2020年期待の星は20歳の安部裕葵。ジャマイカ戦で魅せたボールと“共鳴”する力

(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 大勝した最大の要因は日本のハイプレスにあり。日本U-22がジャマイカU-22に9-0で勝利した試合は、前線から相手とボールを激しく追いかける日本にジャマイカが混乱。半ばパニックに陥ったことで失点を重ねたと多くのメディアは報じている。

 しかし日本のサッカーは、高い位置からプレスを掛けにくい構造だ。相手に奪われた瞬間、攻撃の第一歩とされるそのサイドバック(SB)を、なにより自由にさせやすい特性がある。森保式3バック(3-4-2-1)の話だが、前の3人(2シャドーと1トップ)が、オーソドックスな3トップ型(4-2-3-1や4-3-3)に比べ、真ん中寄りでプレーするからだ。その構図は攻守が切り替わり、プレッシングに移る瞬間、そのままピッチに反映されることになる。

 相手が4バックの場合、前線の選手がプレッシャーを掛けるべき優先順位は、その4バックの特性に関与する。4人の中で前進する意欲が高いのは両SBだ。絶えず後ろを気にする必要がある真ん中で構えるセンターバックの2人ではない。

 SBを自由にすればサイドで数的不利に陥る。森保式3バックは(4-4-2で臨んだジャマイカU-22のように)、サイドアタッカーを両サイド各2枚擁す相手に対し、両サイド各1人(ウイングバック/WB)で対応する。つまり両サイドで後手を踏みやすい特性がある。

 前方にアタッカーが3人いるのに相手の両SBにプレスが掛からない。この局面の非効率性に、森保式3バックが一気に5バックになりやすい(守備的サッカーに陥りやすい)一番の原因が潜んでいる。

 ところがジャマイカU-22戦では、そうした非効率性は露呈しなかった。先のE1選手権の韓国戦とは、まるで異なる姿を描いた。

 前線からのプレッシャーが効いたという話になれば、1トップ(前田大然)2シャドー(旗手怜央、安部裕葵)の3人が、その立役者として理屈を超えた頑張りを見せたことになる。監督孝行という言い方もできる。この試合で2ゴールを奪った旗手が、翌日発表されたアジアU-23選手権(1月・タイ)のメンバーに選ばれたのは、当然といえば当然だ。

 試合後の会見で、前田の動きについて意見を聞かれたジャマイカのセオアド・ウィットモア監督は「9番(前田)もよかったけれど、10番(安部)もよかった」と、むしろ後者を讃えるような言い回しをした。

 安部と前田。流れの中からゴールを奪ったのは前田だ。PKの1点に止まった安部を活躍度で半歩リードしたかに見える。しかしこの日のMIPを挙げろと言われれば、微妙な選択ではあるが10番の安部を推したくなる。

 好ムードの発信源としての役割を担っていたからだ。

 ボールを奪われたら即、守備だ。プレッシングだと言われても、人間なかなかできるものではない。アタッカーであればなおさらだ。0コンマ1秒か2秒か、その間に落胆という感情が入るものだ。そこからエネルギーのベクトルを前方向に働かせること(プレッシング)は楽ではない。人間の本能に反する精神的にきつい作業になる。だが異なる2つの局面において、安部の様子に変化はなかった。

 そもそも、ボールを受けた瞬間、安部ほど楽しげにプレーする選手も珍しい。とりわけ日本人のアタッカーは、緊張したり、萎縮したり、失敗を恐れ自信なさげにプレーする選手が目立つ。そうした従来像が安部には見られない。シャープでけれんみのない俊敏な動きに加え、何かやってやるぞという果敢なムードを、小さな身体から発するようにプレーする。パッと辺りを活気づかせる特別な力を備えている。

 鹿島でデビューした当初から変わらぬ特性だ。何を隠そう筆者は、そのどこかプレーに余裕のあるアクションを一目見た瞬間から、この選手はやるぞとピンと閃き、これまでこの欄で幾度か原稿化してきたが、バルセロナという世界一のビッグクラブでプレーすることになってもその魅力は健在だ。むしろ増幅している様子である。いい感じで成長している。

「サッカーはボールが主役。相手ボールの時も、マイボールの時も、サッカー選手には常に、そのボールと共鳴することが求められている」とは、グアルディオラが師と仰ぐフアン・マヌエル・リージョがその昔、こちらに語ってくれたサッカーの考え方だ。その台詞を、マイボール時でも相手ボール時でも同じ精神状態でプレーするこの日の安部を見て、想起させられた次第である。

 安部はボールとまさに“共鳴”しながらプレーしていた。マイボ-ル時のみならずプレッシングにも楽しげに及んでいた。それがチーム全体に波及効果をもたらしていた。

 精神的なノリがプレーに与える影響の大きさを改めて示した試合だった。それがサッカーでは特に大きなウエイトを占めることを。

 

 ジャマイカU-22は、その煽りをまともに受けた格好だった。精神的なノリにまるで欠けるプレーをした。結果として日本は、森保式3バックの非効率性を露呈させることなく90分の戦いを終えた。

 安部はアジアU-23選手権のメンバーに選ばれていない。マリティモに所属する前田しかり。海外組で招集されたのはハーツに所属する食野亮太郎ただ一人だ。日本側に選手を長期間拘束する権利がないためだが、そうした裏の事情は、東京五輪本大会においても付いて回る。久保建英、堂安律、冨安健洋、板倉滉など、海外組の実力者ほど出場は微妙になる。

 安部もこの中に含まれるが、バルサから出場の許諾が得られたなら、アタッカーとして中心的な役割を果たすに違いない。

 0-2で惨敗したコロンビア戦(11月)。後半、4-2-3-1の3の列には左利きが3人(久保、堂安、三好康児)並んだ。堂安がベンチに下がった終盤には、これまた左利きの前田が投入された。バランス的に好ましい姿とは言えなかった。日本のアタッカー陣に、右利きが不足していることも安部には追い風となっている。

 A代表も同様。ライバルはリバプール入りした南野拓実になるが、安部がバルサで1軍昇格を果たせば、2人の立場は対等になる。クラブとしての名門度という点では、やはりバルサの方が上なので、立場は逆転する可能性さえある。

 2020年、最も目が離せない選手。安部はそう言いたくなる存在だ。攻守両面においてここまで快活にプレーできる選手はそういない。周囲に好影響をもたらすことができる、ノリのいい選手も珍しい。U-22に止まらず、沈滞する代表サッカーのムードまで一変させる好選手に育って欲しいものである。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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