住インフラ自体を維持することもまた、日越間の人の移動の広がりを促すことの一つの目的になっているとも言える。同時に、既得権益を持つ個人・組織の存在からは、移住インフラを是正する、あるいは壊すことへの抵抗が生じることも想定される。そのため技能実習生に対する人権侵害が継続する状況にも関わらず、技能実習制度をつぶせないという状況が続くのだ。

 

 技能実習生に関連する人権侵害事例について、問題の原因を「悪徳業者」や「悪い受け入れ企業」に矮小化すべきではない。技能実習制度という国家のお墨付きを得た制度を含む移住インフラが、搾取と差別を内在化していることこそを、見るべきだろう。

 そして、結果的に、アジア諸国出身の外国人であれば、低賃金で、転職もできない状態で雇用し、期限が終われば帰ってもらえばいいとする入れ替え可能な安い労働力として扱う<もう一つの日本>というべき労働市場の存在が常態化している。こうした状況の中で、自身の権利が侵害される外国人労働者が繰り返し生み出されている。(「ルポ・技能実習生が「逃げる」ということ(2)」に続く。)

注1: Xiang, Biao and Johan Lindquist. 2014. “Migration Infrastructure.” International Migration Review 48(s1):S122ー48.