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川崎対横浜FM。ケビン・マスカット監督が鬼木達監督に勝る点と、森保監督につける薬

杉山茂樹スポーツライター
ケビン・マスカット監督(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 21日土曜日。首位を行く川崎フロンターレが、サンフレッチェ広島に1-1で引き分けたのに対し、2位横浜F・マリノスはベガルタ仙台に5-0で大勝。その結果、両者の勝ち点差は4に接近した。横浜FMと3位、サガン鳥栖とは勝ち点差が15あるので、2021シーズンのJ1リーグは、川崎と横浜FMのマッチレースの様相を呈している。

 とはいえ、脚色(あしいろ)の差は明白だ。「いっぱい」に見える川崎に対し、横浜FMには勢いを感じる。五輪期間の休みが明けてから、その傾向はより顕著になっている。1勝2分の川崎に対し、横浜FMは3勝1分。

 両者の勝ち点差は、アジアチャンピオンズリーグに出場した川崎が当初、横浜FMより多く試合数を消化していたことも手伝い、20ポイントまで開いていた。消化試合数が接近するにつれ、勝ち点差も接近したわけだが、川崎にとって痛かったのは、その間に、三笘薫と田中碧がチームを去ったことだ。怪我から復帰した大島僚太が、五輪前に再び負傷。戦列を離れていることも輪を掛ける。

 現在、決してよくないサッカーをしている川崎と、申し分のないサッカーを展開している横浜FM。両者は、横浜FMが優勝し、川崎が4位に終わった2019年シーズンを彷彿とさせる関係にある。

 横浜FMは、監督がアンジェ・ポステコグルーからケビン・マスカットに交代。その影響が心配されたが、この監督交代を機にむしろサッカーの質は向上した。攻撃的サッカー色をいっそう深めている印象だ。逆に川崎は、攻撃的サッカー色が減退。それを構成する各要素に問題点を垣間見ることができる。

 違いが端的になるのは、前線からのプレッシングだ。横浜FMは、相手ボールに転じるや、マイボール時と変わらぬテンションで追いかける。ピッチの各所にバランスよく、圧力を掛けることができている。

 そしてサイド攻撃だ。川崎とはスピード感、躍動感が違う。両ウイングと両SBの4人が、その4-2-3-1の4角を的確に形作り、そこを軸に、ピッチの各エリアをバランスよくカバーしているので、ポジションワークに穴が生まれない。相手ボールに転じた時、スピード感を活かしたプレスが、効率よく掛かりやすい仕組みになっている。

 川崎は逆に掛かりにくい状態にある。それは、4-3-3の右ウイング、家長昭博が真ん中に入り込む頻度が増していることと関係がある。不動の右ウイングがその場にいなければ、相手ボールに転じた際、プレスに支障が生じる。相手に右サイドを突かれやすくなる。またマイボール時は、攻撃が真ん中に偏りやすくなる。そのうえ、右サイドで数的不利に陥るので、右SB山根視来は孤立。その立ち位置は低くなり、攻め上がりも期待しにくくなる。

 もともと、家長は真ん中に入り込む傾向が強い選手だった。右(逆)サイドまで進出するケースさえあった。しかしその頻度は昨季、そして今季の途中まで大きく減っていた。左ウイングに三笘が台頭したことと、それは深い関係がある。三笘が左サイドでビッグプレーを披露すれば、家長が少なくとも同サイドまで出張していく必然性は薄れる。その結果、左右のバランスを多少なりとも意識することになれば、中央付近にもポジション移動しにくくなる。

 だが、三笘がチームを離れ、真ん中で存在感を発揮していた田中も、ほぼ同じタイミングで欧州へ渡った。大島の復帰も遅れている。チーム内における家長の存在感は増すばかりだ。それが家長のポジションワークに端的に表れていると言うべきだろう。その結果、川崎は左右のバランスを崩すことになった。同時に、家長がボールに触る回数も増えたので、攻撃は彼のテンポ、リズムで進みがちだ。チーム内に、家長色が浸透した状態にある。

 そこで、スピード感溢れる横浜FMのサッカーを目の当たりにすると、両者の接近に必然性を覚える。タッチラインの際に立つ鬼木達監督は、この劣勢をどう見ているのだろうか。

鬼木達監督
鬼木達監督写真:西村尚己/アフロスポーツ

 もっとも、三笘と田中がチームを離れ、欧州のクラブに移籍することは、シーズン当初からある程度読めていた。しかし、クラブは先を見越した補強をしなかった。地味な選手の獲得に終始した。ジョアン・シミッチ、さらには最近、売り出し中の20歳の左利きウインガー、宮城天はともかく、遠野大弥、橘田健人、塚川孝輝、小塚和季らは好選手かもしれないが、J1の優勝チームでコンスタントに活躍する、代表級の選手かと言えば疑問が残る。外国人枠もチームとして満たすことができていない。

 一方で、川崎の鬼木監督は、5人の交代枠を使い切る割合が高い監督として知られる。選手にとっては、高いモチベーションを保ちやすい歓迎すべき監督だ。高揚感を高めた選手が、ノリよくプレーすれば、チームにプラスアルファの力が働く。1-0とか2-1が平均的なスコアであるサッカーにおいて、この目に見えない力こそが、勝負を左右する重要な要素になる。川崎にあって森保ジャパンにはない魅力と、記したことがあるが、これぞまさに鬼木サッカーの真骨頂になる。横浜FMに猛追されている割には、チームの精神状態が良好そうに見える理由かもしれない。

 しかし、この案件では、横浜FMも負けていない。ケビン・マスカット監督も、いかにも監督力の高そうな選手交代をする。

 就任して5試合。送り込んだ交代選手は計25人で、そのプレー時間は併せて536分に及ぶ。過去5試合、交代選手を24人送り込み、彼らに393分プレーさせた鬼木監督と比較すれば、差は歴然だ。1人の交代選手がプレーした1試合あたりの平均時間は、横浜FMが21.4分であるのに対し、川崎は16.4分。交代選手1人あたりの平均出場時間は、それぞれで5分も違う。

 チーム一丸になりやすい、全員サッカーを繰り広げている横浜FM。精神面でも川崎に勝っていると考えるのが自然だ。この流れが維持されれば、横浜FMが勝ち点4差を逆転する可能は高いと考える。

 2017年、2018年シーズンを連覇した川崎。その攻撃的サッカーの魅力を、横浜FMは2019年シーズン、あっさり更新した。しかし、翌2020年シーズン、今度は川崎がその座を奪還。攻撃的サッカーの魅力を見せつけた。

 川崎対横浜FM。2021年の対決はどうなるのか。横浜は川崎が築いた攻撃的サッカーの魅力を再度、更新することができるか。Jリーグの発展のためにも、日本代表のサッカーを刺激する意味でも、両者は良質な攻撃的サッカーで、デッドヒートを展開して欲しいものである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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