<ルポ>「外国人技能実習生ビジネス」と送り出し地ベトナムの悲鳴(4)借金に縛られた実習生を生む構造

ベトナムの子ども。わが子の教育費のために海外に働きに行く人もいる。筆者撮影。

数々の課題が指摘されてきた日本の「外国人技能実習生制度」だが、現在、技能実習生として来日するベトナム人が増えている。こうした状況について、「<ルポ>「外国人技能実習生ビジネス」と送り出し地ベトナムの悲鳴(1)ベトナム人はなぜ日本に来るのか?」「<ルポ>「外国人技能実習生ビジネス」と送り出し地ベトナムの悲鳴(2)”送り出す側”に転じた元実習生」で伝えた。

一方、ベトナムからの国境を超える移住労働の広がりを促しているのは、「<ルポ>「外国人技能実習生ビジネス」と送り出し地ベトナムの悲鳴(3)「労働輸出」と”主要市場”の日本」で伝えたベトナム政府の労働者送り出し政策に加え、”出稼ぎビジネス”の拡大だ。

送り出し機関(仲介会社)や、実習生らに渡航前の語学教育などを提供する「訓練センター」が多数設置され、出稼ぎビジネスが活発化している。

◆営利目的の「仲介会社」が日本への実習生送り出しの要に

ハノイ市の開発地域。筆者撮影、ハノイ市。
ハノイ市の開発地域。筆者撮影、ハノイ市。

ベトナムでは、正規ルートでの移住労働において、ベトナム労働・傷病軍人・社会省(MOLISA)から認可を受けた送り出し機関(仲介会社)を通じて労働者が海外にわたるケースが多い。送り出し機関(仲介会社)はベトナム人が実習生として来日するのに当たりなくてはならないものになっている。

移住労働の希望者は、ハノイ市やホーチミン市など主に都市部に集中している送り出し機関(仲介会社)に出向き、そこで各種の手続きをする必要がある。

この際、送り出し機関(仲介会社)はビザ(査証)やパスポートの取得手続き、航空券の購入、その他の関連手続きなどを代行する。同時に、送り出し先となる日本の管理組合や受け入れ企業などと連絡を取り合うとともに、実習生の候補者に管理組合や受け入れ企業との面接の機会を提供するなどし、労働者と送り出し先とのマッチングをはかっていく。

同時に、実習生候補者は来日前、渡航前訓練センターで、一定期間にわたり日本語研修を受けることになる。そこで、実習生候補者は基本的な日本語を勉強するのだ。

私が取材した中では、渡航前訓練センターは送り出し機関(仲介会社)の傘下にある場合と、独立した訓練センターが複数の送り出し機関(仲介会社)から日本語研修を請け負っている場合とがあった。また、多くのセンターが全寮制で、実習生候補者は、訓練期間中には寮で他の候補者と集団生活をしながら、午前と午後の日本語の授業を受けるという例が少なくない。

ベトナムの若者。筆者撮影、ハノイ市。
ベトナムの若者。筆者撮影、ハノイ市。

ベトナムの人とこうした送り出し機関について話をするのを通じ、彼ら彼女らが送り出し機関を「仲介会社(Cong ty moi gioi)」と呼んでいることが分かった。

仲介会社(Cong ty moi gioi)と言わなくても、「会社(Cong ty)」だけでも、十分に通じる。

実際に、送り出し機関(仲介会社)は営利目的で事業を展開しており、送り出し機関(仲介会社)の関係者と話をした際には、彼らが移住労働者の送り出し事業を「成長産業」としてとらえていると感じることもあった。

ある送り出し機関(仲介会社)の幹部は、私に「われわれにとって、受け入れ側の日本の企業はお客さんだし、実習生もお客さん」「われわれのビジネスでは、お客さんから手数料をもらう」と語った。

日本の「外国人技能実習生制度」が、技能実習生の受け入れについて、いくら発展途上国への技術移転や国際貢献といった”建前”を掲げたとしても、日本国内で技能実習生を雇用する企業は人手不足に対応するためなどの目的で技能実習生を受け入れるところが少なくない。

そして、送り出し地のベトナムにおいては、送り出し機関(仲介会社)によって利益を得るための事業として技能実習生の送り出しビジネスが展開されている。

その中で、送り出し機関(仲介会社)は、技能実習生の候補者をできるだけ多く確保するため、「日本は稼げる」「日本の賃金は高い」「残業もたくさんあるため、収入は基本給よりもずっと多くなる」といった言葉巧みな宣言を行い、ベトナムの人々を日本での技能実習生としての就労に誘っている。

