岐路に立つ日本代表サッカー。E1選手権でスタイル激変。方向性はどこにいく

(写真:ロイター/アフロ)

 韓国の釜山で行われているE1選手権で、日本代表は中国、香港に連勝。特段、問題は発生していないように見える。日本代表サッカーが10年以上前に時計の針を戻そうとしている現況をいま、憂慮している人は思いのほか少ない。

 先日、J1優勝を飾った横浜F・マリノスに話は飛ぶ。その優勝決定後の会見でのことだった。以下のような質問が、監督のアンジェ・ポステコグルーに投げかけられた。

「攻撃的サッカーを続けることはとても難しいことだと思いますが、どのようなアプローチで浸透させたのか?」

 この日に限った話ではない。これまで、この手の質問をした人は多くいた。ポステコグルーに対してだけではない。攻撃的サッカーを標榜する監督が現れると、それを継続することの大変さを日本のメディアは決まって聞き出そうとする。攻撃的サッカーを特殊なサッカーと捉え、そこを切り口にしようとする。

 攻撃的サッカーが日本に浸透していないことの証である。実際、Jリーグにおいて横浜FM的なサッカーは珍しい存在だ。圧倒的な少数派として通っている。「さぞ大変だったでしょう」と訊ねる姿には、質問者の心のうちが透いて見える。それとは異なるエリアにいる人たちが抱きそうな疑問に聞こえてしまう。

 攻撃的サッカーという言い回しの問題もある。対するは守備的になるが、その攻撃的という言葉に抵抗を覚える人は少なくないはずだ。日本の一般社会において攻撃的は楽観的、対する守備的は悲観的な響きを持つ。派手と地味の関係にあると言ってもいい。好みはほぼ真っ二つに割れる。攻撃的に行きたいが、現実は守備的にならざるを得ないと考える方が、むしろ多数派になるだろう。

 守備的が現実的かつ慎重な姿勢を指すのに対し、攻撃的はともすると、冒険的で能天気、あるいはチャレンジングな姿勢となりがちだ。粗野で野蛮なものと捉えている人がいても不思議はない。日本社会において、攻撃的という言葉によいイメージを抱く人は思いのほか少ないと考えられる。

 サッカーもそうしたコンセプトで捉えられている気がする。そこに間違いの元が潜んでいる。日本のスポーツ報道にありがちな傾向は、その競技のコンセプトを他の競技のコンセプトに置き換えて語ろうとすることだ。それが伝達手法として分かりやすいものだと考えている節がある。置き換えられがちなのは野球だ。野球に例えて語られることがよくある。しかし野球とサッカーでは、守備と攻撃の概念が全く違う。それぞれの競技にはそれぞれのコンセプトがある。それぞれの競技にはそれぞれの文化がある。これは全ての競技に当てはまる話だ。サッカーならサッカーを別の競技のコンセプトで語るなと言いたい。

 かつて、攻撃的サッカーを唱えるヨハン・クライフを称賛する原稿を書くと、こんなリアクションを受けたことがあった。

「クライフって、野球界で言う長嶋茂雄のようなものなんでしょ」

 自分なりに頭の中を整理整頓したかったのだと思うが、何か別のものに置き換えて納得したがろうとする典型的な例だと思う。

 サッカーにおける攻撃的とは何か。守備的とは何か。少なくとも日本できちんと語られてきた経緯はない。なにより、攻撃的サッカー対守備的サッカーという対立軸が明確になったことがない。

 欧州には、それぞれの陣営が攻防を繰り返してきた歴史的経緯がある。その戦いに一定の終止符が打たれたのは90年代末の話で、勝利を飾ったのは攻撃的サッカーだった。それを機に守備的サッカーは衰退。欧州は、攻撃的サッカーの概念に収まるサッカーで8割方占められることになった。攻撃的サッカーの方が守備的サッカーより効率的だと判断されたからである。

 攻撃的サッカーが8割方を占めれば、もはやそれを攻撃的サッカーと定義する必要はなくなる。スタンダードなサッカーになる。その枠内で攻撃的か守備的かが論じられることが増えている。これが現在の姿だ。

 攻撃的サッカーがなぜ多数派を占めるに至ったか。それは、欧州サッカーの近代史を紐解くと、守備的サッカーが攻撃的サッカーより非効率的なものとして位置づけられることになった経緯を知ることができる。

 本場から遠く離れた日本には、そうした欧州の歴史的な経緯が情報として伝わることがなかった。いまなおその状態にある。遠く蚊帳の外に置かれている。攻撃的サッカーを、日本社会の一般論に置き換え、特殊なサッカーだとする人が、多数派を占める理由だろう。

