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サッカーは試合が主役。「世界記録」を更新した名勝負CL準決勝マンC対R・マドリードから日本が学ぶこと

杉山茂樹スポーツライター
スーパーゴールを決めたヴィニシウス(写真:ロイター/アフロ)

 スコアを2-1とする決勝弾を鎌田大地が放ったヨーロッパリーグ(EL)準決勝、ウエストハム対アイントラハト・フランクフルトの第1戦。鎌田の活躍は喜ばしい限りだが、その前日、前々日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)準決勝2試合(マンチェスター・シティ対レアル・マドリード、リバプール対ビジャレアル)に続いて観戦した者は、諸手を挙げて喜ぶ気持ちが湧かなかったのではないか。同時に、別種の感慨が込み上げてきたのではないだろうか。

 たとえば、何十年前か前の試合の映像を見た時、古さを何に覚えるかと言えば、ピッチ上に漂うユルユル感、スカスカ感だろう。緩いか厳しいか。時代の推移は、ボール保持者と守備側の関係に見て取ることができる。

 1986年メキシコW杯準々決勝、アステカ・スタジアムで行われたイングランド対アルゼンチン戦と言えば、マラドーナが60m5人抜きのスーパーゴールを決めた試合として知られるが、当時、現場でそのシーンに遭遇し、興奮の極地に誘われた筆者が、いま映像で振り返った時、まず目が行くのは、イングランド選手の対応の悪さになる。今日の守備者ならマラドーナのスーパープレーは止められていたのではないかと、思いが巡る。

 CL準決勝2試合を見た翌日に行われたウエストハム対フランクフルトは、まさに何年か前の映像を見せられたかのようだった。緩い。スカスカ。3-4-2-1の2シャドーの一角を担いながら、アタッカーと言うより中盤に下がってプレーすることが多かった鎌田。得点に加え、安定したボール操作で、勝利に貢献した彼が、前日、前々日のCL準決勝と同程度のプレスを浴びても、そのプレーを貫くことができただろうか。想像したくなる。

活躍の鎌田大地
活躍の鎌田大地写真:ロイター/アフロ

 EL準決勝は、さながら5年以上前の試合に見えた。CLとELの間に潜むレベル差を実感することになった。CLとELは、言ってみれば欧州の1部リーグと2部リーグの関係だ。CLの準決勝は世界の最先端であることを意味している。5年以上の差を感じた理由は、第2グループのレベルが落ちたからではなく、先頭のレベルが上昇したからだと見る。

 世界記録を更新した瞬間に遭遇した気分なのだ。CL準決勝2試合のうち、26日火曜日(現地時間)に行われたマンチェスター・シティ対レアル・マドリード戦の方になるが、結果は4-3。シティが撃ち合いの末、先勝した試合である。

 報道に逐一、目を通したわけではないが、シティが接戦を制し先勝したというニュースは目に付いた。しかし、日本在住者がこの試合を見て何に一番、衝撃を覚えたかと言えば、4-3という結果ではない。レベルだろう。それこそが日本のメディアが触れるべき点ではないか。日本人は、イングランド人、スペイン人、あるいはCLの舞台である欧州の人々とは違う。そこから遠く離れた極東の地に暮らす民族だ。出場している選手もいない。出場機会に恵まれない南野拓実をその数に加えるなら話は別だが、少なくとも当事者とは言えない。観戦ならぬ、鑑賞する側にある。外電をそのまま伝え、現地人と一緒になり、結果に対して一喜一憂する必要は本来ないはずだ。

 さらに、鑑賞という視点に立てば、この試合が名勝負であったことも特筆すべき情報になる。当事者には結果がすべてになるが、我々は必ずしもそうではない。欧州人とは視点が違うはず。我々が欧州人と同じ視点でこの4-3の試合と向き合うことは、立ち位置的におかしなことなのだ。

ミリトン対ジェズスのブラジル対決
ミリトン対ジェズスのブラジル対決写真:ロイター/アフロ

 サッカーの名勝負ほど娯楽性に富んだものはない。世界でサッカーが断トツの一番人気を誇る理由であると考える。シティ対レアル・マドリード戦は、これまでに類を見ないハイレベルで、娯楽的な試合だったのだ。世界新記録誕生の瞬間に遭遇した気分だと先述したが、サッカー的に言うならば、世界最高峰のエンターテインメントに遭遇した気分である。

 シティが前半11分までに、ケビン・デブライネとガブリエル・ジェズスのゴールで2-0としたとき、4-3というスコアを予想した人はどれほどいただろうか。その後もリヤド・マフレズ、フィル・フォーデンが決定的なチャンスを掴んでいた。流れは完全にホームのシティ側に傾いていた。

 しかし、前半33分、左SBフェルランド・メンディのクロスボールをカリム・ベンゼマが左足で合わせ、レアル・マドリードが2-1と1点差に詰め寄った頃から、風向きは変わっていく。名勝負になる予感は高まっていった。

 ベンゼマの鬼気迫るこの超高度な左足シュートにも痺れたが、フォーデンの追加点が決まりシティに3-1とされたその2分後にあたる後半11分、ヴィニシウス・ジュニオールが決めた3-2とするゴールは、それ以上だった。レアル・マドリードから、クリスティアーノ・ロナウドが抜けて4シーズン経つが、その穴が完全に埋まったことを意味する、超弩級のスーパーゴールだった。

フォーデンとベルナルド・シルバ
フォーデンとベルナルド・シルバ写真:ロイター/アフロ

 しかし、シティがレアル・マドリードの追い上げにタジタジなったわけでもない。両者とも秀逸なサッカーを展開した。しかも凄まじい撃ち合い。斬るか斬られるかのつば競り合いを演じた。サッカーの試合においては、なかなか見られない現象である。まさにデッドヒートを繰り広げながら、4-3でゴールしたという印象だ。ほどなくして筆者は、過去最高レベルの戦いであることに気付かされることになった。

 最近のサッカー報道が忘れている視点だと、繰り返し強調したい。試合は勝ち負けという結果がすべてではないのだ。当事者にはそれが最大の関心事になるが、第3者は違う。面白いか否か。「面白いサッカーをしても勝たなくては意味がない」と言う人への反論でもある。主役は試合。どちらかのチームではない。

 W杯についても同じことが言える。日本戦はともかく、外国同士の戦いは、どちらかの勝利より、試合が面白くになることを期待する人の方が多数派だ。世界のサッカーファンのためにも、日本はW杯本大会でレベルの高い、よりよいサッカーを披露する必要がある。シティ対レアル・マドリードの世界記録を更新する、かつてない名勝負を見ながら、サッカーの魅力について再認識させられた次第である。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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