◆高額な渡航前費用が移住労働者の重荷に

ハノイの開発地域。筆者撮影、ハノイ市。
ハノイの開発地域。筆者撮影、ハノイ市。

こうした送り出し機関(仲介会社)の営利目的の事業活動が広がる一方、海外で働きたいと希望するベトナム人の重荷になっているのが、高額の渡航前費用だ。

実習生は、来日前に送り出し機関(仲介会社)に対し、多額の渡航前費用を支払うことが当たり前になっている。

渡航前費用には、ビザ(査証)やパスポートなどの各種の関連手続き費用、飛行機料金といったものだけではなく、仲介会社への「手数料」が含まれる。

また、場合によっては「保証金」を預けることもある。

「保証金」は一定の金額を預け、実習生としての契約期間を満了すれば、帰国後に返却されるというものだ。言い換えれば、中途で帰国することになったり、就労先の企業から逃げだせば、この「保証金」はかえってこない。

さらに、訓練センターでの研修費用や研修期間中の生活費なども、実習生候補者の負担になるケースが少なくない。

同じ送り出し機関(仲介会社)を利用しても渡航前費用の金額が人によってバラバラというケースもあるなど、渡航前費用は送り出し機関(仲介会社)側の”言い値”とも言える状況にあるが、私が技能実習の経験者や関係者らに聞いた話によれば、渡航前費用は最近では100万円を超えるというケースもある。

話を聞いた技能実習の経験者の中には、送り出し機関(仲介会社)に対し、ビザやパスポート費用、「手数料」として計9,000米ドル(約91万8,900円)、「保証金」として1億2,000万ドン(約54万9,918円)、渡航前研修時の学費や生活費で1,400万ドン(約6万4,157円)など合わせて、150万円以上を払っていた人がいた。

150万円を超える高額の渡航前費用になったことについて、この実習生経験者は、「送り出し機関(仲介会社)が”仲介者”にいくらかのお金を払ったので、これだけの高額になったのだと思う」と話した。

ハノイの中心部。筆者撮影、ハノイ市。
ハノイの中心部。筆者撮影、ハノイ市。

ベトナムは経済成長を続けており、世界銀行のまとめでは、同国の1人当たり国内総生産(GDP)は2011年に1,543米ドルだったものが、2014 年には2,052米ドルへと伸びた。

また、ベトナム政府は2016年1月に最低賃金を引き上げ、最も賃金の高い「地域1(ハノイ市やホーチミン市を含む)」で月 350万ドン(約1万6,0630円)となった。経済が伸びていく中で、所得も増えている。

だが、ビザやパスポートの費用、関連手続き費用、飛行機料金などの費用は理解できたとしても、100万円を超える額というのはベトナムの所得水準からいって非常に高額だ。

しかも、この渡航前費用がなぜこれだけ高額になるのかは、支払う側の実習生には十分に説明されない。渡航前費用はある意味でブラックボックスとなっている。

そもそも、日本では、若年労働者の採用が難しく人手不足に悩まされている各地の製造業、縫製業、農業、水産業などを実習生が支えているという現実がある。「実習」とは名ばかりで、実際には単純労働に従事している実習生が多く、技術移転や国際貢献といった建て前とのかい離は大きい。

そうした状況の中、実習生が自らビザやパスポート、飛行機料金などの費用を負担した上で、内容の不透明な高額の「手数料」や「保証金」を送り出し機関(仲介会社)に支払っているというのは、いったい何なのだろうか。

◆借金を返しながらの日本での就労、債務に縛られた技能実習生

ベトナムの農村部。技能実習生には農村出身者も少なくない。筆者撮影、ベトナム北部。
ベトナムの農村部。技能実習生には農村出身者も少なくない。筆者撮影、ベトナム北部。

実習生候補者は、こうした高額の渡航前費用を払うために借金をしているケースが多い。

そもそもベトナムでは、海外に出稼ぎに行こうとする人々の手元に高額の渡航前費用を払うだけの現金があるケースは少なく、多くが銀行や親族からの借り入れで渡航前費用を賄うことになる。

また、銀行から借金をする場合は、土地使用権を担保にするケースが多い。

そして、実習生は高額の借金を背負い、これを返済しながら実習生として働いているのだ。人によって渡航前費用は異なるが、日本での収入は期待ほど多くないため、来日1年目は給料を借金返済に充て、貯金ができるのはそれ以降となる。渡航前費用があまりに高額だったり、日本での収入が低いケースでは、借金返済の期間が長期化する。

