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CLリバプール敗退劇で鮮明になった日本代表監督に求められる資質と、ダークホース誕生のメカニズム

杉山茂樹スポーツライター
リバプール対アトレティコ。延長後半8分、勝負がほぼ決した段階で投入された南野拓実(写真:ロイター/アフロ)

 欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、決勝トーナメント1回戦全8試合中4試合を終えた段階で中断を余儀なくされた。これからが本番。CLの一番の魅力は決勝トーナメントの戦いにありと思って止まないだけに残念である。

 とはいえ、これまでに終了した決勝トーナメント1回戦もその例に漏れず見どころ満載だった。順当な結果に終わったのは、パリサンジェルマン対ドルトムント(合計スコア3-2でパリSGの勝利)のみ。他(下記)の3試合は下馬評を覆す番狂わせとなった。 

       

 アタランタ8-2バレンシア。ライプチヒ4-0トッテナム・ホットスパー。アトレティコ・マドリー4-2リバプール(いずれもホーム&アウェー2試合の合計スコア)。

 CLは国別対抗で争われるW杯の、組替え戦のようなものだ。32チームを8組に分けグループリーグを行い、16強で決勝トーナメントを争う構図はW杯と同じ。最も異なるのは大会の期間と決勝戦以外ホーム&アウェーで争われる点だが、世界のトップ選手が集結する大会であることに変わりはない。

 4年に1度のW杯で、ベスト16の壁をクリアして8強入りを狙いたい日本にとって、このCLの決勝トーナメント1回戦は、到達しておきたいレベルに値する。日本代表の現況と比較してどうなのか。W杯への期待値を推し量るバロメーターでもある。

 番狂わせを起こすことができそうか。日本代表と重ね合わせて見るならば、下馬評の低い側に立って観戦することが理に適う。ドルトムント、アタランタ、ライプチヒ、アトレティコ。そこでドルトムントを除く3チームが番狂わせを起こした。

 中でも衝撃的だった試合は、前季の覇者リバプールがアトレティコ・マドリーに合計スコア2-4で敗れた一戦だ。

 試合は、第1戦のアウェーを0-1で折り返したリバプールが、第2戦の前半43分、同点に追いつき延長へ。そしてその前半4分、リバプールは逆転に成功し、そのまま順当に勝ちきるかに見えた。

 ところがその3分後、リバプールはアウェーゴールを許し2-2とされる。事実上の逆転弾を浴び、アトレティコに試合をひっくり返された。

 さらにその7分後、延長前半終了間際に駄目押しゴールを決められてしまう。リバプールが勝利するためにはこの瞬間、2点が必要になった。

 リバプールのユルゲン・クロップ監督はその時、交代のカードを1枚しか切っていなかった。延長に入れば計4枚に増える交代のカードを3枚余した状態で、2ゴールを入れ返さなければ敗戦に追い込まれる苦境に立たされた。交代を躊躇っている間に、決定的なリードを許してしまった格好だ。

 その姿を見て蘇ったのは、2018年ロシアW杯決勝トーナメント1回戦だ。ラストワンプレーで大逆転負けした日本対ベルギー戦である。乾貴士、原口元気の連続ゴールで2-0とリードした日本。しかし、後半24分に1点差とされ、後半29分に同点弾を浴びた。

 西野朗監督が交代のカードを始めて切ったのはその7分後。後半36分で、本田圭佑と山口蛍の2枚同時交代だった。このタイミングも遅かったが、それ以上に問題だったのは、3人目の交代カードを切ることなく後半のロスタイムに逆転弾を浴びたことだ。時間稼ぎを兼ねた3人目の交代をタイミングよく行っていれば、同点のまま延長戦に進むことはできたはず。そうなれば、新ルールに基づき4人目の交代カードを切ることもできた。

 サッカー選手に求められる一番の要素は、判断の速さだとされるが、監督采配にもそれはあてはまる。交代のカードを切るタイミング及びスピード感が、とりわけ「決勝トーナメント」を戦う監督には不可欠になる。

 もう2点取らなければ逆転はない状況になって、ファビーニョ(2人目)、ディボック・オリギ(3人目)、南野拓実(4人目)を投入したクロップの采配しかりだ。もう一歩、早い段階(合計スコア2-2の段階)で、交代を行うべきだった。流れを変える必要があった。交代のタイミングを大きく外したことが、火に油を注ぐ結果となった。

 西野監督はベルギー戦後、交代が遅れた理由、結局2人しか交代枠を使わなかった理由について「どこをどう代えればいいのか思い浮かばなかった」と述べている。ではなぜ、西野監督はそうした状態に陥ったか。その場面に相応しい交代選手の姿をイメージできなかったのか。こう言っては申し訳ないが、そこに「決勝トーナメント」を戦う監督としての、経験値の低さを見た気がする。刻々と変化する状況の中、交代の選手の姿も、それに呼応するように浮かばなければ失格だ。姿が浮かんだら、スパッと交代の決断を下す、瞬発力も不可欠になる。

 リバプールはディフェンディングチャンピオンであり、今季も優勝候補の筆頭に挙げられていた。クロップ監督にはつまり、昨季優勝した実績があった。アトレティコとの関係も下馬評で大きく上回っていた。

 しかし、強者の監督としてCLを戦った経験はなかった。“絶対に負けられない戦い”を強いられる側にクロップが立ったのは今季が初。その決勝トーナメント初戦で、采配が慎重になるのは仕方のない話だったのかもしれない。手をこまねいているうちに決定的なゴールを奪われてしまった格好だ。

 監督には挑戦者の立場で輝く監督もいれば、王者として守らせたら強い監督もいる。クロップが似合うのは前者の姿ではないのか。前回覇者というリバプールの立ち位置と、そのキャラとの間にはギャップがあるように思えた。この苦い経験を糧にクロップは、守らせても強い監督になれるのか、注目したいところだが、この流れで言えば、アトレティコのディエゴ・シメオネ監督も、挑戦者の立場で輝く監督となる。

 アトレティコは、シメオネの監督としてのキャラと、チームの立ち位置とが一致していた。そこにリバプールにはない強みがあった。番狂わせの主役となった最大の要因だ。

 シメオネはさらに選手交代も的中させた。交代で投入したマルコス・ジョレンテが2ゴールを叩き出す大活躍を演じれば、同じく交代出場したアルバロ・モラタも延長後半15分に追加点をマーク。この第2戦で挙げた3点のアウェーゴールは、すべて交代選手によって叩き出されたものだった。

 勝利に直接関わった人数が多ければ多いほど、チームは勢いづく。交代選手の活躍で掴んだこの勝利は次戦の弾みになる。ダークホースが誕生するメカニズムを、この日のアトレティコに見た気がする。短期間で必勝パターンを作ったチームには、プラスアルファの力が働く。

 2人しかメンバーを代えなかったベルギー戦の西野采配は、そうした意味でも不満が残る。もしベルギーに勝利しても、チームにプラスアルファの勢いは生まれただろうか。西野監督は挑戦者として日本代表に相応しい監督だったのか。森保一監督はどうなのか。田嶋幸三会長は、彼を代表監督に選んだ理由について「日本で最も実績を残した監督だから」と言う。だがその実績は、挑戦者の立場でW杯に臨むことになる日本代表監督には特段、必要とされない、逆に足枷になる要素とは言えまいか。

 いかにしたら番狂わせを起こせるか。W杯でダークホース役を演じることができるか。選手交代が上手くない監督は、日本代表監督には不適格。CL決勝トーナメント1回戦、アトレティコがリバプールを下した一戦を見ていると、日本代表監督に求められる像が鮮明に浮かび上がるのであった。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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