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「私たちにできることを考える」カトリック教会が技能実習生と連帯、17日に郡山でセミナー開催へ

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
人身取引問題に取り組む部会(タリタクム日本)がセミナーを開催する(同部会提供)

 技能実習生をはじめ外国人に対する人権侵害や労働問題が繰り返される一方、困ったことがあっても、言葉の壁や法律など関連知識の不十分さ、そして相談先の情報を持たないことなどから、孤立する外国人が存在する。そんな中、市民の間で外国人支援に乗り出す動きが広がっている。以前から人身取引の被害者を含めた外国人への支援を行ってきたカトリックのコミュニティーも様々な活動を進めている。

 

 日本カトリック難民移住移動者委員会 (J-CaRM)の人身取引問題に取り組む部会(タリタクム日本)は11月17日、除染をしていた技能実習生が確認された福島県内で、「ベトナム人技能実習生の実態と支援の取り組み」と題するセミナーを開催する。

 セミナーは郡山市にあるカトリック郡山教会(郡山市虎丸町13-1)で、11月17日午後1時~4時に行われる。

 この中で、日本カトリック難民移住移動者委員会の委員で、NPO法人・移住者と連帯する全国ネットワークの事務局長を務める山岸素子氏が「急増する技能実習生の実態と問題点」を説明する。また、技能実習生支援を行う全統一労働組合(東京都)の佐々木史朗書記長が、「ベトナム人技能実習生支援の具体的なケースとその解決に向けた取り組み」をテーマに講演する。

 当事者である技能実習生からのアピールも予定されている。

 セミナー当日はベトナム語と英語の通訳があり、日本語ができない人でも参加が可能。入場料は無料で、事前申し込みなしでも誰でも参加できる。

 タリタクムは今回のセミナーの背景について、「いま、ベトナムや中国などのアジア諸国から28万人を越える技能実習生が来日し、日本各地で働いています。外国人技能実習制度は、技術移転を通じた発展途上国への国際協力を目的にしていますが、実際には多くの技能実習生が使い捨ての安価な労働力として、様々な人権侵害にさらされています。国連などの国際社会からは、現代の奴隷制、人身取引の温床などの指摘を受け、制度の改善提案がされています」と説明する。

 その上で、セミナーの目的について、「タリタクムセミナーでは、特に急増するベトナム人技能実習生が置かれた状況について知るとともに、ベトナム人技能実習生からの相談事例や解決に向けた具体的な取り組みについて共有し、私たちにできることを参加者全員で考え」るとし、ベトナム人技能実習生の直面する問題の共有を呼びかけている。

◆移住者支援の蓄積とそれが持つ意味

 こうした活動の背景には、カトリック・コミュニティーの外国人に対する支援の蓄積がある。

 日本カトリック難民移住移動者委員会は1960年、「日本司教団移民委員会」及び「(財)日本カトリック移住協議会」の事務局として設立され、現在までカトリック教会内で在日コリアン、フィリピン、韓国、ベトナムをはじめとするアジアや、ブラジル、ペルーなど南米からの移住者や難民といった人々との連携関係を構築してきた。

 同時に、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)や外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)などのネットワーク構成団体として、省庁交渉などアドボカシー・政策提言活動に加え、シンポジウムや集会、セミナーの開催などにも関わっている。

 さらに、日本カトリック難民移住移動者委員会の活動で注目されることに、外国人を対象にその人たちの母語で情報発信していることがある。

 日本カトリック難民移住移動者委員会のホームページには、「来日するベトナム人のみなさんへ」と題するページが設けられている。このページでは日本語とベトナム語を併記し、ベトナム人が来日する前に確認すべきことがらや、日本で生活する時に必要な情報、さらに困った時の相談先などの情報を掲載している。言葉の問題から職場や暮らしの中で困ったことがあっても、相談先を持たない人がいる中、こうした情報はベトナム人の助けになるだろう。

 このような60年代から続く日本カトリック難民移住移動者委員会の移住者支援の動きからは、日本には外国にルーツを持つ人が以前から暮らし、その人たちの中に支援を必要とする人たちが存在し続けてきたことが浮かび上がる。

 現在、日本では「移民受け入れ」に関する議論が噴出しているが、実際には、以前から外国にルーツを持つ人たちが日本という国で生きてきた。既に多数の移民がこの日本で働いたり、家族を持ったりして、生活しているのだ。しかし、その人たちの日本での暮らしを守るための包括的な政策はなく、外国にルーツを持つ子どもたちの就学問題をはじめとする様々な課題が生じてきた。だからこそ、日本カトリック難民移住移動者委員会の活動を含めた市民社会による草の根の支援が続けられてきた。

 外国人労働者の受け入れ拡大を盛り込んだ入管法改正案の審議が、衆院本会議で始まっている。だが、外国人は「労働力」としてのみとらえられる存在ではない。

 中国出身者や在日コリアン、技能実習生、留学生、日系人、日本人と結婚したことでこの国に移り住んだ人たち。あるいは、人身取引の被害に遭ってしまった女性たちや、長きにわたり難民申請を続け、不安定な滞在身分に置かれている人たち。そして、十分な学習環境がない中で時に困難にぶつかる外国にルーツを持つ子どもたち。

 外国にルーツを持つ人たちも、他の人と変わらない生活者であり、一人の人間だ。しかし、人手不足の対処法として「労働力」としての外国人の受け入れが中心的な議題になる半面、生活者としての外国にルーツを持つ人たちに向けた包括的な施策がない中で、外国にルーツを持つ人たちは国籍や民族、言語、文化、宗教、見た目といった要素により、時に課題にぶつかる。

 技能実習生をはじめとして外国人が労働問題や人権侵害にさらされる事例が後を絶たない中で、市民社会からの取り組みがこうした人たちを草の根で支えている状況を国会がどうとらえ、問題解決に向けた議論ができるのかが、いま問われている。(了)

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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