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宮市亮が生きるザンクト・パウリ その横顔と1部昇格への道

杉山孝フリーランス・ライター/編集者/翻訳家
(写真:アフロ)

反権力的で“寛容”

「ドイツに行くんですか? だったら、ぜひ試合を見にいってほしいチームがあるんです」

 Jリーグ史上最年少監督となったJリーグ3部を戦うY.S.C.C.(Yokohama Sports & Culture Club)のシュタルフ悠紀リヒャルト監督は、サッカー少年のような表情で語った。

 青年監督が名前を挙げたのは、FCザンクト・パウリ。今季はドイツのブンデスリーガ2部で戦うクラブだ。

 ドイツ第3の規模の都市ハンブルクのクラブで、その一地区であるザンクト・パウリに本拠を置く。「世界一、罪深い1マイル」と称される風俗街近くにスタジアムがあるクラブらしく、反権力的で寛容。「フットボールに性別は関係なし」とLGBTへの理解と連帯を示すクラブは、本来のロゴ以上にインパクトのあるドクロの方が象徴として知られる。

 そのクラブを、シュタルフ監督は日本サッカー協会の指導者S級ライセンス取得に必要な、海外研修先に選んだ。父の祖国であるドイツのクラブを選ぶことは決めていたが、中でもザンクト・パウリを選んだ理由がある。

「海外のチームでどのようにやっているか、海外の選手との比較も自分の目で直接できると思ったので、(研修先候補は)日本人選手がいるクラブに絞っていました。地域と密着しているところも見たくて、いくつか候補がある中で、一番快く受け入れてくれたのがザンクト・パウリでした。偶然にも、クラブに知り合いがいっぱいいるということもありましたが。しかも、ピッチサイドだけで見るだけではなく、中に入れてくれるという話だったんです。ミーティングなど、ずっとテクニカルサイドの一員として受け入れてもらいました。そういう経験って、なかなかできませんからね。最後はそれが決め手でした」

 そんな“オープン”なクラブに、宮市亮はいる。

 高校卒業後、快足ウィンガーとして実力を認められ、イングランドのビッグクラブであるアーセナルと契約。労働許可証取得の問題や負傷もあり、アーセナルではなかなか出場に恵まれなかったが、今もヨーロッパでプレーを続ける。

 所属4シーズン目になるザンクト・パウリでは、「普通にドイツ語でいじられていましたよ(笑)」とシュタルフ監督が語るように、愛されているようだ。そして、チームとともに1部昇格を目指している。

 その攻防は今、ギリギリのラインで繰り広げている。

筆者撮影
筆者撮影

屈辱のダービー敗戦

 自動昇格ラインの2位以内は、どうも厳しそうだ。1部16位とのプレーオフに進む3位まで、勝ち点3差。ヒリヒリする状況である。

 痛かったのが3月10日の第25節の0-4での敗戦だ。しかも相手は、同じ街を本拠とするハンブルガーSV(HSV)。ダービーでの屈辱が、痛みを倍にした。

 試合前から、スタジアムは熱かった。スタンドへ向かう階段はすし詰め状態で、そこにも入れないファンが「チケット求む」とのボードを掲げる。その周囲の道路には、ずらりと警官隊が並んだ。

 試合には、はっきりと「格差」が表れていた。初めての降格により戦うことを余儀なくされた2部リーグでも、HSVは威厳を示し続けていた。圧倒的にボールを保持して、相手陣内でプレーを続ける。ザンクト・パウリはひたすら耐えて、カウンターの機会をうかがっていた。

 宮市は4-4-2のフォーメーションで右MFとして先発。だが、中盤も「労働者」タイプが多いザンクト・パウリでは、なかなか快足を飛ばすシーンに恵まれなかった。

 それでも、後半開始直後には、大きくスタジアムを沸かせている。エリア内へと入り込み、右足ボレーで強烈にボールを叩いた。しっかりと枠内に飛んだが相手GKの好セーブに遭い、スタジアムは特大のため息に包まれた。

 ザンクト・パウリは前半を1失点でしのいでいたが、後半に3ゴールを献上。発煙筒の煙で2度中断し、1度は選手・スタッフが全員屋内への引き上げを命じられた“熱暴走”の試合は、2度目のピッチ上空へのロケット花火の発射により、アディショナルタイム突入直後に終了となった。

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 ピッチから引き上げてきた直後の宮市は、荒れた試合と残念な結果にも、冷静だった。

「予想以上に向こうが良かったというか。ミーティングで聞いていた以上にすごく良い動きをしてきて、大変でしたね」

 自身のシュートシーンについても、「あそこで点を入れていたら流れも変わっていたと思いますが、ゲーム展開的に向こうが1枚も2枚も上手でしたね」と、力負けであることを認めていた。

 だが、ザンクト・パウリでの日々を楽しみ、ドイツの熱さも十分に堪能しているようだ。

 試合後の取材用のミックスゾーンとなっていたのは、ピッチとロッカールームをつなぐトンネル内部。ザンクト・パウリの象徴であるドクロが、ライトで赤く浮かび上がっている。

「(ダービーの雰囲気は)特別ですよね。スタンドの雰囲気もそうだし、こんなロッカールームも他にはないし。サッカーもすごく激しい部分があって、そういう点は全然違うものがありますね」

「ここからしっかり勝ち点を取っていければ、(プレーオフ進出の)チャンスはあると思います」。そう宮市は話したが、ザンクト・パウリは続く試合にも0-4で敗れた。

 ダービーの敗戦が、歯車を狂わせたかにみえた。しかし、3位のウニオン・ベルリンも連敗し、プレーオフ進出ラインに3ポイント差と、「戦線」に生き残り続けている。

 宮市が何度も大ケガを乗り越えてきたように――。ザンクト・パウリは、前進を続ける。

バス停に張られたシールには、「ハンブルクは茶色と白」とある。街を歓喜とクラブカラーに染め上げられるか(筆者撮影)
バス停に張られたシールには、「ハンブルクは茶色と白」とある。街を歓喜とクラブカラーに染め上げられるか(筆者撮影)
フリーランス・ライター/編集者/翻訳家

1975年生まれ。新聞社で少年サッカーから高校ラグビー、決勝含む日韓W杯、中村俊輔の国外挑戦までと、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を約3年務め、同サイトの日本での人気確立・発展に尽力。現在はライター・編集者・翻訳家としてサッカーとスポーツ、その周辺を追い続ける。

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