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鬼木達Vs.宮本恒靖。天皇杯決勝一番の見どころがズバリ、両日本人監督の対決である理由

杉山茂樹スポーツライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 川崎フロンターレ対ガンバ大阪。元日に行われる天皇杯決勝は、Jリーグの1位対2位の顔合わせとなった。今大会に参加したJ1勢はこの2チームに限られたので、これは順当すぎる結果だ。1月4日に行われるルヴァンカップ決勝=FC東京(6位)対柏レイソル(7位)の方が、意外性に富んだカップ戦の決勝らしい対決に見える。

 しかし、試合のレベル、グレードが高そうなのはやはり川崎対G大阪だ。王者決定戦に相応しい顔合わせだと期待したくなる。

 今季のリーグ戦の成績は川崎の2戦2勝。G大阪ホームの第1戦が1-0、川崎ホームの第2戦が5-0と、第1戦と第2戦で、結果も内容も大きく違っていた。

 第1戦は僅差で、第2戦は大差。異なっていたのはG大阪の布陣だ。宮本恒靖監督は、シーズン前半、5バックになりやすい守備的な3-3-2-2で戦っていた。川崎との第1戦も同様の布陣で戦っている。だが、シーズン後半から一転した。より攻撃的な4-2-3-1に近い4-4-2を採用。第2戦はつまり、攻撃的な川崎に撃ち合いを挑んだ末、0-5で大敗した格好だった。

 ただし、G大阪の成績そのものは後半の方が断然よかった。9位まで下がった順位は布陣変更後、急上昇。残り19試合を13勝3分3敗で乗り切り、まさに一気のまくりで、順位を2位まで浮上させた。0-5で敗れた川崎戦は、そうした流れの中で発生した例外的な事例。言ってみれば事故だった。

 宮本監督は、天皇杯決勝対川崎戦をどちらのスタイルで戦うのか。G大阪との第1戦に限らず川崎は、後ろでボールを回しながら少人数で攻めてくる守備的なサッカーを、どちらかと言えば苦手にする。それだけに宮本監督が選択する布陣に関心が行く。

 川崎と同じような攻撃的サッカーで臨む方が、試合は噛み合う。ストレートな撃ち合いになる。G大阪は第2戦で、撃ち合いを挑んだ結果、0-5と大敗した。だが、攻撃的なスタイルへの変更は、他の試合では奏功した。2位まで躍進した一番の要因と言ってもいいほどだ。

 迷うところだ。正面からぶつかるか。変化ワザで行くか。一発勝負のカップ戦決勝であるだけになおさらだ。個人的には、正面から向かって行くことを切望する。その方がたとえ試合に敗れても、来季に繋がる。もちろん、勝利だって望めないわけではない。より攻撃的に行く。目には目を……。やられたらやり返せ。倍返しだ……ではないが、川崎を上回る攻撃的スタイルで迫った方が、川崎にとっては嫌なはずだ。破れかぶれの作戦に映るかもしれないが、実はそうではない。

 川崎の攻撃的サッカー指数を8とすれば、G大阪は6だ。現在の両者には2レベル分の差がある。その結果が0-5の大敗だった。しかし、川崎の8に対してG大阪が9で臨んだらどうだろうか。G大阪が川崎を上回る攻撃的なサッカーを展開すれば、試合は違った方向に発展していくと確信する。

 川崎は昨季4-2-3-1だった布陣を今季、4-3-3に変えた。より攻撃的なスタイルで今季を戦った。

 違いが顕著なのは両ウイングだ。4-2-3-1時代より、サイドに張り出す時間が長くなっている。

 出場機会が多いのは、家長昭博(右)と三笘薫(左)。昨季よりパワーアップした今季の川崎サッカーを語る上で、欠かせない2人になる。家長と三笘をどう抑えるか。G大阪が一番に考えるべきはここだと思う。自軍ゴールからできるだけ離れた場所(低い位置)でプレーさせることだ。そのためには、G大阪の両サイドバック(SB)が高い位置を取る必要がある。家長、三笘がそのディフェンスをするために、ポジションを何メートルか下げてくれればしめたものだ。

 両SBが高い位置を取るためには、両サイドハーフも高い位置を取る必要がある。小野瀬康介、福田湧矢(右)、倉田秋(左)だ。この2人が高い位置を取れば、川崎の両SB、山根視来(右)、車屋紳太郎(左)は逆に低くなる。

 両サイドにおける2対2の関係で、G大阪は川崎より攻撃的な姿勢を貫けるか。これが実現できれば、試合は緊迫した撃ち合いになる。

 勝って当然なのは川崎。大袈裟に言えば、それは絶対に負けられない戦いだ。プレッシャーが掛かるのは鬼木達監督。のびのびできるのは宮本監督だ。川崎が天皇杯を獲得し2冠を達成しても、鬼木監督の評価が改めて上がることはない。名を挙げるチャンスが巡ってきているのは宮本監督だ。

 多くのファンが求めているのは好試合だ。川崎の楽勝劇ではない。G大阪の頑張りだ。宮本采配は鬼木采配以上に注目を集めている。

 今年のJリーグは川崎の一人勝ちだった。Jリーグが発表した年間ベスト11にも川崎の選手は9人含まれていた。しかし、川崎の中で最も表彰に値する人物は鬼木監督である。鬼木采配こそが川崎優勝の最大の要因と言い切りたい筆者にとって、J1優秀監督賞が鬼木監督の手に渡らなかったことは、どうにも納得がいかない。

 受賞者は宮本監督だった。優勝監督ではなく、18ポイントもの大差で川崎の後塵を拝した2位監督の頭上に輝いた。鬼木監督の胸中はいかがなものだろうか。となると鬼木監督を思いきり応援したくなるが、一方で好試合を願おうとすれば、宮本監督の背中を押したくなる。

 鬼木対宮本。天皇杯決勝の一番の見どころは日本人監督対決にあり。そう言いたくなる理由である。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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