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ベトナムの若者の未来を変える「KOTO」(4)持続可能な支援は実現できるか、ビジネス展開で資金確保

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
KOTOの訓練生と創設者のジミー・ファムさん(KOTO提供)

  私が「ベトナムの若者の未来を変える「KOTO」」の連載(「(1)『最も困難な若者』に生きるスキルを、職業訓練を無償提供」「(2)路上生活を経験した青年と人生を切り開く職業訓練」「(3)『働く場所と職業スキルを』、越系オーストラリア人の奮闘」)で伝えたように、ベトナムの若者支援組織「KOTO(コト)」は、ストリートチルドレンなど不利な立場に置かれた若者たちに質の高い職業訓練プログラムを無償で提供し、若者たちが社会で生きていけるよう後押ししている。

 一方、支援事業を行うための資金の確保は、KOTOにとって常に大きな課題となっている。寄付やそのほかの支援などで様々な人たちがKOTOを支えているものの、2年に及ぶ職業訓練プログラムを若者たちに無償で提供していくには十分とは言えない。事業としての継続性を確保するためには、資金をきちんと確保していく必要がある。

 そんな中、KOTOは職業訓練プログラム以外にも、事業をひろげ、自ら資金を確保する努力を行っている。

◆レストランを運営、利益を活動に振り向ける

KOTOの職業訓練の様子。訓練生たちが料理の技術を学んでいる。(KOTO提供)
KOTOの職業訓練の様子。訓練生たちが料理の技術を学んでいる。(KOTO提供)

 KOTOは職業訓練センターだけではなく、レストランも運営し、事業資金を確保しようとしている。

 KOTOが展開する「KOTOレストラン・ハノイ」はハノイ市の中心部にあり、観光地としても知られる文廟の近くに立地する。レストランはカフェとしてのサービスもあり、料理を頼まなくても、ドリンクだけでも気軽に利用できる。提供するメニューは、ベトナム料理や西洋料理で、軽食からメインコースまで取り揃えている。またデザート向けのケーキなどもある。  

 建物の2階には「テンプルバー」というバースペースがあり、カクテルやスムージーを揃えている。3階には、KOTOの職業訓練の修了生のためのミーティングルーム「グラデュエート・ギャラリー」がある。ここでは、50~150人を対象にカクテルパーティーを行うこともできるという。屋上には文廟を見渡すことのできるテラスがあり、予約すれば会合などで利用でき、料理や飲み物のサービスを受けられるようになっている。

◆クッキングクラスやオンライン販売も

KOTOの職業訓練の様子。(KOTO提供)
KOTOの職業訓練の様子。(KOTO提供)

 レストラン事業に加えKOTOが展開するのは、クッキングクラスやベーカリーのオンライン販売だ。

 KOTOのクッキングクラスでは、英語によるベトナム料理教室を実施している。春巻きやフォーなど一般的なベトナム料理に加え、デザートの作り方を教えており、外国人が主な対象となっているという。同時に、KOTOのレストランのシェフとともに地元の市場を訪問するツアーも実施している。ベトナムでは今も伝統的な市場が人々の生活に根付いており、市場で食材を買い求める人が多い。ツアーではベトナムの人々の暮らしを垣間見ることができる。

 オンライン・ベーカリー事業では、手作りのケーキ、ビスケット、マフィンなどをウェブサイトで販売している。KOTOのレストランで出していたケーキを購入したいとの声があったことから、オンラインストアの開設に至ったのだ。注文した商品はレストランで受け取ることができるほか、自宅までの配達も行っている。

 料理や飲料を届けるケータリングサービスも実施している。このサービスでは料理と飲料だけではなく、サービススタッフやイベントの管理スタッフの派遣も行っている。イベントは立食、着席などさまざまな形式に対応する。このようにKOTOは可能な限り事業収入を確保することで、持続可能な事業モデルを打ち出そうと努めている。

◆スポンサー・プログラム導入、持続可能な事業を目指す

KOTOの訓練生。(KOTO提供)
KOTOの訓練生。(KOTO提供)

 KOTOではさらに、訓練生を支えるためのスポンサー・プログラムも導入している。

 スポンサー・プログラムは、一般の人が月に100米ドルを支払うことで訓練生の”スポンサー”になり、その訓練生の職業訓練期間中の生活を支えるというものだ。スポンサーから得た資金により、訓練生の授業料、教材費、健康診断や予防接種の費用が賄われることになる。

 ただし、スポンサーが見つからない訓練生がいるのも事実だ。訓練生を支えるための資金の確保が引き続き必要になっている。

 KOTOは、訓練生の住居や食事を職業訓練期間中すべて無料で提供するほか、訓練生に1人当たり月10米ドルを奨学金として支給している。こうしたもろもろの支出が積み重なるのだが、活動を維持するための資金確保は現在も簡単ではない。

 

 これまでKOTOの活動資金は寄付などに頼る割合が多かったというが、現在では、KOTOは持続可能な事業のあり方を目指し、組織改革と収入源確保のためのビジネス部門の強化を行っている。

 そんなKOTOを支えるのが人的なネットワークだ。KOTOの訓練施設やレストランで働くスタッフは多数いるほか、豪州、フランス、ベルギーなどの出身者も人事やマネジメント、訓練生向けのウェルフェア部門、調理部門で働いている。さらに、ボランティアとしてシェフや英語教師としてサポートしている外国人もいるなど、多数の人がKOTOの運営にかかわっているのだ。

 KOTOの創設者のジミー・ファムさんがたった1人で始めた取り組みが今、多くの人を引き付けている。資金確保をはじめ課題はあるものの、それでもKOTOはベトナムにおける若者の支援で新しい形を提示している。(了)

 ※この記事は、オンラインメディア「世界ガイド」に寄稿した記事に加筆・修正したものです。

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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