平均年収3万円の国からやって来たJリーガー

ユニフォームのエンブレムにキスをするジャブラニ・リンジェ(筆者撮影)

マラウイって、どこ?

「ニホンノ、ミナサマ、コンニチハ」「スキナ、タベモノハ…」

隣に座った通訳が、「伝わりましたでしょうか?」と苦笑いする。

懸命にトライした日本語は正直に言って一部聞き取れなかったが、新天地に挑む選手の中で表裏一体であろう喜びと緊張は十分伝わってきた。

Jリーグ3部(J3)を戦うY.S.C.C.は、新戦力としてジャブラニ・リンジェを獲得した。Jリーグで初めてとなる、マラウイ共和国の選手である。

5日の入団会見に臨んだリンジェは、日本人選手でベストの存在として、香川真司の名を挙げた。特にマンチェスター・ユナイテッド時代の印象が強いそうだが、Jリーガーなど、香川以外の選手の名前は、出てこないようだった。それも当然だろう。マラウイでJリーグの情報を得ることは、相当に難しいに違いない。

「中国とごちゃ混ぜになっていると思いますよ」。リンジェの前所属クラブであるビィ・フォアード ワンダラーズFCのスポンサーで、今回の日本移籍を働きかけた株式会社ビィ・フォアードの広報担当者は、マラウイ人が持つ日本のイメージをそう語って苦笑する。だが、そしるようなことなどできない。こちらだって、マラウイの場所さえろくに知らなかったのだから。正直に言えば、その国名さえも。

モザンビークやザンビアに囲まれて、マラウイ共和国はアフリカ大陸東南部に位置する。プロサッカーは2部リーグで構成されており、その人気は「とんでもないですよ」(前述の広報担当者、以下同)。チケット代が20円ほどであることも手伝ってか、多い時には5万人がスタジアムのスタンドを埋めるという。いや、実際には、電気もほとんど通っておらず、明るい日中に楽しめるサッカーが、唯一の娯楽なのだそうだ。

マラウイのメディアは2015年、世界銀行の調査による国民の平均所得が世界最低と位置付けられたと報じた。当時算出された1人あたりの平均年間所得は250米ドル。現在のレートで計算すれば、2万6500円ほどになる。「マラウイは、世界で2番目に貧しい国とも言われます」(同)。1番でも2番でも、おそらく悲しいくらいに差がないことだろう。チケット代の20円だって、決して安いとは言い切れない。

トップの選手でも、月給7万円強

国民最大にして唯一の娯楽となれば、やはりプロサッカーのピッチに立つ選手たちは子どもたちの目標であるはずだ。国内のトップの中のトップの選手で、月収は「700ドルくらい」(同)。1カ月に7万5000円以上稼ぐには、他国で挑戦することになる。

リンジェによると、国境を2つか3つ越えて南アフリカへ向かうのがポピュラーな道だという。今回、国境どころか海も赤道も越えてやって来た23歳のマラウイ代表MFの興奮は、どれほどのものだろうか。「日本でサッカーができることが決まり、とても幸せ」との言葉は、お世辞には聞こえない。

アフリカの選手と聞くと、高い身体能力をイメージしがちだが、Y.S.C.C.の吉野次郎理事長によると、技術の高さを活かして攻撃にオールマイティに力を発揮できる選手だそうだ。本人は「ドリブルとシュートを見せたい」と意気込む。

最新のFIFAランキングでマラウイ代表を探すと、124位にランクされている。近くの順位では120位に北朝鮮、121位にニュージーランド、129位にタイといった国が位置づけられている。今季開幕早々にJリーグでアジアの選手が活躍したことを考えれば、リンジェが“何か”を見せてくれても何ら驚きではない。

トライアルで来日した昨年12月や、開幕した今季のJ1やJ2も見たというリンジェは、「上のカテゴリーでも、やれると思う。日本でプレーして、キャリアアップしたい。でも、ステップ・バイ・ステップだ」と、野心と冷静さを交互にのぞかせる。

吉野理事長は「僕らにとっても未知数だった」と、初のマラウイ人Jリーガーとの出会いを振り返る。未知数同士の邂逅だからこそ、新しい何かが生まれる期待が高まる。