 日本人の指導者で、その経緯を端的に説明することができる人は少ない。日本の現状に警鐘を鳴らす解説者、評論家も少ない。そうでないなら、ポステコグルーのサッカーに特段、目を奪われることはない。Jリーグのサッカーはもっと攻撃的になっているはずなのだ。世界的に見て、守備的に属するサッカーをするチームの割合がこれほど高いリーグも珍しいのである。離れ小島のような特殊な領域に置かれた状態にある。

 チャンピオンズリーグの各試合に目を向ければ、一目瞭然。攻撃的サッカーがまさに効率的な一般的なスタイルで、少しも冒険的なサッカーでないことが判明する。むしろ、後方に多くの人を割く守備的サッカーの方が一発狙いの冒険的サッカーに見えるほどだ。

 筆者が知る限り、日本の指導者の中で、そうした欧州の現実を知り、日本サッカーをもっと攻撃的に変えていかなければいけないと声を上げたのは、原博実(現Jリーグ副理事長)ぐらいしかいない。氏はさっそくFC東京の監督として、攻撃的サッカーを実践した。しかし、ナビスコ杯(ルヴァン杯の前身)で一度、優勝したものの、Jリーグでは大きな成果を出すことができなかった。

 攻撃的サッカーの旗振り役として、原氏が真価を発揮することになったのは、協会の技術委員長に就任してからだ。2010年南アW杯終了後、攻撃的サッカーをコンセプトに掲げ、次期代表監督探しを行った。ちなみに協会があるコンセプトに基づき、代表監督探しを行なったのはこの時が初めてになる。日本サッカーのあるべき方向性を、協会がここで初めて示したのである。遅まきながらではあるが、それは画期的な出来事と言えた。

 その結果、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチが代表監督に招聘された。ハリルホジッチは攻撃的サッカーの範疇に収まる監督だったのか。ザッケローニも中途半端だったのではないかとの疑念は残るが、それに基づいて監督探しが行われたことだけは事実だった。

 その後、技術委員長から専務理事に昇格した原氏だったが、会長選挙に立候補して落選。代表チーム強化の現場から去ることになった。ハリルホジッチを解任し、西野朗氏を新監督に招いたのは、原氏と会長選挙を戦い勝利した田嶋幸三氏だった。

 ロシアW杯で西野監督が披露したサッカーは十分攻撃的で、それまでの方向性は維持された。しかしこれは結果論とも言えた。就任直後に対戦したガーナとの親善マッチで西野監督は「代表チームはこれまでずっと4バックで戦ってきたので、3バックも試しておかなければ」と、5バックになりやすい守備的サッカーの定番とも言える3バックを採用。試合に敗れ、内容も芳しくなかったことから、本大会にはこれまでの方向性に則したサッカーで臨んだーーとの経緯がある。会見の中で西野監督は、攻撃的サッカーについて「極端なサッカー」と形容したこともあった。言ってみれば、極めて日本的な監督だった。

 ロシアW杯後、新監督に就任した森保一監督は、サンフレッチェ広島の監督時代、代表サッカーの従来の方向性とは異なる守備的に属する3バックで戦ってきた監督だ。ところが代表監督に就任すると、西野前監督同様、従来型の攻撃的に属するスタンダードなサッカーを実践した。途中で2試合ほど5バックになりやすい3バックを採用したことはあったが、現在行われているE1選手権に臨むまで、かつてのスタイルはほぼ封印された状態にあった。

 ただしコンセプトを問われると森保監督は毎度、言い淀むのだった。「3バックも、4バックも原理原則に変わりはない。攻守において連係、連動するサッカーを目指す」と、抽象論を繰り返すのみだった。

 原氏がコンセプトを明示して以降、協会が方向性を変更したと述べたことは一度もない。ところが森保監督は、現在開催中のE1選手権で、1戦目(中国戦)、2戦目(香港戦)と、従来とは異なる5バックになりやすい守備的サッカーに属する3バックで臨んでいる。

 相手が強くないため、その非効率性が露わになる瞬間はいまのところ少ない。メディアも守備的サッカーへシフトしかけていることを特段、問題視していない様子だ。移行はスムーズに行われようとしている。実際は、なし崩し的な移行であるにもかかわらず、だ。

 再び、独自の殻に篭ろうとしている日本サッカー。これでいいのかと言いたくなる。重箱の隅を突くような細かい話ではない。根本的な話である。関塚隆技術委員長あるいは田嶋会長には、説明が求められている。だが実際には、岐路に立たされているという認識さえ窺うことができない。その世界性、世界観を疑わざるを得ない代表サッカーを取り巻く現況を、嘆かずにはいられないのである。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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