川崎が強すぎるのか。FC東京が弱いのか。東京が川崎にスコア(2-4)以上の差で敗れた理由

(写真:アフロスポーツ)

 スコアは2-4だったが、内容的にはもっと開きのある試合だった。11日に行われたFC東京対川崎フロンターレの一戦だ。別名、多摩川クラシコ。しかし味の素スタジアムの現場で、多摩川を挟んで宿敵同士が睨み合うという緊迫した構図を、拝むことはできなかった。

 FC東京と川崎は、規模が拮抗したクラブだ。選手の人件費においても、それに基づく選手のクオリティにおいても大差がない。だからこそ、ピッチ上の差、サッカーの質の差は露わになるのだ。両者の対照的な関係が、改めて露呈した一戦と言える。

 大差をつけられたFC東京側は、この現実をどう見るか。この日、そのサポーター席にこだましたのは拍手のみ。コロナ禍のスタンドにおいて、不満を表現する手段はない。声を発せずにブーイングをする方法はないものか。ピッチ上の実態と乖離した味スタのスタンド風景を眺めていると、あらぬ事に考えは及んでいった。

 ボールを支配する川崎に対し、カウンターで対抗するFC東京。ピッチに描かれた図を一言でいうならそうなるが、それぞれの違いについてもう一歩踏み込めば、奪われたボールを奪い返す早さに大きな差があることが浮き彫りになる。

 カウンター(奇襲)攻撃主体のFC東京は、もともとボールを失いやすい特性があるが、ここで気になるのは失った後だった。奪い返すまでに時間が掛かる。

 奪われたらしばらく守る。攻撃の際、縦方向に速くボールを運ぶFWに、MF、DFが等間隔で追随していきにくいので、FC東京は陣形が縦長になりがちだ。奪われた瞬間、中盤が間延びした状態にあることが多い。後半なかば過ぎのような状態に陥りやすい。したがってボールを失うと、川崎にやすやすと前進を許す。1回攻めたら必ず攻め返される。

 川崎はまったくその逆で、ボールを奪われても、奪い返すまでにそう時間を要さない。奪われた瞬間、チームとして奪う態勢が取れているからだ。攻守の切りかえが早い、と言うよりも、攻守に切りかえがない。攻と守を仕分けずに、ひとつの流れとして、連綿と集団でボールに反応している。

 したがって、奪われるや、オートマチックに奪い返しに掛かることができる。落胆することなく、奪われたその足で、ボールホルダーを追い詰める。2人目、3人目がそれに続く。ナチュラルな行為としてそれが染みついている。

 比較対象はFC東京に限らない。現日本代表よりもはるかに上。日本で最も今日的と言いたくなるサッカーを展開している。

 一方、FC東京は、川崎のボールを奪っても、なかなか前進することができない。次から次へと目の前に待ち構える障害物に手を焼くことになる。同チームの攻撃は半分カウンター的だと先述したが、そうならざるを得ないのだ。攻撃は通常よりいっそう雑になる。ミスが生じやすいサッカーになる。

 逆に川崎は、ボールを奪えば、余裕を持ってパスを回すことができる。FC東京の攻守が連結していないので、マイボールに転じた瞬間、直ぐにプレッシャーを浴びにくい。

 言い換えるならば、奪われることを想定しつつ、攻めながら守っている。あるいは、奪うことを想定しながら、守りながら攻めている。そうした訓練が行き届いた、サッカーの本質に迫るサッカーを実践している。パスがよく繋がる理由は、選手の技量が高いからだけではないのだ。

「試合で主役となるのはボールだ」とは、マンチェスター・シティで現在、ジョゼップ・グアルディオラ監督の下でコーチをしている、フアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)が、こちらに語った台詞だが、川崎は、まさにその例えを彷彿とさせるサッカーをしている。

 ボールに対して、マイボール時も、相手ボール時も、奪っても、奪われても、喜んだり、悲しんだりせず、ボールを中心に一定の感情でプレーしている。「さあ攻めるぞー、さあここは守るぞー」を、FC東京的な思考とするならば、そうではないサッカーだ。

 パスを繋ぐサッカーか、縦に速いサッカーか。サッカーのタイプを表すとき、よく用いられるのはこの二択だ。川崎は前者でFC東京は後者という区分けになるが、この言い回しは、かなり表層的だ。今日的なサッカーの分類方法とは言い難い。昨日のFC東京対川崎を語る場合はとりわけだ。FC東京の縦に速いサッカーが、川崎のパスサッカーに翻弄された試合と言ってしまえば、ピント外れの分析になる。

 攻撃と守備が連続しているのはどっちかを問うた方が、両者の違いは断然、鮮明になる。川崎が昨季に続き首位を走る理由、FC東京が、相変わらず優勝争いに絡めない理由は、浮き彫りになると思う。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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