ベトナムの農村部。実習生には農村出身者も少なくない。筆者撮影、ベトナム北部。
ベトナムの農村部。実習生には農村出身者も少なくない。筆者撮影、ベトナム北部。

借金があるということは、実習生の自由を奪うことつながるだろう。

これだけ高額の借金は、出身地で得られる収入から返済するのは困難だ。

さらに、借金が返せないとなれば、担保の土地使用権がとられてしまうことになる。実習生には、農村出身者が少なくなく、その場合、実家では農業をしているケースが多い。農民が土地を失えば、生産できなくなり、世帯の経済状況は一気に悪化し、実習生とその家族の暮らしは破たんしてしまうリスクがある。

そのため、例え日本での就労が苦しくとも、実習生は途中で実習をやめるということはできなくなる。

私が聞き取りしたある実習生は、日本の就労先で長期間、日本人従業員から暴力を受けていた。日本人の男性従業員から殴られていたのだ。

この実習生は暴力に耐えかね、警察に相談することも考えた。

だが、高額の渡航前費用を支払うため、この実習生の家族は大半を借金をして工面していた。そのため、この実習生は途中で強制的に帰国させられることを恐れ、結局、警察に相談することはできず、長期間、暴力に耐えざるを得なかったという。

国境を超え、家族と離れ離れになり、知らない土地で働くベトナム人実習生は、地元で働くだけでは到底返すことのない巨額の借金を背負い、日本で実習生として働くのだ。借金に縛られたベトナム人実習生が日本の産業を支えている。

◆相次ぐ詐欺事件や人身取引、移住労働希望者が直面する数々の困難

ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。
ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。

ベトナムからの移住労働者の送り出しをめぐっては、ほかにも、多く問題が発生している。

よく聞かれるのが、「海外にいくとたくさん稼げる」などの誘い文句を受け、高額の渡航前手数を払ったものの、実際にはだまされて海外にいけないというケースだ。

政府の送り出し政策と送り出し機関(仲介会社)の事業展開の広がりを受け、現在ベトナムでは、海外への渡航は一種のブームになっており、海外での就労を希望する人は少なくない。

経済成長の中での格差の広がりと、地方や農村部を中心に貧困問題がいまも残る中で、ベトナムよりも高水準の収入を得られると期待できる海外での就労は、庶民にとって自分とその家族の人生を変え、暮らしを改善することにつながることが期待される希望となっている。

その中で、人々の切実な希望につけこんで、「日本は稼げる」「残業が多い」といった誘い文句で、移住労働をあおる事業者は少なくない。この状況において、お金だけとって、実際には渡航させないといったケースが存在するのだ。

ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。
ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。

もう一つ、移住労働の希望者をだまして、人身取引の対象にする事例も問題視されている。

「海外で良い仕事がある」とだまされ、女性や子どもなどベトナムの人たちが中国やカンボジアなど他国に売られて行くケースがある。

また、こうした被害者の中には少数民族の女性も含まれる。

ベトナムでは少数民族の経済状況は最大民族のキン族に比べて悪いと言われる。

ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。
ベトナムの農村部。筆者撮影、ベトナム北部。

そのため教育へのアクセスも制限されるケースもある。海外への出稼ぎがブームになる中で、経済的、教育的に不利な状態に置かれた少数民族の人々が「海外でよい仕事がある」と言われ、だまされたり、人身取引のターゲットになる事例があるのだ。(「拡大する「外国人技能実習生ビジネス」と送り出し地ベトナムの悲鳴(5)」に続く)

※この記事は、「週刊金曜日」7月8日号に掲載された「ベトナム人の希望に巣食う『外国人技能実習生ビジネス』 」に加筆・修正したものです。

■用語メモ

【ベトナム】

正式名称はベトナム社会主義共和国。人口は9,000万人を超えている。首都はハノイ市。民族は最大民族のキン族(越人)が約86%を占め、ほかに53の少数民族がいる。ベトナム政府は自国民を海外へ労働者として送り出す政策をとっており、日本はベトナム人にとって主要な就労先となっている。日本以外には台湾、韓国、マレーシア、中東諸国などに国民を「移住労働者」として送り出している。

【外国人技能実習制度】

日本の厚生労働省はホームページで、技能実習制度の目的について「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」と説明している。

一方、技能実習制度をめぐっては、外国人技能実習生が低賃金やハラスメント、人権侵害などにさらされるケースが多々報告されており、かねてより制度のあり方が問題視されてきた。これまで技能実習生は中国出身者がその多くを占めてきたが、最近では中国出身が減少傾向にあり、これに代わる形でベトナム人技能実習生が増えている。